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映画『戦争をしない国 日本』への思い

2008年10月27日

那須正幹さん(児童文学作家)
 片桐直樹氏にお会いしたのは一九九五年の春だった。当時広島のテレビ局が被爆五十年をテーマにしたドキュメント番組を製作していて、片桐氏が監督を引き受けておられた。たまたま私にも出演の依頼があり、半年ほど撮影にお付き合いをしたことがある。テレビ番組にはめずらしく、ビデオテープでなく映画フィルムを使用されていたと記憶している。 片桐氏とは撮影現場だけでなく、夜の飲み会でも何度かご一緒し、そのつど映画のお話しを聞かせて戴き、なんとも楽しい半年間だった。完成した『ヒロシマ50年の軌跡』は、被爆当時の状況から今なお続く被爆者の苦しみ、さらに核をめぐる情勢や反核運動までを網羅した九十分にわたる大作だった。三歳で被爆した私にとっては、自分自身の半生と重なる部分もあり、それ以上に教えられるところも多かった。 
 片桐氏から映画『戦争をしない国 日本』を作るというお話しを伺ったとき、すぐさま協力を申し込んだのは、半年間の撮影現場でお仕事ぶりを拝見したこと、できあがった番組に感動したことが動機だろう。
 さらに言えば、当時の日本の情勢である。小泉政権下の衆議院で与党が三分の二を占め、改憲の動きが活発化していた頃だ。このままではとんでもないことになってしまう。なにか自分にできることはないのか。そんな焦燥感にさいなまれていたときでもあった。
 私は一九四二年生まれである。三歳のとき広島で被爆したものの、幸いたいした怪我もせず、家族も無事だった。そして物心ついた頃には、日本は平和と民主主義の国として生まれ変わっていた。しかし小学生のとき朝鮮戦争が勃発、軍事力をもたないはずの日本に警察予備隊、保安隊、そして自衛隊が生まれた。戦車を特車と呼んだり、軍艦を自衛艦と言い替えながら、憲法九条は、徐々に有名無実の条文と化していった。かつて国民が切望した平和国家は、経済大国さらに軍事大国へと変貌をとげていった。 
 私が子どもだったころの思いは、どうなったのだろう。いったいどこでねじまがってしまったのか。そんな疑問が常に私の中でくすぶり続けていたが、気がつけば私自身も、この日本を形成している国民の一人だということに愕然とさせられた。ちなみに小泉純一郎も小沢一郎も私と同じ四二年生まれである。同世代の人間が憲法九条廃止をもくろんでいるのだ。
 同時代を生きながら、なぜ彼らは平和国家への思いを失ったのか。なぜ憲法九条を捨てようとしているのか。正直なところ彼らの心底を推測することはできない。が、彼らの策動を阻止するのも同世代の人間の責任である。当時設立された『九条の会』のアピールに賛同署名をする気になったのは、自己の責任を果たしたかったからだし、『戦争をしない国 日本』の製作協力も同様な気持ちからだ。
 完成した映画をみたとき、自分の思いは、けっして個人のものではなかったことに気づいた。戦争をしないと誓ったあの日から今日まで、じつに大勢の人々が憲法九条を守るためにさまざまな戦いを続けてきたことを思い知らされた。憲法九条は、けっして天から付与されたものではなく、私たち日本国民の総意を条文化したものであり、それを守り続けたのも国民である。たとえボロボロになりながらも、なんとかこの旗を守り抜いてきた先人のたちの努力があってこそ、現在もこの旗は国民の上にひるがえっているのだ。
 私は児童文学をなりわいとしている。次代をになう子どもに向かって書くということは、未来を信じているということだし、その未来はより良い未来であってほしい。その根底にあるのは、やはり平和ということだろうし、人間が人間として認め合える民主的な体制だろう。まちがっても日本人が他国の人と殺しあいをするような未来にはなってもらいたくない。自由にもののいえない国になってほしくない。
 映画『戦争をしない国 日本』は、そうした未来を信じて戦後を生き抜いて来た人々の魂の叫びだと確信している。

◆那須正幹(なす・まさもと)さんのプロフィール

1942年、広島に生まれる。島根農科大学林学科卒業後、文筆生活にはいる。
主な作品に、1978年発表の『それいけズッコケ三人組』をはじめとする「ズッコケ三人組」シリーズ(巖谷小波賞)があり、2004年12月『ズッコケ三人組の卒業式』で完結した。
ほかにも『ねんどの神さま』『さぎ師たちの空』(路傍の石文学賞)、『海賊モーガン』シリーズ、『ヨースケくん』『お江戸の百太郎』シリーズ(日本児童文学者協会賞)『ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー』(野間児童文芸賞)『絵で読む広島の原爆』など多数。


*2008年11月から映画『戦争をしない国 日本』のDVD販売が始まります。申し込みはこちらです。(法学館憲法研究所事務局)

 
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