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ロスジェネ世代から見た社会運動 〜 私たちは前提を共有しているのか?

2008年11月10日

冨樫匡孝さん(もやいスタッフ)
 私は現在、NPO自立生活サポートセンター・もやい(以下、〈もやい〉)でスタッフとして活動している。私たちのNPOは、保証人が見つけられないことで、アパートを借りられない方の保証人になったり、最低限の生活が立ち行かなくなった方の生活の基盤を取り戻すためのお手伝いをする、といった活動をしている。その最低限の基盤の中には、単に住むところ、食べるためのお金というだけではなく、「人間関係」も含まれると私たちは考える。だから、人間関係を新しく結んだり、維持して行くための居場所作りも大切な活動ととらえて、力を入れている。私も若者向けの居場所を主催している。と、言うと、手広くやっているように聞こえるかもしれない。が、実態は、専従のスタッフも置けないほどの小さな団体で、素人が集まって、手探りで行っている活動なのだ。
 私自身も、特別何かの専門家ではない。むしろサポートされる側に限りなく近い。ちょっと前まで私はコンビニの店員だった。ロスジェネ世代(今年三十歳になった)の人間で、二十代にしてホームレス状態になった経験も持っている。二年前、私は生活に行き詰まり、北海道から出てきて〈もやい〉へ相談し、東京都のホームレス状態の方向けの寮に入って、半年かけて住居を回復した。その後、〈もやい〉の活動に参加するようになったわけだ。私のように、二十代、三十代の若者が生活を維持できず、〈もやい〉へ相談にくることは、最近では少しも珍しいことではない。
 そうした活動の中で、私は何人もの若者と話をする。生活困窮して相談に来た若者、〈もやい〉にボランティアに来ている若者、私のやっている居場所に立ち寄ってくれる若者、講演先で出会う若者、いわゆる「運動」に携わっている若者。若干年上の人も、同世代も、下の世代の人間もいる。今回は、彼ら、彼女らと接していて、見えてくることを書きたいと思う。
 まず若者たちは、ほぼ共通して、「世の中がなんかおかしい」「(自分たちも含め)先行きが不安である」「なんとかならないか」と感じている。学歴や、立場を越えて、そういう若者が増えているのは、私が見るところ事実だと思う。裕福な家に育ち、学歴が相当高い者の中にも、そのように口にする者は増えている。先日、高校生を相手に講演することがあったが、十代の子達の間にも、そうした感覚が生まれている。昨今の報道などを彼ら、彼女らなりによく見ているということだろう。
 しかし、その不安や違和感が、若者たちを、この社会をなんとかするための行動へ向かわせているかというと、そうとばかりは言い切れない。確かに、本当に苦しい体験をした者や、他に行き場を持たない若者たちのうち、比較的文化的な素養の高い層の中には、「運動」に携わることに希望を見出している層は存在する。彼らは本当に熱心に、献身的に活動していることが多いし、その活動は報道などで取り上げられることもあり、広がりつつあるとも思う。
 が、未だ圧倒的に多数なのは、そもそも「運動」の意義について十分な理解がなく、なんとなく忌避的なイメージを抱いているままの者と、理念や意義は理解しているが、運動が持つある種の雰囲気に違和感を持ち、イマイチ距離を測りかねているという者だ。かく言う私も、どちらかと言えば後者の若者たちに共感する。
 おそらくこの無知や、違和感の根にあるものは、社会というものに対する「前提の違い」なのではないかと個人的には思っている。正直に告白するが、私は現在の活動に携わるまで「社会」などいうものを意識したことはとんとなかった。だから例えば憲法に記されているような諸権利についても、もちろん学校で習う程度のことは知識としては知っていたが、そうしたものが律儀に履行されるなどと思ったこともないし、世の中とはそういうものなのだと信じ込んでいた。そういうことに腹を立てたり、ましてや「運動」するなんてことは、ある意味常軌を逸した、狭量で子供っぽい態度に見えていた。
 もちろん今の私がそう考えているわけではない。しかし、そのような見方が変わるためには、活動の中で今まで実感していなかったことを、いくつも知る必要があった。例えば「法律によって日本の社会は運営されていて、法律が変わると人の人生も変わりうること」「法律や社会は、変えたいと思って行動している人たちがどんどん変えていくものであること」「無関心でいても、変わった結果は自分たちにも大きな影響があること」などだ。おそらくすでに「運動」に携わっていたり、普段から強い関心を寄せている方から見れば、当たり前すぎて省みられることすらないような大前提だろう。しかし、私が見聞きする限り、その前提は、それほど自明のものではなくなっている。もっと実感に即して表現すれば、私たちや、それから下の世代にはそんな前提は「ない」。
 そのギャップを放置したまま、いかなる理念を広めようにも、それは無理なのではないか、と思う。憲法問題にしろ、その他の社会問題にしろ、その根本にある「社会」という前提を持たない者には、その主張はあたかも個人的な感情論のように見えてしまうからだ。
 今、社会は変わらざるを得ない時代を迎えている。普通の若者たちも、皆それを感じている。彼らにまず伝えるべきことは、崇高な理念でも、多種多様な問題に対する運動手法でもなく、それ以前の「前提」 ― 社会は変わっていくし、変えられるのだ、という実感 ― なのではないか。その「前提」が丁寧に共有されることで、社会運動は一部の限られた人だけでない、すべての人が加われるものになるのではないか。ひとりの若者世代としての、私の実感である。

