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憲法25条がないがしろにされてはならない〜多重債務問題へのとりくみ

2009年10月5日

村上美和子さん(司法書士・全国青年司法書士協議会副会長)

――今でこそ「貧困・格差」の問題が社会的に大きな注目を浴びるようになって来ましたが、村上さんは、それ以前から、多重債務などの問題にとりくんでこられたときいています。この問題に関わるようになったきっかけ、経緯などからお話ください。
(村上さん)
 1997(平成9)年9月に私は司法書士登録し、その当時から複数の事業者から借り入れを起こされている方のご相談を受けるようになりました。その頃はバブル崩壊直後で、カード破産のケースが目立つようになった時期です。今ほど“貧困”という言葉は一般的ではなく、今よりももっと多重債務に対する社会的な理解は得られにくかったですね。貸し手よりも借り手が悪い、という空気が強かった。
 けれどその当時でも、冷静にきちんと分析すれば、消費者金融の法外な高金利のために、返済を続けていても借金が減らないどころか、雪だるま式に増えていくという状況がつぶさにみてとれました。私が関わり始めた当初は、40.4%という高利がまかり通っていたのです。その後上限は29.2%となりましたが。
 破産手続き書類作成のために家計表をつけてもらうのですが、3人家族で1ヵ月の食費が9,000円という方もいました。お米と野菜は実家から送ってもらい、毎日納豆だけを食べています、というのですね。ここまで生活を切り詰めて返済を続けているのに、借金はむしろ増えていく、これはおかしい。
 憲法25条によって、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が保障されているにもかかわらず、健康で文化的どころか、生命を維持することすら困難になるというのは、とんでもない状況だと強い憤りを感じましたね。そこで私も、仕事の中で役立つことがあればと思い、破産手続き書類作成のご依頼を受け、裁判所に破産申立てをする―裁判所で事件番号をとりますと、そこで貸金業者からの取立てが止まるんですね―、こういう形で、多重債務や貧困の問題に関与するようになりました。

――消費者金融の高利をのさばらせていたグレーゾーン金利の問題も、皆さんのご努力でようやく2006(平成18)年12月、貸金業法改正(施行は2007年1月)によって、これが撤廃されましたね。
(村上さん)
 はい。これまでは利息制限法の利率の上限を超えても、貸金業者が貸付けを行なう場合には、貸金業規制法上の一定の要件が満たされた場合には(いわゆる“みなし弁済”)29.2%までの高利が許されるとされ、業者は高額の収益を上げていました。
 それが、2003(平成15)年頃から司法の場面で、この“みなし弁済”適用を否定する判決が次々と出されるようになりました。最終的には2005(平成17)年、最高裁がこの問題に決着をつけるような判決を下し、それが翌年の法改正につながったと思います。一つひとつの積み重ねの中で、多重債務という問題が社会一般に知られるようになり、それが個人の責任ではなく、社会構造の問題であるという認識が定着するようになってきました。
 貸金業法が改正されたことは、とても大きな意味をもつものです。これまで、生活者である庶民の、経済的弱者の声が国会に届くことは、ほとんどなかったのではないでしょうか。単にグレーゾーン金利が撤廃されたというだけでなく、自分たちの声がきちんと政策に反映される、民主主義の一歩としての意義があったと思います。そのことへの確信が、その後の反貧困のとりくみでがんばる人たちの大きな励みになったのではないかと。

――貧困が進む中で若者の間で、食べていくために自衛隊に入らざるを得なくなったり、あるいは“戦争待望論”が生まれたり、という状況も耳にしますが。
(村上さん)
 生活重視をかかげた新内閣が発足しましたが、私は、真っ先に雇用対策をとりあげてほしいと思っています。働く意思と能力のある人たちに、仕事がない。生活できない。そういう方たちに、私は生活保護制度のご説明をしたり、その他、各種のセーフティネット貸付制度をご紹介したりしていますけれども、みなさん口をそろえて、仕事がしたい、と仰います。当然ですよね。仕事は自己実現の場であり自己の表現の場であるわけですから。
 一時期、派遣はトレンディであるかのようなもてはやされ方をしましたが、結局、派遣というのは正社員登用すべきところを派遣労働におきかえて人件費を削減する手段でしかなかった。今は、正社員として働きたくても、派遣労働者として過酷な条件で働かされた挙句、個々の人間の尊厳を無視して経済効率優先で切り捨てられる現実があります。そういう中で、若い人たちが一種投げやりになる。世の中が荒んでくると、戦争につながりやすい、それだけは避けたいと強く思います。
 私は、本当に日本の憲法って、好きなんです。素晴らしい憲法だと思っているのですが、そこに記されている目標が、庶民の手に届かないようでは意味がない。憲法の最高法規性というものが、ないがしろにされてはならないと思います。戦争と平和の問題も、貧困の問題も、結局はそこにつながってくるのではないかと思います。

――日本国憲法への思いが、村上さんのお仕事や活動の原動力になっているのですね。本日は貴重なお話を有難うございました。


◆村上美和子(むらかみみわこ)さんのプロフィール

1984(昭和59)年3月 中央大学法学部法律学科卒業
1997(平成 9)年9月 司法書士登録
2005(平成17)年3月〜現在 全国青年司法書士協議会副会長
2007(平成19)年5月〜現在 東京司法書士会理事 



 
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