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被害者の願い、知る権利保障への一歩――医療版事故調査委員会の設立に向けて

2009年11月16日

木下正一郎さん(弁護士・「患者の権利オンブズマン東京」副会長)

 医療版事故調査委員会(通称:医療版事故調)とは,医療事故が発生した場合に事故原因を調査し,再発防止を図る組織です。鉄道・航空機事故が起こったときに事故調査委員会が設置され調査が行われますが,その医療事故版です。今の日本には,医療事故が起こったとき,医学会が事故調査を行うことがありますが,制度上,事故調査を行う第三者機関は存在しません。これまで,第三者機関としての医療版事故調を創設しようという動きが,厚生労働省の検討会を中心に進んできました(厚労省案の組織名は医療安全調査委員会(仮称))。

 そもそも,医療事故に限らず,事故が起こったときにどのような対応がとられるのでしょうか。
 どのような分野でも事故が発生しないように日常的に安全対策がとられています。安全対策がとられていても不幸にして事故が発生することはあります。事故が発生したら,報告がなされ,原因究明・分析がなされます。そして,原因究明・分析に基づき,被害者対応がなされ,再発防止策が立てられます。再発防止に向け,行政処分が行われることもあります。例外的に重大な事故においては刑事捜査が開始され,場合によっては刑事処分が下されます。重要なのは再発防止策が日常的安全対策として行われ,同じ事故を繰り返さないということです。
 以上の事故対応において,その目的は,再発防止と適切な被害者対応にあると考えます。医療事故においても目的は同じで,この目的を達成するために医療事故調査を実施することが必要です。
 では適切な被害者対応というのは何でしょう。5つの願いということが言われますが,事故に遭うと,@原状回復,A真相究明,B謝罪,C再発防止,D損害賠償を実現して欲しいと願います。通常@原状回復は叶いません。事故が起これば,必ずと言ってよいほど,誰もがA真相究明=真実を知りたいと思います。特に医療の過程で不幸な事態が生じた場合,病気を治すために病院に行ったのに,なぜ死ななければならなかったのか?といった,いくつもの疑問が想起され,一見明白な他の事故に比べて真実を知りたいという願いが強くなると感じています。真実を知りたいという思いと行動は,法律的に見れば,知る権利の行使や準委任契約に基づく顛末報告義務の履行の場面といえますが,現実は,被害に遭った方々の切実な思いの発露なのです。この真実を知りたいという願いに応えることが,一番大事な被害者対応であると考えます。
 では,これまで医療事故が起こった場合に適切な事故対応がなされてきたでしょうか。これまで医療事故では報告・原因究明・分析がなされず,被害者対応と再発防止がおろそかにされてきました。そのため置き去りにされた被害者が,本来例外的であるはずの刑事捜査に期待し,医療者に対し刑事処分を求めていくという構図がありました。
 このような実情を正すには,医療事故において,事故調査を行って再発防止と被害者対応を適切に行うという本来の事故対応がきちんととられなければなりません。そのためには,公正中立性,専門性,透明性,独立性を備えた第三者機関の医療版事故調,これによる事故調査が必要なのです。
 また,調査の質の向上を目指すためにも,専門的組織の設立は必須です。質の高い調査に基づく再発防止によって,日本全体の医療事故防止・医療安全の向上が実現していくのです。
 ただし,組織のあり方については,いろいろな考え方があります。独立性を重視するなら,医療者を処分する権限を持つ厚労省から切り離し,例えば内閣府管轄の独立行政委員会として設置することが考えられます。一方で,医療の情報・問題をもっとも把握している厚労省から全く切り離して,本当にうまく機能するのかということも考える必要があります。

 さて,医療版事故調設立に向けた動きは,政権が変わり他の政策課題が優先される中,止まってしまっています。
 2009年の総選挙に先立ち発表された「民主党医療政策(詳細版)」では,「医療事故における『真相の究明』、『医療側の誠実な対応』、『事故の再発防止』を実現し、医療への信頼を高めます。」と謳っています。この民主党が選挙前に掲げた目的を実現するためには,どのような仕組みが最も良いのかについて今後の国会で徹底的に議論をして,早期に医療版事故調の設立を実現させて欲しいと考えます。
 医療安全を図っていくべきという意識は医療者にも患者にも根付いてきていて,その流れを止めることはできません。私達は医療事故の再発防止・医療安全の向上のため,第三者機関としての医療版事故調が設立されることを目指して引き続き活動していきます。皆様のご協力を心よりお願い致します。医療事故調査機関早期設立キャンペーンのホームページはこちら

◆木下正一郎(きのした しょういちろう)さんのプロフィール

 2001年に弁護士登録をし,医療問題弁護団に入団する。医療裁判,患者の権利の確立及び医療の安全に関わる運動に取り組む。日本弁護士連合会第51回人権擁護大会シンポジウム第2分科会実行委員会において『院内事故調査ガイドライン』の作成に携わる。その他に,「患者の権利オンブズマン東京」副幹事長,平成19年度厚生労働科学特別研究事業「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のための調査の在り方に関する研究」班,厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)平成20年度分担研究報告「届出等判断の標準化に関する研究」「診療行為に関連した死亡の調査分析に従事する者の育成及び資質向上のための手法に関する研究」の研究協力者を務める。その他,薬害イレッサ訴訟東日本弁護団。



 
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