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身近な話題から憲法の本質に迫る
〜高校生の鋭い感性を信じて〜

2008年12月15日

川口芳彦さん(高校社会科教員)

 2008年12月6日、法学館憲法研究所は講演会「世界史の中での日本国憲法の意義」(講師:浦部法穂教授)を開催しました。その際、川口芳彦さんに高校での憲法についての教育の状況や中高生の憲法についての理解度などを報告していただきました。以下、その報告の要旨を紹介します。
 (法学館憲法研究所事務局)


 歴史教育者協議会は毎年、全国の中高生約1000人を対象に近現代史アンケートを行っています。そこから中高生たちの憲法意識にいくつかの特徴が読み取れます。
 憲法9条「改正」については例年、反対が大きく上回っていますが、イラク戦争開始の翌年に小泉首相が「自衛隊が活動している地域が非戦闘地域」などと弁解に苦慮し、メディアがそのような矛盾を頻繁に取り上げる頃、反対がさらに増えました。
一方、「憲法改正」については「どこをどのように変えるか」などはっきりしないことが多く、2001年の調査当初「わからない」や「どちらとも言えない」が半数近くに及んでいました。しかし、一番多かった「改正賛成」がぐんぐん減って少数になり、「改正反対」がだんだんと増えて近年は「わからない」等をも上回ります。ここ数年、中高生は憲法への関心を強め、冷静に情報を読み取っているのではないかというのが私の印象です。

 先日の中間試験で、“今春の名古屋高裁判決で、イラクでの航空自衛隊の活動がどんな法に違反するとされたのか”を問いました。もちろん正解は憲法9条です。しかし、1年生の正解者は187人中11人、3年生では23人中8人でした。さらに、新聞各紙で桜井龍子さんの紹介文を読み比べたので、“最高裁判事は何の番人か”を尋ねました。すると、1年生で「日本国憲法の番人」を書けたのは187人中58人でした。授業で掘り下げて学んでいるし、一般常識なので楽に答えられるだろうと思える問いでも、楽観はできません。日々の生活のなかに日本国憲法の存在感がなく、もともと試験に苦手意識のある彼らの頭の中にストンと落ちてはくれないのです。
これが進学校ならはるかに正答率が上がることでしょう! でも、それは入試の影響で生徒が語句を暗記することを前提とする穴埋め授業に慣れているからとも言えます。結局彼らは、憲法の基本的な原理などを深く理解することなく、わかった気にされているのです。法学館憲法研究所の取材で高校教員だった鳥山孟郎さんが指摘されているように、中高生たちに「憲法そのものの存在意義は十分に伝わっていない」のです。

その取材で鳥山さんは、さらに次のような指摘をしていました。
「いまの時代には憲法について考える切実さのようなものがないのです。したがって、生徒や学生たちが自らの問題として考えるよう、教員には工夫が求められます。」
「『憲法は時の権力者たちの専制支配に対抗するもの』といっても、いまの生徒・学生たちは『専制支配』をイメージしにくい状況です。遠い昔のことという感じで、日々の身近な問題と結びつけて考えることができないのです。この点をどう工夫するかが大事です。身近な諸問題を提起しながら、生徒・学生たちが自らの頭で考える訓練を積み重ねていく教育が必要だと思います。」

 2004年、高校生が身近な話題を通して憲法28条を学ぶ千載一遇のチャンスだと思い、プロ野球選手会のストライキを素材に授業を行いました。ストライキは日頃話題になることがほとんどなく、高校生がイメージするのは難しいと思っていました。労働者の大切な権利とわかっているにもかかわらずです。そんなあきらめにも似た思いにかられつづけているなか、高校生がよく知るプロ野球選手がストライキをしたのです。もちろん高校生は興味津々です。ここぞとばかりに私は毎回授業の冒頭に配る教科通信をストライキ特集にして、ストライキとはどういうものかがわかるように話しかけます。すると、彼らは知っていることや思っていることをそれぞれ口に出して意見をたたかわせます。そして、その知的好奇心は教室の外にも飛び出していきました。彼らは、ありとあらゆるメディアに注目して、自らストライキへの理解を深めていくのです。そんな様子が以下のような感想を通してイメージできるのではないでしょうか。
 「ふだんあまり野球を見ないのですが、これほど報道されたのでよくニュースを見ました。このストライキとともに自分も労働条件などもう少し(中学で少し学んだ程度なので)学びたいと思いました。その後図書室で本を探したりしました」
「中学の時に習った労働三権はこういうことなのか、と目に見えてわかったのは確かです」「ふつう『労働組合』について考える機会はめったになく、このように野球など身近なコトで考えられるのは勉強にもなるし、とてもよいと思いました」
「労働組合は強い。今回のストは支持されたから成功したんだと思う」
「実際あまり詳しいことを知らないし、興味ないんですが…。ストライキっていうものが大々的に取り上げられたのは、私の記憶の中では初めてな気がして新鮮だった。こうやって社会は変わっていくんだなぁ…とか、当事者はたいへんだけど、こういうことも必要だと思った」
「今までプロ野球界は球団オーナーに支配されている感が強くてかごの中の鳥のような印象があった。しかし、この一件でたいへんな苦労はあったかもしれないけれど、共存共栄が図れることが証明されたと思う。これからはストに限らず、選手会側は球団側に要望を出していくべきだと思う」

 プロ野球選手会のストライキは、多面的に日本の社会を見直す契機になったことがからわかりますが、そのなかでも特に日本国憲法の存在が生徒の意識のなかにすんなりと入っていったことが重要でした。日頃からなんとか憲法を彼らの生活感覚に取り入れたいと思っていた私はこれ以降、高校生自らに関わるものと実感できるきっかけを探しながら授業づくりを進めるようになりました。憲法9条とアフガニスタンの日本人殺害事件や25条とワーキングプアの授業、そしてここ2年間は27条や28条を踏まえて「働くルール」の授業を模索しています。日本国憲法の全体像へのアプローチはまだまだ弱いのですが、経験を積み重ねていくなかで、憲法の意義を見出すことができる実践をもっと広範囲にわたって今後も作り上げていきたいと思っています。

◆川口芳彦(かわぐちよしひこ)さんのプロフィール

1965年生まれ。埼玉県内の公立高校で社会科を教える。
歴史教育者協議会編『ちゃんと学ぼう! 憲法(2)』(文中のプロ野球ストライキの授業所収)などに授業実践を執筆。



 
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