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「丸腰国家」コスタリカに学ぶ 「憲法の使い方」

2009年6月1日

足立力也さん(コスタリカ研究家)


 中米の小国・コスタリカ共和国。インターネットでこの国について検索してみると、実に幅広い情報が流れている。方や世界の中で日本とただ二つだけ憲法で軍隊を廃止した国であるとか、一方では実は結構な人員や装備を備えた軍隊があるとか、まったく正反対の情報すら散見される。いったいどちらが正しいのだろうか。
 結論から言うと、実はどちらも誤りである。まず、憲法で軍隊を禁じた国は、コスタリカの隣国パナマをはじめとして他にも数カ国ある。また、名実ともにコスタリカには軍隊がない。国家による物理的強制力は警察のみである。だからといって、決して平和のパラダイスというわけでもない。
 残念ながら、日本においてコスタリカは、護憲運動における一条の光明をそこに見出した人たちと、それ(コスタリカではなく護憲運動)を攻撃したい人びとによるイデオロギー論争の絶好のネタになってしまっている。これでは、コスタリカに関する科学的な分析はもちろんのこと、私たちの未来についての生産的な議論も望めない。もちろん、日本国憲法を論ずるにあたっても、このままでは参考にできない。まずは、色眼鏡を取り払って、コスタリカにまつわる事実関係を冷静に確認する必要がある。その上で、私たちにとって何が役立つのか抽出し、今後の議論に役立てていただきたい。

■コスタリカの非武装主義の歴史

 コスタリカの非武装の歴史は、60年前にまで遡る。1948年に勃発した内戦に勝利したホセ・フィゲーレス・フェレールは同年12月1日、旧陸軍司令部要塞にて、軍隊の放棄を高らかに宣言し、要塞の壁をハンマーで打ち崩すという象徴的イベントを行った。国民はこれを歓迎したが、軍隊の解体はそう簡単にいかなかった。
 軍隊廃止の9日後、内戦で負け、隣国ニカラグアに亡命したカルデロン一派がコスタリカ領内に攻めてくる。解散を始めた兵士たちを至急呼び戻して国境に配備しつつ、コスタリカ政府は米州機構などを利用し、カルデロンたちを支援していたニカラグアに対して国際的な圧力をかけた。これが奏功し、補給を断たれたカルデロン一派は撤退を余儀なくされる。55年にもまったく同様のことが起きたが、米国を味方につけたコスタリカは、外交でこの難を乗り切った。
 1980年代には、史上最大級の国難がコスタリカを襲った。79年に隣国ニカラグアでサンディニスタ革命が成功し、これを「共産主義」として嫌った米国が介入を始めたのである。米国CIAは反サンディニスタ勢力を糾合し、反政府武装勢力(通称コントラ)が結成され、ニカラグアは内戦に突入する。コントラの一部は、コスタリカ領内に陣取り、ニカラグア領内に攻め入ってはコスタリカ領内に戻るという「ヒットアンドアウェー」作戦をとった。
 このとき、ニカラグア政府(サンディニスタ)はコスタリカに対し、コントラの追放を要求した。一方米国は、コントラへの支援をコスタリカに押し付ける。ニカラグアに従えば米国につぶされ、米国に従えばニカラグアからも攻められかねず、コスタリカは板挟みの状態になってしまった。
 そこで当時のコスタリカ大統領、モンヘ(82〜86)は83年に「積極的永世非武装中立宣言」を発表し、「どちらの側にもつかないが、仲介者としては積極的に介入して紛争を終わらせる」という立場を鮮明にした。当初、米レーガン政権はこれを無視したが、この理想主義的な文言は世界各国からの支持・賛同を得ることになり、コスタリカはその世界的包囲網を突き付けることで、米国にも有無を言わせなかった。
 モンヘの後を継いだアリアス大統領(86〜90、2006〜)は、この宣言を実行に移す。つまり、ニカラグアのみならず、グアテマラ、エルサルバドルという、同じ中米地域で起こっていた(しかもそのすべてに米国が介入していた)内戦の和平工作に乗り出したのである。
 紛争の仲介において非武装であるということは非常に重要な意味を持つ。実際に誰かに加担しようとしても、軍事的には不可能なので、より信頼を得やすいからだ。また、ファーストレディ外交を通じて内戦の当事者たちを和平交渉のテーブルに引きずり出すなど、「ソフトパワー」を最大限活用していることにも注目すべきだろう。
 武器さえなければよいのではない。武器を持たないことを「いかに利用するか」が大事なのだ。

