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今週の一言

 

日本を、有権者の多数決で立法しかつ行政府の長を選ぶ民主主義国家へ変えよう

2009年8月10日

升永英俊さん(弁護士)

 

 仮に、男は一票、女は0.9票という一票の不平等を定める選挙法の規定があったとしましょう。
 更に、ある最高裁裁判官は、「この男女の一票の不平等を定める選挙法の規定は、合憲かつ有効」という意見であり、他の最高裁裁判官は、「この男女の一票の不平等を定める選挙法の規定は、違憲かつ無効」という意見だとしましょう。

 最高裁裁判官に対する国民審査の時に、100人の女性中、100人が、国民審査権の行使として、有効派裁判官(合憲派)に不信任の投票をするでしょう。100人の男性の多くも、同じように、不信任の投票をするでしょう。選挙権を性によって差別することは、不正義だからです。

 ところが、あなたの選挙権は、住所によって、この0.1票の性による差別以上にひどく差別されています。衆議院選挙での選挙権の価値は、高知3区の有権者の選挙権を一票とすると次のとおりです(2008.12.25付総務省資料:PDF)。

 例えば、京都1区(京都市北区等)有権者:0.6票
  ― あなたの選挙権の価値は、こちら(「一人一票実現国民会議」サイト)の簡易検索から瞬時に検索できます −

 仮に、1000万人有効投票者の一人当たりの1票の価値は、実は、0.6票でしかなかったと仮定しましょう。
 一人当たり0.6票の価値しか与えられていない有効投票者一人一人は、自己の投票用紙を、一票の価値のある投票用紙と信じて投票しています。ところが、開票すると、これらの0.6人前の1000万人の有権者が投じた1000万枚の投票用紙は、600万票の投票済投票用紙の価値しかありません。ということは、例えて言えば、400万票の投票済投票用紙が本人の同意なく透明人間によって抜き取られていることと同じです。
 ある発展途上国の選挙で、選挙の投票箱が違法に持ち出されたり、破棄されることを防ぐために、国連の国際監視委員会の人々が、国外から続々と入国した、と報じられました。選挙の投票箱の不正な持ち出しは、民主主義を根底から破壊する行為です。
 国政選挙での「一票の不平等」の問題は、選挙人が行使する「一人一票」の権利を否定する点では、「投票箱の不正持ち出し」と変わりません。
 住所を理由とする「一人一票」の否定は、不正義の最たるものです。

 米国連邦最高裁判決(Karcher v. Daggett, 462 U.S. 725 1983年)は、1983年、米国下院議員選挙に関し、0.7%の一票の不平等(ニュージャージー州の4区の人口:527.472人〈最大〉;同州の6区の人口:523.798人〈最小〉。両選挙区の人口差:3,674人(=527,472−523,798)。3,674(人)÷527,472(人)≒0.00697。6区(最大)と4区(最小)の一票の不平等は、1票(6区):0.993票(4区)。)を定めるニュージャージー州選挙法を違憲・無効としました。米国(合衆国連邦)は、地球上で初めて建国された民主主義国家です。この民主主義の発祥国・米国の連邦最高裁は、この1983年判決で、「一人一票」の保障という「法の支配」を実現するために、違憲立法審査権を行使しました。

 重大な問題は、しばしば、際どい多数決により決着しています。
 2008年11月の米国大統領選挙で、大勝したように広く報道されているオバマ候補は、実は、全有権者の53%しか得票していません。マケイン候補は、大敗したような印象をもたれていますが、46%の得票率です。議論のための議論として、「一票の不平等」が、オバマ候補に僅か0.1票不利であったと仮定すると、オバマ候補は米国大統領に就任し得なかったのです。
 以上のことから分かるとおり、例え0.1票差の不平等であっても、「一票の不平等」のもたらす反民主主義性は重大です。

 最高裁判所は、最高裁裁判官の過半数(8名又はそれ以上)の意見で、公職選挙法を含むすべての法律を憲法違反として無効にし得る強力な権限、即ち、違憲立法審査権(憲法81条)を持っています。定数・15名の過半数(即ち、8名以上)の最高裁裁判官が、「一人一票」のルールに照らし、「一票の不平等」を定める公職選挙法を違憲かつ無効である、と判断すれば、公職選挙法は無効となり、「一人一票」が実現し得ます。

 今月30日に実施される国民審査の対象となる最高裁裁判官は、下記記載の9名です。

◆各氏の2007年最高裁判決における「一票の不平等」を定める公職選挙法の規定についての意見

那須弘平(なすこうへい))(弁護士出身)      「合憲かつ有効」
涌井紀夫(わくいのりお)(裁判官出身)       「合憲かつ有効」
田原睦夫(たはらむつお)(弁護士出身)       「憲法の趣旨に沿うものとは言い難い」
近藤崇晴(こんどうたかはる)(裁判官出身)      (不明)
宮川光治(みやかわこうじ)(弁護士出身)       (不明)
櫻井龍子(さくらいりゅうこ)(元旧労働省女性局長)  (不明)
竹内行夫(たけうちゆきお)(元外務事務次官)     (不明)
竹崎博允(たけさきひろのぶ)(裁判官出身)      (不明)
金築誠志(かねつきせいし)(裁判官出身)       (不明)

 そのうち、2007年最高裁判決で、「当時の『住所による一票の不平等』を定める公職選挙法の選挙区割の定めは憲法に違反せず、有効である」との意見を示しているのは、那須弘平裁判官と涌井紀夫裁判官です。田原睦夫裁判官は、選挙区割の規定は、「憲法の趣旨に沿うものとは言い難い」としています。残りの6名は「一票の不平等」の問題についての判決を下していないため、意見が不明です。

 公職選挙法によれば、過半数の有権者が0.6票以下の価値の選挙権しか有していません。そのため現在、全有権者の過半数未満の有権者が国会議員の過半数を選んでいます。そして国会は、国会議員の過半数で、立法しかつ行政府の長を選んでいます。
 民主主義とは、有権者の多数決によって、立法し、かつ行政府の長(首相)を選ぶことです。有権者の『少数決』で、立法し、かつ首相を選んでいる現在の日本は、民主主義国家とは言えません。

 今の日本を有権者の多数決で立法しかつ首相を選ぶ民主主義国家に変えることは、有権者が、国民審査権を、参政権の行使として、自覚的に行使することにより、可能です。

 一票未満の「一人前以下の日本人」も、一票の「一人前の日本人」もありません。我々は、皆同じ「一人一票」の「一人前の日本人」です。

 我々日本人は、各最高裁裁判官についての情報を知った上で「国民審査権」を行使することによって、日本を「一人一票」の保障を土台とする民主主義国家に変えるという歴史を創ることができます。現在と将来の日本のために。

■最後に
 本稿は、個人名を挙げて合憲派の裁判官に不信票を投ずるよう記述しています。しかし、これは、決して個人に対する誹謗中傷ではありません。国民は、国民審査権を行使するために、個々の裁判官の「一票の不平等」についての意見を知る権利があります。本稿の目的は、そのための判断材料を提供することです。

◆升永英俊(ますながひでとしさん)のプロフィール

弁護士。青色LED特許侵害事件などを担当。
「一人一票実現国民会議」発起人。
ホームページ
升永ブログ「一人一票を実現しよう」



 
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