法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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「無防備平和 ― 札幌市民の挑戦」

2009年3月23日

谷百合子さん(無防備平和のまちをつくる札幌市民の会)


私たちは、2007年9月14日から10月14日までの1ヶ月間、「いかなる戦争にも関わらないまち札幌」をめざして直接請求署名に取り組みました。憲法9条の平和主義と国際人道法(ジュネーブ条約)に基づき、札幌市を「未来永劫戦争しないまち」にするための平和条例制定を求める署名活動でした。この度、1年間におよぶ準備期間での議論の数々、署名活動の様子、市議会の決議の内容、署名後の取り組みなどをまとめて高文研より出版の運びとなりました。
大阪、沖縄の出版記念会に続き、3月1日東京の皆様も会を設けて下さいました。その折に、法学館憲法研究所から原稿の依頼を頂きました。法律は全くの素人ですし、憲法問題も然りですから躊躇しましたが、政府がソマリア沖に自衛隊派兵を強行する現実に対して、今何が出来るのか1人でも多くの方と考え行動したいと思い、拙い文を綴らせて頂きます。

「オランダのハーグ世界平和会議」がきっかけ

1999年5月、「21世紀の国際社会から戦争と軍備をなくそう」と百余の国からNGOの市民が参加し、「世界平和会議」が開かれました。各国の政府に軍事力の行使によらない世界の秩序と正義の実現を呼びかける国際行動でした。そして「公正な世界秩序のための10の基本原則」の1番目に「各国議会は日本国憲法のような、政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきである」(君島東彦訳)と盛り込まれたのです。
「憲法9条を世界の平和の規範とする」の宣言に感動を受けて、その年の6月、全道の市民に呼びかけて「無防備・非核ネットワーク北海道」を設立しました。今の会の前身です。
2004年大阪で無防備平和条例制定の署名活動が開始されると聞き、同じ事を考えていた人々がいる事に驚きました。それからドンドンと署名が全国に広まり(2009年現在24箇所)、札幌にも風が吹いて来たのです。

無防備宣言運動とは?

 この運動の提唱者は近年亡くなられた林茂夫さんです。「住民保護の国際条約が国益第一主義から、住民保護最優先主義に変わっていること、自治体の平時における平和の努力が戦時にも役立つ規定があることを踏まえて、地域の非軍事化を可能とする条例をつくる」と、自治体からの戦争不参加宣言、戦争離脱を平時から準備する条例制定を1983年ころから提唱をしておいででした。
 ベトナム戦争では、犠牲者の95パーセントが一般市民でした。この反省から1977年、ジュネーブ条約第一及び第二追加議定書が制定されたのです。軍民分離原則、無防備地域宣言地域攻撃は戦争犯罪と定めました。第58条には市民を戦争から守るための細かな国際法が細かに合意されています。現代国際法は1928年の不戦条約などにもみられるように、「戦争の違法化」を進めているのです。2004年8月には日本政府も遂にこの議定書に加入しました。政府は、この国際法を国民に広め、実施する義務があるのです。自衛隊を派兵するのではなく憲法9条とジュネーブ条約を掲げて平和外交を世界にアッピールすべきなのです。
法理論上も、批准した条約は国内法より国際法が上位法の地位を得るのは当然です。この規定によって、新たな軍事基地、施設の設置、軍隊の駐屯拒否が可能であり、基地のある自治体は、市民の手による軍隊のない町づくりの計画ができるのです。赤十字国際委員会のコメンタール2283には無防備地域宣言は地方自治体で宣言可能であることが明記されています。

憲法9条をどう守るか?

無防備運動のよき理解者である、作家の井上ひさしさんの言葉を引用させて頂きます。
「これまで『9条を守れ、憲法を守れ』と声をあげ、『戦争をしない、交戦権は使わない』といった否定路線を守ってきた。そこで痛感したのは、100パーセント守っても現状維持なのですね。守れ、守れというだけでは先に進まない。だから今年は「する」に重きを置きたい。一歩でも半歩でも前に進む。そのようにわれわれの意識を変えていきたい。たとえば、ジュネーブ諸条約に基づく『無防備地域宣言』の条例制定運動です。無防備地域の考え方は憲法9条の非武装平和主義にうながされてできました。(略)固定された軍事基地は封印する、市民に戦う意思がないなどの条件を満たす「無防備地域」であることを宣言した場合、国際条約によって攻撃を禁止しています。こうした平和地域を日本全国のあちこちに誕生させたいのです。」(2008年2月4日  毎日新聞夕刊 大阪版)