■コスタリカにおける憲法の活用例と「統合的価値観」としての平和主義

 この国の平和主義の姿は、「軍隊を持たない」という点だけを注視してみても、まったく見えてこない。なぜなら、彼らは平和を「軍隊がないこと」あるいは「戦争がないこと」などとは定義づけていないからである。また、コスタリカ憲法の非武装条項を見ても、「常備軍としての」軍隊を禁止するとは書いてあるが、「有事」の際には再軍備できるとも書いてある。憲法全体をつつむ理念や、他の国際法などとの関係性を見ずに、個別に考えても、コスタリカの人びとが「平和憲法」をどのようにとらえ、使っているか、その実態は見えてこないのだ。
 平和とは民主主義、自由、人権、豊かな自然環境、寛容さといった「価値観」を統合したものだと、多くのコスタリカ人は考えている。そのため、コスタリカで平和という単語が使われるのも、戦争や軍事にまつわる話ではなく、より身近な社会、政治、経済の話がされる時のほうが圧倒的に多い。その中で今回は、憲法と人権についてひとつの例を取り上げてみたい。
 コスタリカには、違憲性を直接問える「憲法小法廷」が、最高裁判所に置かれている。現在、年間1万5千件を超える違憲訴訟が行われている。1989年に設置されたこの法廷では、イラクを侵攻した米国を支持したパチェコ大統領(当時)などに対して違憲判決が下されるにあたり、日本でも注目を浴びた。
 憲法小法廷は、いつでも、誰でも違憲訴訟を起こすことができる。手数料はタダ同然だし、最高裁のある首都・サンホセまで赴くのが難しければ、メールやファクス、電話でも訴訟を起こせる。弁護士費用がなくとも、裁判所に専任の弁護士が常駐しており、裁判を助けてくれる。原告適格性はまったくなく、子どもだろうが外国人だろうが、違憲性を問えるのが特徴だ。
 おもしろいのは、子どもによる訴訟ケースが少なからずあることである。例えば遊ぶ権利を奪われた子どもたちや、学校に通学する権利を奪われた生徒が、校長などの大人を相手に裁判を起こし、見事に権利回復を果たしている。これは、日本国憲法の三本柱のひとつでもある「基本的人権の尊重」が、文字面で保障されているだけのものではなく、生活に息づき、その回復手段も機能していることを示すものだ。
 日本の「護憲運動」は、条文ごとのテーマ別に分かれて活動しているように思える。9条護憲派、25条護憲派などだ。しかし、それらは不可分のものであり、どれかひとつが欠けても憲法の理念を体現しえない。また、例えば第13条の幸福追求権、14条や16条のような不差別条項、24条の性別間における平等など、憲法第三章に示されている国民の諸権利も、個別に追求して達成されうるものではない。9条も含め、それぞれが有機的に結合した「ひとつの統合的価値観」であることは、これがひとつの憲法という章典にまとまっていることからもうかがえるし、前文の趣旨もそのようにとらえるべきだろう。
 コスタリカでは、それらの権利や人権、あるいは自由といったことがらが、平和という単語でひとくくりに扱われている。どんな言葉でくくるかは大した問題ではなく、それらは有機的に結合したひとつの「統合的価値観」だと考えられている点が重要である。だからこそ、戦争に賛成した大統領に対する違憲判決も決定的に重い意味を持ったのだ。

 私は今年3月、扶桑社新書より「丸腰国家」を、5月には岩波ジュニア新書より「平和ってなんだろう」を上梓した。前者では、とかく情報が入り乱れている「軍隊をすてた国」コスタリカの歴史と実態を明らかにし、後者では、コスタリカの平和主義思想について説明している。より詳しいコスタリカにおける非武装戦略や憲法の「使い方」、平和思想については、ぜひこれらをご一読いただきたい。

◆足立力也(あだちりきや)さんのプロフィール

コスタリカ研究家、ピース・コーディネーター。1973年福岡市生まれ。立命館大学大学院国際関係研究科博士課程前期課程修了(国際関係学修士)。1999年から2001年までコスタリカに滞在し、コスタリカ国立ナシオナル大学大学院博士課程中退。ドキュメンタリー映画「軍隊をすてた国」アシスタント・プロデューサー。2004年参議院議員選挙に「みどりの会議」公認候補として全国比例区から立候補。主な著書に「丸腰国家」(扶桑社新書)、「平和ってなんだろう」(岩波ジュニア新書)、「平和をつくる教育」(岩波ブックレット)など。コスタリカ・ピースツアーの企画・実施のかたわら、平和問題、教育問題、憲法問題などに関する執筆、講演、ワークショップなどで全国を飛び回っている。
■ホームページ


 


 
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