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自由権規約委員会の注目すべき勧告
――日本の人権の遅れを国際水準から検証する――

2009年5月18日

鈴木亜英さん(弁護士・国際人権活動日本委員会議長)

1 見直されてきた自由権規約

 市民的及び政治的権利に関する国際規約は一般に自由権規約と呼ばれ、この分野の人権をカバーする多国間条約です。
 日本は1979年にこの条約を批准しましたから、それはすでに国内法的効力をもつ規範として30年間存在しています。
 かってはその存在さえ知られていませんでしたが、最近では人権上の主張をこの規約に依拠して行なう例も増えてきました。
 内容的には憲法の自由権条項と大きく変わるところはないのですが、その規定ぶりをみても、解釈の仕方を見ても、自由を制限するには厳しい決まりがあります。
 曖昧で無限定だとされる憲法の「公共の福祉」概念を用いて、しばしば自由を丸ごと制約してしまう裁判所の憲法判断とは大分趣が違うところに魅力や使い道があります。

2 人権分野に国際的視野が

 最近、最高裁大法廷は国籍法に関わる事件で違憲判決を出しました。生後認知に加え、父母の婚姻がなければ日本国籍が取得できないと定めた国籍法を違憲と判断したのです。
 この判決の中で、非嫡出子に対する差別的な取り扱いを解消することは「国際的な社会環境の変化」にもよるものだとして、自由権規約の存在を積極的な方向で取り上げたのです。
 これは珍しいことでした。
 これも最近のことですが、不法入国した夫婦の国外退去をめぐって両親との別れを余儀なくされた女の子に世間の同情があつまり、マスコミもこれを大きく取り上げました。
 このなかで、自由権規約がもつ機能が子どもを守る見地から有効だと訴えている識者の発言が注目を集めました。
 このように人権というものを自由権規約を通じて国際的な視野で見てゆこうという流れが強まっています。

3 自由権規約による人権審査

 昨年10月15,16両日、ジュネーヴで、自由権規約第5回日本政府報告が、この規約の監視機関である自由権規約委員会で審査されました。
 そして、この審査をへて、委員会は同月30日総括所見(Concluding Observation)を発表し、日本の人権改善を強く促しました。私は毎回この審査を傍聴して来ましたが、今回の総括所見が、これまでと較べると、第一に詳細であり、従って、内容が豊富であること、第二に、調子の強い、厳しい勧告になっているところに特徴があります。
 評価すべき点は2,3項目に止まり、残り29項目は規約にそぐわない国内法の改正を求めるものまであって日本政府にとって重い宿題となりました。
 全部を列挙することはできませんが総括的に云えば、日本国内において、自由権規約が尊重されておらず、このため規約に反する人権状況が罷り通っていることに対する深刻な危惧の念が具体的に表明されていることです。

4 勧告の具体的内容

 具体的にはひとつ目に、国内では最高裁をはじめとする下級審での適用例がほとんどないことから、裁判官ら法曹関係者への人権規約の研修と規約の情報の普及を、ふたつ目に、日本政府が躊躇する個人通報制度、即ち国内で救済されない、規約違反のケースを個人として自由権規約委員会へ通報することを可能にする自由権規約第一選択議定書の早期批准を、三つ目に、政府機関から独立した、公権力による人権侵害に対する訴えを検討し行動する能力を含む幅広い権限をもつ国内人権機関の設定を、四つ目に、その概念が曖昧で無限定な憲法の「公共の福祉」は規約が可能とする範囲を超えて、権利を制約しがちであるから、「公共の福祉」を定義し、規約の制約を超えないことを明記した法律の制定を、それぞれ勧告しました。
 これは規約の国内での普及と定着を図る上で不可欠の事柄であり、その徹底を求めたものです。
 このほか各論的には女性の地位向上、女子子どもの権利保護、死刑制度の廃止と執行への人道配慮、代用監獄の廃止、取調べにおける被疑者の権利と捜査の可視化、刑事施設留置施設における不服申し立て、いわゆる「慰安婦」問題、人身売買、外国人研修問題、難民、言論表現の自由にかかわるビラ配り取締り、様々な差別取り扱いの解消など多岐にわたる今日的な人権課題に言及し、状況の改善を求めています。
 私が実際に弁護を担当する国家公務員のビラ配りについても、非合理な人権制約であるから法の改正を求めるとする勧告がなされたことは嬉しいことでした。報告と審査は5年ごとに行なわれていますが、死刑制度の運用、代用監獄など規約違反の著しい問題について、1年後の改善報告を求めたことは重要です。今回の勧告は関係省庁に少なからず衝撃を与えました。

5 国際人権の風通しを良くしたい

 このように日本の人権が国際人権の角度から、さまざまに指摘をされたことは何を意味するかです。
 これは日本の司法機関が規約を無視して、人権制限に歯止めをかけてこなかった結果、国内の法「常識」と国際的な人権水準との間に大きなギャップが生まれていることを意味します。
 そして、それをもたらした最大の原因は司法が規約を尊重してこなかったことをはじめ、裁判官の規約研修を怠り、個人通報制度を批准せず、国内人権機関の設置を引き延ばし、「公共の福祉」概念による過度の人権制約を当たり前のこととする、いわば人権の「半鎖国」状態が長年続き、国際人権の風通しを著しく悪くしていたことに起因していると思われます。
 いまや先進国の間で“人権では後進国”といわれる日本の人権をこの機会に早急に改めてゆかなければならないことを痛感します。

◆鈴木亜英(すずき つぐひで)さんのプロフィール

1968年4月、弁護士登録(東京弁護士会)。
自由法曹団元幹事長。同国際問題委員会元委員長。
日弁連個人通報制度実現等委員会部会長。
国際人権活動日本委員会(国連資格NGO)議長。
日本国民救援会中央本部会長。
1940年5月16日生まれ(68歳)。


 


 
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