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今週の一言

 

学びと希望を奪う「貧困と自己責任」

2009年8月24日

白鳥 勲さん(浦和工業高校教諭、さいたま教育文化研究所事務局長)

 

 高校の現場でここ10年間、大きく変化してきたことがあります。高校中退率が2倍、授業料減免率(収入が生活保護水準以下)が3倍、そして学力と意欲の「底抜け現象−15才で約2割の生徒が小4程度の学力しかなく、学ぶことを放棄している」を現場で見続けてきました。
 2007年に私たちが実施した調査で、埼玉の県立高校(全日制)145校のうち、いわゆる「困難校」といわれる高校29校の中途退学率は40%近くになります。県立高校5校のうち1校が卒業時までに半数近くが退学してしまう現実が生まれました。退学者が多い学校ほど親の収入が低く、入学試験の点数が低いことも数値ではっきりと示されました。
 子どもたちの様子の変動はちょうど校門の外の「激変」−貧困と格差、自己責任の強要が進むのと同時に起きてきました。いつの時代も青少年はその時代に翻弄される小舟である、同時にその時代を最も強く映し出す鏡と言われます。
 2004年に201名が入学、3年後の卒業時までに81名が中退し、120名が卒業した高校の学年主任としてほぼ全員と関わり続け、今でも付き合い続けています。多くの大人からみればたいした努力もいらないと思われる高校卒業というハードルを、半数近くの生徒たちがなぜ越えられないか。
 一人ひとりと丁寧に向きあってきて分かったことは中退する生徒たちがごく普通の生徒たち、適当に真面目で時にはさぼる、正直さとずるさをあわせもつどこにでもいるフツーの生徒たちということでした。高校中退に追い込まれる生徒に特有な「性格・個性」などはありません。
 彼らを育む環境、土壌、支え、クッションの激変・貧困化の波が小舟のような彼らを翻弄しているとしかいいようがない現実があります。退学者の多くの親がリストラ、商売の失敗、賃金の切り下げで「食ってゆくので精一杯」の生活を強いられていました。子どもを支える余裕が経済的にも精神的にももてない状況に追い込まれていました。
 小学校3、4年生で習う算数の割り算が「普通の会話が成立する」生徒なのに、どうして高校1年になってもできないのか。高校までの9年間で「わからない」ことを「わからない」と言って救われるチャンスを学校や家庭、地域でもてなかった子どもたちが目の前にいました。まずは「低学力」の克服が最優先課題なのに一生懸命アルバイトに精を出さざるをえない生徒たちが多数いました。 
 物心ついてからお金のなさと、不平等感と孤立感で何の「意欲」も「目標」も示せなくなった子どももいました。大人社会の貧困化とセーフティネットの崩壊、自己責任の呪縛が学校教育にも及んできていることを実感しています。退学した生徒たちがつける仕事は何の保障もないアルバイトだけです。貧困の連鎖がおきています。
 20年以上にもわたる競争原理、市場原理、「福祉国家の解体」、冨と権力を持つものだけが有利になる自己責任の強要は若者から学びと希望を奪いつつあります。憲法25条―健康で文化的な生活をおくる権利、26条―教育の機会均等が奪われつつあります。
 「若者を戦争に駆り出すために、効果的な方法がある。まともに食べていけない、未来を描けないという閉塞した状況に追い込み、他の選択肢を奪ってしまえば彼、彼女らは『志願して入隊』してくる」(堤未果―貧困大国アメリカ)という状況さえ想定してしまう現実が作られようとしています。

 しかし一人ひとりと深く関わって見えてきたことがあります。どれほど翻弄されようと彼らは「いま」を必死に健気に生きています。大人からの社会からの暖かい眼差しを求めています。学ぶこと・分かることの喜びを求めています。愚痴を言い合える仲間を求めています。信頼にたる大人、真似したい大人を求めています。「いま」を生きる子どもたちに共感し、ささやかでも希望を見つけられる取り組み―憲法を実生活に生かす運動をさらにさらに盛り上げることこそ我々大人の責任ではないでしょうか。

◆白鳥 勳(しらとりいさお)さんのプロフィール

1969年より埼玉県立高校教員として教壇にたって40年目。
ひたすら一人ひとりの生徒と「平等に」付き合い、互いに心を開きあう関係をつくる、生徒の個性・願いを生かした進路の開拓をともにすすめることを実践の基本にしてきた。
教員生活の大半はいわゆる「困難校」勤務で「低学力、貧困、問題行動、いじめ、不登校」などをかかえる生徒と関わり続けている。
研究所では教育相談、雑誌編集、教育懇談会での講師活動を主におこなっている。



 
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