国家にからみ取られない憲法運動を
―沖縄・読谷村の実践に学ぶ―


沖縄の金城実さんと

尊敬する沖縄の山内徳信さんが「沖縄無防備ネットワーク」の代表になられたと聞き、お話を聞きに沖縄に伺いました。「谷さん、憲法9条も無防備宣言のジュネーブ条約も、もう戦争は嫌だと言う人たちの思いが結集して出来たのですよ。沖縄と北海道で共に頑張りましょう」と仰って頂き、札幌の署名活動開始に踏み切る勇気を頂きました。
ご承知のように山内徳信村長(当時)を先頭に読谷村民は、1997年3月22日、米軍基地のなかに新庁舎建設を勝ち取ったのです。基地の村の闘いは言葉に尽くせないものがあったと思います。しかし、勇気と希望と笑いをもって、文字通り「自治体外交」を行使したのです。政府は激怒しました。沖縄の小村民が政府を超えてアメリカと取り決めをするなどもってのほかと言う訳です。この考えは、無防備条例を否定し続けている全国の自治体市長の意見と同じです。市民派として当選した上田札幌市長の条例否決の理由も「安全は国の専権事項であるから無防備宣言は自治体では出来ない」というものでした。しかし国立市の前市長上原公子さんは「国が戦争に向かう時、市民の生命、財産を守るのは市長の責任である」とこの運動に諸手を挙げて賛成しました。大阪の箕面市の市長も宣言は可能との意見書を述べました。中央政府と地方政府は対等であることの自覚と誇りを示してくれたのです。国家、国益、愛国心、どの言葉も支配者の言葉ではありませんか。憲法の学者、研究者のなかにも、国家主権の枠内で無防備宣言を規定し、賛成しかねると仰る方がおいでです。反対意見の方も、宣言に無理があると言う方も私たちとの対論を避けずに、この悪しき時代を乗り越える為に、歩み寄り意見を交わし合いたいと思います。
署名を通して従来の市民運動の限界も見えてきました。札幌の署名の特徴は自衛官であると名乗って署名した方が少なくなかった事と、従来の市民運動組織や政党が動かなかった事です。署名を支えたのはデモにも参加したことのないような一般市民でした。街頭に立ち、署名を集めた受任者はのべ千人にのぼります。札幌に自衛隊は必要か?戦争に巻き込まれない為にはどうすればいいか?などなど1人1人と会話しながら、名前、住所、生年月日を書き押捺をしてもらうという楽でない署名でしたが、札幌は法定数3万1千筆を1万超えて提出する事が出来ました。新しい平和運動の画期になれれば嬉しいと思います。

国民保護法に対峙するジュネーブ条約

2006年3月18日、新潟市にて「国民保護法計画の目的と地方自治体の役割」と言う会議が開かれました。席上、日本赤十字社の有事関連法、国際人道法等を担当している参事が「自衛隊の住民避難等への懸念点」として「国民保護派遣に自衛隊が介入する事はジュネーブ条約第一追加議定書57条を講ずる締約国の責務に反することになりかねません。又、住宅地、民間施設などの密集地に所在する軍事施設は国際法に違反しますが、戦後60年、戦争をすることが理論上ありえなかった日本の現実から軍事施設が先行してしまったと思われます」と述べています。密かに進行している各地の国民保護計画を監視し、自治体職員の皆さんに軍民分離の国際法を広めていきたいと思います。

軍隊のない国は世界中で27カ国もある

無防備運動の呼びかけ人であり国際刑事裁判にも関わりの深い前田朗さんは、軍隊のない国27カ国をすべて訪問され、「軍隊のない国家」(日本評論社出版)のなかで報告されています。
この本を読み進むにつれ、非戦を謳った憲法9条を有する日本が、軍隊のない国と胸を張って言えるのかと恥ずかしくなります。無防備地域宣言ひとつとっても、革新と呼ばれている政党や市民、憲法学者から、「法的に無理」「戦時を想定している」等の声が聞かれます。ならば中央政府がジュネーブ条約第一追加議定書を批准した時に、なぜ反対しなかったのか市民に説明する必要があります。今年10月には沖縄の那覇市で署名が予定されています。平和は無防備でしか成り立たない事を、日本はそれを世界に呼びかける使命がある事を忘れてはならないと思います。

◆谷百合子(たにゆりこ)さんのプロフィール

ミュージックセラピスト。
「無防備平和のまちをつくる札幌市民の会」共同代表。
1988年から反原発運動に関わり、電力会社への株主提案行動や、六ヶ所の再処理工場反対にも関わり現在に至る。
原発と「核」について仏、独、韓の市民と交流。
「基地はいらない女たちの会全国ネットワーク」会員。
1999年から無防備平和運動を開始し、現在に至る。

 


 
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