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ドキュメンタリー映画「フツーの仕事がしたい」を制作して

2008年9月29日

土屋トカチさん(映画「フツーの仕事がしたい」監督)
 
 この度、「フツーの仕事がしたい」というドキュメンタリー映画を制作し、劇場公開が決定致しました。
 最長で月552時間もの長時間労働を強いられていたセメント輸送運転手・皆倉信和さん(37)が一人でも入れる労働組合・全日本建設運輸連帯労働組合(以下、連帯ユニオン)に加入し、まともな労働条件を獲得するまでの過程を描いた映画です。「長時間労働」「社会保険未加入」「残業代なし」「暴力を用いた組合脱退強要」「元請け、孫請け」など、現代ニッポンに溢れている問題がギッシリと詰まっている作品に仕上がりました。しかし、この作品は当初から「労働問題に関する長編ドキュメンタリーを作ろう」と意図したものではなく、偶然が重なる中で生まれたものです。
 元々、映画「フツーの仕事がしたい」は、連帯ユニオンの組合員向けの短編「労働者は奴隷か!」(21分)という作品で、いわば身内向けの映像作品でした。その後、レイバーネット日本主催のイベント・レイバーフェスタ、レイバー映画祭等で上映される機会を得て、その反響の大きさから長編ドキュメンタリー制作へと至りました。連帯ユニオンは、重要な闘争を迎える時、この闘争はどのような内容なのか、なにがポイントなのか、全国の組合員に対し、理解を深めるために映像を積極的に活用している労働組合です。私は、連帯ユニオンと6年来、映像制作面で共同作業をさせていただいています。その流れで、映画の主人公である皆倉さんにお会いすることになったのです。
 
 2006年4月8日。私は皆倉さんと初めてお会いしました。場所は、彼が勤めている運送会社の事務所。会社の社長や自称・会社関係者と名乗る不審な人物に取り囲まれ、退職願いを書くよう強要されていました。皆倉さんの顔色はとても悪く、土色のよう。髪の毛には綿ぼこり。そして、体は小さく震えているように見えました。ビデオカメラを構え、組合員のうしろにくっついて事務所へ入った私は、会社の社長から「出て行け」と蹴飛ばされ、自称・会社関係者からは、手にたばこの火を押し付けられました。なかなかの歓迎ぶり。この時点で私は「記録者」から「当事者」に変化せざるを得なくなってしまったのです。
 翌日、4月9日。皆倉さんのお母さんが心労のため病が悪化。急死されます。皆倉さんの自宅へは、自称・会社関係者が連日押しかけてくるようになります。そして、4月12日。彼らは、葬儀会場である斎場までも押しかけてきて、組合脱退強要を行います。お母さんが荼毘に伏せられている最中に、です。
 葬儀に参列していた私は、自称・会社関係者にビデオカメラを持つ手を叩かれ、眼鏡を壊され、左太ももを数回蹴飛ばされました。同行していた組合員2人も、全治2週間の怪我を負わされました。私は我慢が出来ず、ビデオカメラをまわしながら「暴力はやめろ」と何度も声を上げていました。どうしても我慢できませんでした。なぜ労働組合に加入することで、親の葬儀まで潰されなければならないのか。会社の利益のために、労働者は、ここまで人間性を否定されなければならないのか。私は何のために、ビデオカメラを手にしているのか。この日から、この件に関する撮影で「記録者」として中立的に振舞うことが全くなくなりました。
 通常の記録映画、テレビドキュメンタリー等では、記録者が目の前の現象に参加しすぎることを「良し」としない風潮があります。中立性を求められることがほとんどです。片方の意見、つまり今回の場合ですと労働組合の言い分を聞いたら、もう一方である会社の言い分も聞くというのが取材のイロハとして求められます。しかしながら私は、今回の作品では、そういったモノから完全にふっきれてしまった感があります。誰のために撮るのか。誰の目線で撮るのか。皮肉にも、自称・会社関係者の暴力によって「お前は何者なのだ」と、明確に提示されたかのようです。これまでに数本のドキュメンタリー映像を制作してきた私にとって、大きな変化でした。「お前はこの出来事を、我が身の問題として捉えることができるのか?」と絶えず頭の中で問われ続けている感じ、と言えばよいのでしょうか。
 私自身も大学を卒業してから、職を転々としました。ちょうど就職氷河期の始まった頃でした。新聞奨学生として販売店に住み込みで働いていた私に、就職活動をじっくりと行う時間はありません。大学を卒業をしたものの、自分の納得できる就職先は簡単には見つかりませんでした。それでも書店員や映像制作会社に就職することができました。これらの職場では正社員扱いでしたが、完全に労基法を守っている職場など一つありませんでした。工場の請負工をやっている時や、日雇い派遣をやっていた頃が大変ひどく、賃金は一方的に下がっていきました。「フツーの仕事がしたい」と、心に思うことは、私にとって日常茶飯事でした。悲しいことですが、今の世の中、憲法で保障されていることがしっかり守られている職場を見つけることは、至難の業なのかもしれません。誰しも「フツーの仕事がしたい」と思っているのが現状かと思います。
 「フツーの仕事がしたい」には、具体的な企業名や団体名がそのままの表記で画面に登場します。しかし、特定の企業を告発するといった内容ではありません。特定の労働組合が素晴らしいと「ヨイショ」する内容でもありません。テーマは何かと問われたら、「命を否定することを憎む。人間であることを否定するような行為そのものを憎む。」と答えます。現代ニッポン人にとって、鏡のような映画に仕上がったと思います。ご覧いただいた方にとって、どのように映るのか。とても楽しみです。

◆土屋トカチさんのプロフィール

1971年生まれ。京都府舞鶴市出身。龍谷大学法学部卒。新聞奨学生をしながら大学を卒業。
書店員、工場勤務等を経て、00年映像制作会社へ就職。02年会社都合により解雇。
現在フリーランス映像ディレクター。映像グループ ローポジション所属。
主な作品「たのしき われらが楽生院」(06年)「フツーの仕事がしたい」(08年)。

「フツーの仕事がしたい」詳細
 ●映画「フツーの仕事がしたい」公式ブログ



 
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