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今週の一言

 

「裁判と人権 − 労働者・市民とともに」

2009年5月4日

塚原英治さん(弁護士)

―――塚原さんと東京南部法律事務所の皆さんが、依頼者の利益のために仕事をされながら、様々な裁判の状況と人権の重要性に伝える本=『裁判と人権 − 労働者・市民とともに』を出版されました。まずは本をつくられた問題意識をお聞かせください。
(塚原さん)
 私たちは東京南部法律事務所が40周年を迎えるにあたって、これまでの仕事・活動と私たちの思いを多くの労働者・市民の皆さんに届けたいと考え、本をつくることにしました。
 私自身は、10年前に高橋利明弁護士とともに編集し出版した『ドキュメント 現代訴訟』の続編をつくりたいと考えていました。東京南部法律事務所の弁護士は様々な重要裁判に関わってきましたので、それを本にすることになりました。

―――塚原さんは長年様々な裁判に関わり、労働者・市民とともにたたかってきました。『裁判と人権 − 労働者・市民とともに』には労働問題や思想・信条の自由の問題、医療事故・薬害、消費者問題、戦争被害、等々の裁判が紹介されていますが、塚原さんはこの間の各分野における人権擁護のたたかいの到達状況をどのように評価されますか。
(塚原さん)
 それぞれの人権擁護のたたかいの到達点の評価は事件ごとにそれぞれです。
 労働者の権利をめぐるたたかいは、たとえば結婚退職制や差別定年制をやめさせるなどしていた頃に比べて、最近は労働者にとってなかなか厳しい状況が続いているという全体的な印象があります。しかし、こんにちでもたたかって前進した例が少なくありません。今回出版した本にもその例を紹介しています。
 思想・信条の自由の問題も、国旗・国歌強制問題など厳しい状況ですが、先日の七生養護学校の事件では教育の自由が認められ、やはり主張し、たたかうことの重要性が示されました。
医療事故・薬害の事件でも、HIV訴訟にしても、薬害肝炎訴訟にしても、よく勝つことができたな、というのが率直なところです。
 かつての四大公害裁判もそうでしたが、被害者が勝てるという確信があって裁判をはじめたわけではありません。たたかうしかない、という感じでした。しかし、裁判を通して問題がオープンになり、それが報道され、世論を動かし、それが政治的な解決につながっていきました。中国「残留孤児」国家賠償訴訟もそうなりました。このような点で、裁判という場を活用して問題解決をはかっていくという考え方と実践が広がってきていると思います。
 裁判でクレ・サラ被害問題がたたかわれ、それも政治的に解決されるようになりました。当事務所の事務局長であった本多良男さんは、いまや政府の多重債務者対策本部の一員になって具体的な提言活動をするに至っています。

―――市民の運動が前進している分野としては、塚原さんがこの間関わってきた株主代表訴訟などは、この10年間のたたかいが大きく発展した分野の一つではないでしょうか。
(塚原さん)
 会社の経営者というのは従来ほとんど誰からも訴えられることがありませんでしたが、市民オンブズマンと私たち弁護士は、1993年の商法改正を機に、大手企業の社長らの贈賄・ヤミ献金、談合、総会屋への利益供与などの違法性を問い、損害賠償を請求する訴訟を進めました。そして、多くの裁判で勝訴や勝利的和解を勝ち取ることができました。こんにち企業法務、企業のコンプライアンスの重要性が叫ばれるようになりました。不正は許せないと訴える人がいて、それを弁護士がサポートすることが、経営者をコントロールすることにつながってきた意義は大きいと思います。
 住民訴訟などによって首長などの違法行為も抑制されるようになってきています。

―――塚原さんの仕事・活動は憲法の理念と通じるところがあると思いますが、いかがでしょうか。
(塚原さん)
 人権というものは憲法の条文に書かれていればいつでも保障されるというものではありません。教育の現場で国旗・国歌が強制されている状況をみれば明らかです。憲法の条文を実質化させる動きがなければ、ただ書かれていることには意味がないのです。憲法はたたかいとらなければなりません。
 このことを国民の確信にしていくためには、具体的な実践が必要で、その一つが裁判でのたたかいということになります。裁判を通して様々な被害に遭っている人たちに「国」というものがどのように態度をとっているのかを明確にしていくことも大切な課題です。
 たとえば、被爆者の原爆症認定を求める裁判では、被害者の要求を実現していくとともに、日本政府の核問題への基本政策をあぶり出すことになりました。日本政府は被爆国として核兵器反対の態度はとりますが、一方でアメリカの核の傘の必要性を前提としていて、核兵器廃絶への徹底した立場にはないことが裁判を通して浮き彫りになっています。
 中国「残留孤児」国家賠償訴訟でも日本政府の戦争責任への考え方をあぶり出しました。日本政府は戦時中の軍人には補償するのですが、被害を受けた一般市民への補償を認めたがらないということが浮き彫りになっています。

―――『裁判と人権 − 労働者・市民とともに』にはこんにちの社会状況と改革課題が綴られていることがよくわかりました。最後に、労働者・市民へのメッセージとしてつけくわえたいことをお聞かせください。
(塚原さん)
 労働者・市民の人権を守る上で弁護士の役割は大きいと思っています。弁護士の活動によって労働者・市民の権利を拡大させることもできるし、実際にそのような例が積み重なってきているということは、ぜひ知ってほしいと思っています。
 私は、法科大学院で教えていたこともあり、法律家をめざす若い人たちに大きな期待を持っています。かつては、弁護士になった人たちの挨拶状には「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」(弁護士法第1条)ことへの誓いが記されていましたが、最近はそうではなくなってきています。弁護士は依頼者の様々なニーズにこたえることになりますが、常に“基本的人権の擁護と社会正義の実現”という視点は忘れないでほしいと思います。
 労働者・市民と弁護士の共同によってその権利をさらに広げていきたいと思います。

―――大変有意義なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

◆塚原英治(つかはらえいじ)さんのプロフィール

弁護士。第二東京弁護士会副会長、日本弁護士連合会弁護士制度改革推進本部委員、早稲田大学法務研究科教授などを歴任。
著書に『ドキュメント現代訴訟』(共編、日本評論社)、『法曹の倫理と責任<第2版> プロブレムブック』(共編、現代人文社)などがあり、『労働組合Q&A』(東京南部法律事務所編、日本評論社)、『労働契約Q&A』(東京南部法律事務所編、日本評論社)その他に論文多数。


 


 
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