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「ヒロシマ・ピョンヤン――棄てられた被爆者」

2009年10月12日

伊藤孝司さん(フォトジャーナリスト)

―――伊藤さんには北朝鮮とその人々を描く多くの作品(写真・映像)がありますが、伊藤さんはなぜ北朝鮮の問題を大きなテーマにしているのでしょうか。
(伊藤さん)
 私はもともと、かつての日本のアジア諸国への加害の実相を記録する仕事をしていました。韓国や台湾、フィリピン、インドネシアなど多くの国へ行き、取材・撮影をしていたのですが、そこには朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)だけがぽっかりと抜けていることに気づきました。私はぜひとも朝鮮の人々の取材・撮影をしたいと考え、ようやく1998年にそれが実現し、毎年のように取材に行っています。戦争の被害者たちの実態を知り、伝えたい、朝鮮に住む被害者の実態も知り、伝えたい、ということです。

―――このたび伊藤さんは映画「ヒロシマ・ピョンヤン――棄てられた被爆者」をつくりました。この映画について紹介してください。
(伊藤さん)

映画『ヒロシマ・ピョンヤン 
− 棄てられた被爆者』から
 私は日本のアジア諸国への加害の問題とともに、広島・長崎での被爆者の実相も記録し伝えてきました。いま当事者の願い・要求と運動によって被爆者への補償や援護措置が拡大してきました。そして、在外被爆者にも被爆手帳が交付されるようになりました。ところが、朝鮮在住の被爆者だけは取り残されているのです。
 病に苦しみながら朝鮮に住む李桂先(リ・ゲソン)さんは、2004年になって自分が3歳の時に広島で被爆したことをお母さんから知らされました。李さんは「被爆者健康手帳」取得を望んでいますが、日本政府の実質的な入国拒否を受け、いまだ手帳取得は実現していません。私はこの非人道的な行為を広く知らせなければならないと思いました。日本政府は、広島・長崎の被爆者がどこに住んでいようとも、その補償や援護措置をしなければならないはずです。
 私はこの問題を社会に伝えていく上で、李桂先さんという一市民の日常的な生活を日本の人々に知ってもらうことも大事だと考えました。朝鮮の普通の人々の日常的な生活はマスコミの報道からはほとんど伝わっていないのですが、国が違い、体制が違っていても普通の庶民の生活は基本的に変わらないということも知ってもらいたいのです。

―――日本政府と北朝鮮政府との関係は残念な状況が続いています。北朝鮮の人々との交流を続けておられる伊藤さんの目から見て、いまの状況をどのように思われますか。
(伊藤さん)
 朝鮮政府にはこの間の日本政府の対応に不信感があります。その背景には、朝鮮の人々の日本と日本人への見方もあります。かつての日本による朝鮮支配の被害者の中には“日本人の顔も見たくない”という人が多くいます。戦時中、日本の企業によって強制労働をさせられ、その際に大火傷を負ってしまった人がいます。私はその事実をカメラにおさめ、人々に伝えたいと、取材への協力をお願いしたのですが、その方は日本人である私に対して目も合わせませんでした。その方はやがて心を開いてくれ、積極的に協力してくださるようになったのですが、朝鮮の人々の日本人への憎しみは大変深いものがあります。

―――そのような状況の中で、「ヒロシマ・ピョンヤン――棄てられた被爆者」の制作・普及と併行して興味深い動きもあるそうですね。
(伊藤さん)
 在外被爆者への医療支援では、広島県医師会の取り組みが重要です。広島県医師会は「被爆者はどこにいても同じ被爆者、どこの被爆者にも同じ医療支援を」という立場から、40年も前から北米・南米に住む被爆者の治療にもあたってきました。朝鮮にも被爆者がいることを知り、朝鮮へも医師を送って診察をしようとしています。
 日本の新政権のもとで、朝鮮との関係がどのように改善されるのかわかりませんが、このような広島県医師会の取り組みは極めて重要です。

―――日本国憲法は平和的生存権を謳っていますが、それは北朝鮮の人々も含めた全世界の人々が恐怖と欠乏から免れる生活を送れることを目指すものです。日朝関係が難しい状況の中での伊藤さんの活動は誠に貴重なものだと思います。最後に伊藤さんの日本国憲法へのお考えをお聞かせください。
(伊藤さん)
 私は被爆者の取材を通して、いかなる核もなくすべきと考えてきましたから、朝鮮の核保有も批判されなければならないという立場です。
 同時に、いまの朝鮮に対して日本人と日本政府がどのように対応すべきかを考える上で、朝鮮半島をめぐる歴史をふまえることが大事だと思います。戦前・戦中の約40年間の朝鮮半島は日本に支配されました。戦後は大国によって朝鮮半島が分断され、日本は南の韓国とだけ国交を結び、朝鮮には厳しく対峙してきました。日本と朝鮮との関係改善はこのような歴史の大きな流れをふまえて検討されなければなりません。歴史から学ばなければなりません。
 日本国憲法も、日本の過去の過ちを二度と繰り返さないものとしてつくられました。この精神をふまえ、日本政府は東アジアの国々と誠実に向き合う必要があると考えます。

―――日朝関係をめぐっては様々な議論がある中で、伊藤さんの活動の重要性がよくわかりました。今後のご活躍を期待しています。


◆伊藤孝司(いとうたかし)さんのプロフィール

フォトジャーナリスト。
『原爆棄民』(ほるぷ出版)、『証言 従軍慰安婦・女子勤労挺身隊 強制連行された朝鮮人女性たち』(風媒社)、『アジアの戦争被害者たち 証言・日本の侵略』(草の根出版会)、『平壌からの告発』(風媒社)、『続 平壌からの告発』(風媒社)、『地球を殺すな 環境破壊大国・日本』(風媒社)など著書多数。
ビデオ作品に「長良川を救え!」、「アリラン峠を越えて」、「銀のスッカラ」がある。
2009年、映画「ヒロシマ・ピョンヤン――棄てられた被爆者」を制作。
WEBサイト「伊藤孝司の仕事」はこちら。 



 
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