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待ち遠しい総選挙の意義

2008年10月20日

上脇博之さん(神戸学院大学教授)
待ち遠しい衆議院総選挙

 小泉純一郎政権下での2005年郵政解散・総選挙で自民、公明両党・その候補者に投票し与党に「3分の2」を超える議席を獲得させてしまった有権者の中には、後になって「失敗した」と思っておられる方は少なくないでしょう。また、昨年(2007年)7月末の参議院選挙で与野党が逆転したため、次の総選挙がすぐに実施されれば「政権が交代する」と期待しておられる方も多いのではないでしょうか。当時、例えば雑誌「読売ウイークリー」(2007.9.2)は、参議院選挙結果を衆議院選挙に当てはめて試算し、自公与党は480議席中134議席くらいしか獲得できないと予想していました。
 ですが、与党は違憲の疑いのある法案でも衆議院で手続きを踏んで“再可決”して成立させられる勢力を確保しているのですから、自公政権がそう簡単に衆議院の解散・総選挙に踏み切るとは考えられません。
 もっとも、小泉政権の後、次の安倍晋三首相、さらにその次の福田康夫首相までもが途中で政権を放り出し、自公政権は政治的信頼を失いました。“直近の民意”を代表しているのは衆議院でないという政治的弱みもあります。そこで、与党は、保守層に人気のある麻生太郎衆議院議員を自民党総裁・首相にして内閣支持率を浮揚させ、その直後に解散・総選挙に突入すると目論みました。
 ところが、食の安全問題、年金問題、後期高齢者医療制度問題などで国民の反発が根強いため、発足直後の麻生内閣支持率は、安倍、福田の両政権のときよりも低く、そのほとんどで50%を下回りました。その上、中山成彬国土交通大臣が“自爆的発言”により就任5日で辞任に追い込まれました。さらにアメリカの金融危機は日本にも波及し、株価暴落、急激な円高になってしまい、国民の間に景気対策を求める声が強いため、麻生内閣は、衆議院を解散できる状態ではなくなってしまったようです。与党にとっては想定外でしょう。
 現時点では、“今月(10月)末の衆議院解散、来月(11月)末の総選挙投開票”になるのかどうか注目されていますが、内閣の支持率が上昇しなければ総選挙は年明けになる可能性もあるでしょう。いずれにせよ、任期満了の場合を別にすれば、麻生内閣が与党にとって有利と判断したときに解散・総選挙が行われることでしょう。

形式的な政権交代ではなく実質的な政権交代を!

 そもそも国政選挙は、主権者である国民(憲法前文・1条)が主権を行使できる、言い換えれば、国民「固有の権利」である選挙権(憲法15条)を行使できるという一般的意義を有していますが、次の総選挙は、衆議院での与野党逆転により政権交代が実現し、政治が大きく変わる可能性があるため、その意味で特別な意義を有してもいます。
 一般に、政権交代は、権力の腐敗・暴走に歯止めをかけ、議院内閣制・議会制民主主義を活性化させる重要な意義を有しています。ですが、実際にそのような意義が発揮されるためには、政権交代が形式的ではなく、実質的なものでなければなりません。政権交代が起きても相変わらず同じような政治が行われていたのでは、政権交代した意味はないからです。
 1993年総選挙では細川護煕「非自民・非共産」政権が誕生しましたが、衆議院議員の選挙制度を中選挙区制から小選挙区本位のものに改悪するなどして「政治改革」(政治改悪)が強行されました。その後の政府・与党は、現憲法とは相容れない、“政治における新保守主義政策”と“経済における新自由主義政策”を、数の力で強行してきました。両政策は、具体的に言えば、「専守防衛」路線を否定して自衛隊を海外に派兵しアメリカの戦争に協力させ、また、福祉国家政策を否定し、熾烈な自由競争を国民に強い、ワーキングプアを内包した構造的な格差社会を生み出してきた政策です。
 これはアメリカだけではなく財界も要求してきました。例えば日本経団連は、両政策を「優先政策事項」として具体的に列挙し、それに基づき自民党の政策を評価しそれに応じて傘下企業の政治献金を斡旋するなどして、自民党の政策を「買収」して財界政治を政府・与党に実行させてきました。
 ですから、次の総選挙では、財界政策を根本的に否定する政権ができなければ、政権交代の意味はほとんどないと言えるでしょう。残念ながら一挙に“憲法に基づく政治”は望めないとしても、せめて平和憲法の明文改悪の阻止はいうまでもなく、自衛隊の海外派兵を本格化させる一般(恒久)法の成立を阻止し、労働者の使い捨てや経済的・社会的弱者への「痛み」の押し付けを許さない政権ができなければ、実質的政権交代とはいえないでしょう。