◆冨樫匡孝(とがしまさたか)さんのプロフィール

1978年生まれ。北海道出身。2006年に自身がホームレス状態を経験し、〈もやい〉へ相談。その後生活を立て直し、スタッフとして活動を始める。現在は生活保護の申請同行や、電話相談、その後のアフターフォローなどを担う傍ら、若者当事者のための居場所「Dropin こもれび」を主催するなど、自身の経験を元に活動に携わる。


【法学館憲法研究所事務局からのご案内】

■冨樫さんは下記シンポジウムのパネリストとして発言されます。

反貧困たすけあいネットワーク PRESENTS
◇◆BREAD AND ROSES 3 〜私たちにパンと誇りを!◆◇

日時:2008.11.21(FRI) 開場18:00 スタート18:30
場所:Asagaya Loft A(JR阿佐ヶ谷駅パールセンター街徒歩2分)
TEL:03-5929-3445(当日のみ)
SPEAKERS
河添誠(首都圏青年ユニオン)、湯浅誠(NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい)、冨樫匡孝(NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい)
SPECIAL GUESTS
雨宮処凛(作家)、秋田正人(liby)、浅尾大輔(ロスジェネ)、土屋トカチ(映画監督)、村澤潤平(新聞奨学生110番)、渡辺治(政治学者)、ほか
MUSIC
KEN-RA(FREEDOM SCHOOL)
MOVIE
TAKETON
ENTRANCE FEE
会員・当日ご入会者/無料、非会員/1000円
主催:反貧困たすけあいネットワーク
後援:旬報社


シンポジウム 「ロスジェネ世代からの『反貧困』のプロジェクト」

日 時 2008年11月24日(月・振休)14:00〜16:40
会 場 伊藤塾・高田馬場校(100人規模)
パネリスト
    河添誠さん(「首都圏青年ユニオン」書記長)
    冨樫匡孝さん(自立生活サポートセンター「もやい」スタッフ)
    杉田俊介さん(有限責任事業組合「フリーターズフリー」編集者) 
司会  大澤信亮さん(超左翼雑誌『ロスジェネ』編集委員)
参加費 500円
主 催 市民社会フォーラム
共 催 老人党リアルグループ「護憲+」、「葦牙」の会
協 力 氷河期世代ユニオン


■貧困に関わる問題については当研究所も下記講演会を開催します。

テーマ「雇用、福祉、生活のあり方と日本国憲法」(PDF)
講 師:森 英樹氏(龍谷大学教授)
日 時:2008年11月15日(土)午後3時〜5時
会 場:伊藤塾高田馬場校(高田馬場駅早稲田口から徒歩3分)
入場料:1000円(法学館憲法研究所賛助会員・学生・伊藤塾塾生は500円)
主 催:法学館憲法研究所
協 賛:NPO法人「POSSE」


 
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