民主党政権に対する危惧

 今の衆議院議員の選挙制度は、比例代表選挙をオマケとして付加しただけの小選挙区本位の選挙制度で、大政党の候補者が当選する可能性が高いため、政権交代が実現するとすれば、野党第一党である民主党が躍進することになるのかもしれません。実際にどのような選挙結果になるのか全く見通せませんが、かりに民主党政権になった場合、“実質的な政権交代と評価できるのか”を問えば、正直言って、これまでの民主党の政策から判断すると疑問が生じます。
 というのは、民主党あるいはその中の主要なグループは、財界政策を推進してきましたし(たとえば、前述の細川連立政権、自自政権、自自公政権など)、民主党『安全保障基本政策』(1999年6月24日)では、グローバル化した日米安保体制を肯定し、民主党憲法調査会『憲法提言』(2005年10月31日)では、創憲という形で明文改憲を主張してきたからです。
 特に自衛隊の海外派兵問題に関する重大な論点で言えば、民主党の小沢一郎代表は、雑誌『世界』(2007年11月号)で、「国連の活動に積極的に参加することは、たとえそれが結果的に武力の行使を含むものであっても、何ら憲法に抵触しない、むしろ憲法の理念に合致する」と表明する一方、ISAF(国際治安支援部隊)への参加につき、「今日のアフガンについては、私が政権を取って外交・安保政策を決定する立場になれば、ISAFへの参加を実現したい」などと矛盾する見解を表明していました。
 また、今の臨時国会では、政府がインド洋での給油活動を継続する新テロ対策特別措置法改正案を提出しており、民主党の執行部は、これに反対の立場のようなのですが、徹底審議を要求して廃案に持ち込もうとせず、与党の採決の提案に必ずしも反対してはいないため、マスコミは今月末に成立の見通しと報じています。
 日本経団連が政策を評価して企業献金を斡旋しているのは、自民党だけではありません。民主党にも働きかけをしています。民主党は、これまで官僚政治を批判してはいますが、財界政治を批判していませんから、かりに民主党政権ができれば、日本経団連は傘下企業による政治献金の斡旋の比重を、自民党から民主党にシフトする可能性が高まります。民主党はその政治献金を欲しがれば、これまで以上に財界政策を取り入れるのではないかと危惧されます。
 しかし財界政党同士の政権交代では実質的な政権交代にはならないのです。

望まれる選挙結果と政治改革のやり直しの必要性

 財界政治を阻止し、政権交代を実質的なものにするためには、いわゆる護憲政党も(特に比例代表選挙で)大きく躍進して、民主党政権が財界寄りにならないよう“歯止め”をかけることが不可欠になります。
 また、政権交代後は、政治改革をやり直し、真の政治改革が実現されなければなりません。具体的に言えば、小選挙区選挙は、多大な民意を死票として切り捨て与党の過剰代表を生み「虚構の上げ底政権」を作り出し、時には二院制を骨抜きにする可能性もある非民主的な選挙制度ですから、即刻廃止されるべきです。また、日本経団連が政党を「買収」していますから、そうさせないためにも企業献金は全面的に禁止すべきです。さらに、政党を事実上国営化して国民から遊離させてきた政党助成は廃止すべきです。政党は個々の国民から浄財を集めるようにならなければ、“社会(国民)に根ざす”という本質を取り戻せません。
 こうして真の政治改革がなされなければ、今の“事実上の財界主権”状態を“憲法本来の国民主権”に引き戻し、将来に向けて“憲法に基づく政治”へと踏み出せないでしょう。
 (2008年10月16日脱稿)

◆上脇 博之(かみわき ひろし)さんのプロフィール

神戸学院大学大学院実務法学研究科(法科大学院)教授・憲法学

1958年7月生まれ。鹿児島県姶良郡隼人町(現「霧島市隼人町」)出身。
1984年3月、関西大学法学部卒業
1991年3月、神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得退学
1991年4月〜1993年3月、日本学術振興会特別研究員(PD)
1994年4月、北九州大学法学部・専任講師(赴任)
1995年4月、同大学同学部・助教授
(2001年4月、北九州市立大学法学部・助教授[大学の名称変更])
2002年4月、北九州市立大学法学部・教授
2004年4月〜現在、神戸学院大学大学院実務法学研究科・教授

学位
博士(法学) 2000年2月 神戸大学

市民運動
政治資金オンブズマン共同代表
兵庫県憲法会議幹事(事務局長)

単書
(1)『政党国家論と憲法学 ― 「政党の憲法上の地位」論と政党助成』信山社・1999年[北九州大学法政叢書17]。
(2)『政党助成法の憲法問題』日本評論社・1999年。
(3)『政党国家論と国民代表論の憲法問題』日本評論社・2005年[神戸学院大学法学研究叢書14]。

近年の主要論文
(1)「政党の改憲への動き」全国憲法研究会編『続・憲法改正問題』(法律時報増刊)日本評論社・2006年22−30頁。
(2)「各政党の憲法観」法学館憲法研究所編『日本国憲法の多角的検証 ― 憲法「改正」の動向をふまえて』日本評論社・2006年159−188頁
(3)「政党政治の変容」憲法理論研究会編『“改革の時代”と憲法』敬文堂・2006年123−136頁。
(4)「安倍政権半年の『政治とカネ』問題」『月刊マスコミ市民』NPO月刊マスコミ市民フォーラム461号(2007年6月号)7−11頁。
(5)「政党政治の現実と議会制民主主義の復活!?」『法律時報』988号(2007年10月号)1−3頁。
(6)「補給支援特措法の成立とその手続き上の憲法問題」『法学セミナー』640号(2008年4月号)4−5頁。
(7)「『政治改革』とは何だったのか、その『やり直し』の展望」『法と民主主義』430号(2008年7月号)4−9頁。
(8)「自衛隊イラク派遣の差止請求が却下され、慰謝料請求が棄却された事例(箕輪訴訟)」・「自衛隊イラク派兵差止等請求の控訴が棄却されたものの、自衛隊の活動には違法・違憲な活動が含まれていると判断された事例(自衛隊イラク派兵違憲名古屋高裁判決)」速報判例解説編集委員会編『速報判例解説』vol.3(2008年10月)11−14頁、35−38頁。

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