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ドキュメンタリー映画『未決・沖縄戦』から日本国憲法が見える

2008年9月15日

輿石正さん(映画『未決・沖縄戦』監督)
 「沖縄戦」というと、第32軍司令部のあった本島中南部での戦闘に照準があてられ続けてきた。そして、その第32軍の指導者である牛島満司令官、長勇参謀長らの自決の日である6月23日が沖縄戦終決の日であるとされている。こうした戦争のとらえ方に私たちは慣らされてきている。そこに沖縄戦を風化させ、捏造・歪曲させる源がひそんではいないか。牛島司令官が残した最後の「軍命」には、本土防衛のために最後の一兵まで戦うべし、とあるように、沖縄戦はその後も続いていたのである。本島北部山原(ヤンバル)での戦争は、文字どおり司令官の「軍命」を体現させるものであった。日本の敗残兵が次々と逃げのび、それを追う形でなされる米軍の掃討作戦は1945年11月まで続いていた。指揮系統を失った日本軍は山原の地でゲリラ戦と食料強奪をくり返した。問題は、その北部という地域が中南部からの一般住民が避難民として大量に逃げこんだ地域であった、ということである。ゲリラ戦と掃討作戦にはさまれ逃げまどう避難民がどのような惨状を呈したか、そこを欠落させた沖縄戦理解はありえない。ピーク時には沖縄本島の人々の70%が北部にいたのである。
 第32軍司令部の崩壊が沖縄戦の終決である、とする思考枠は「戦争」というものをとらえるには危険である。おそらく、そのような思考枠は、現在進行形のイラク戦争やアフガンでの戦いなどをとらえる時にも無意識のうちに使われているにちがいない。その先には、戦争をテレビゲームの「戦争ごっこ」とか「殉国美談ファッション」がある。「ファッション」が「ファシズム」と同語源であることを思えば、それらの現象を笑ってはいられない。沖縄山原での沖縄戦は、それらの現象の核をえぐり出すものを含んでいる。
 沖縄に来て22年目、私はようやく気になっていたものに手をつけた。それが、ドキュメンタリー映画『未決・沖縄戦』となっていった。この映画をつくるずっと前から、私は沖縄北部を中心とした『字誌(字史)』・『個人史』を読んできた。それらのどれにも必ずあらわれる「沖縄戦」を読みながら、定番化されつつある「中南部中心の沖縄戦」のもつ危うさを感じてきていた。「戦闘」と「占領」と「戦後」が同時に併行していた北部山原での沖縄戦は、その定番化した型をつきくずし、「沖縄戦」を本来の実相に向きあわせるものを含んでいる。沖縄戦を北部山原からとらえ直したドキュメンタリー映画は今までひとつもなかった。12人の証言者の話は、笑い顔のなかにも「戦争」というものの広がりと深さ・重さを伝えて余りあるものであった。
 「証言者」とは死者に最も近い「死ななかった人」である。であるからこそ、証言者の話は「死者」をどこかにたずさえ、それを未来に投げかえすものをふくんでいる。沖縄戦のなかで最も過酷な任務を強制されしいたげられた朝鮮人軍夫・朝鮮人慰安婦の話が、証言者の口から何回も出た。その朝鮮の人々は、今回の映画の中の証言者としてはひとりも含まれていない。私は証言者を通して、この<不在の証言>にきっとある<希望>を描いてみたいと願った。この映画が「アジアの人々の視点」にこだわった理由でもあった。
 有事法制化が急ピッチで進み、憲法を変えることのできる「国民投票法」ができたいま、なぜ日本国憲法が今の内容として定着したのかを再考することは大切だ。「日本国憲法」の裏には「太平洋戦争」があったのであって無傷でできた憲法ではない。「太平洋戦争の風化」は「日本国憲法の風化」と同義語である。「沖縄戦」は、本土防衛のための捨て石作戦として遂行されたが故にこそ、「日本国憲法」を捨てることを断じて許さないものがこもっている。敗戦から27年間日本国憲法の下にくらすことのなかった沖縄だからこそ、「憲法と戦争」をひとつのものとして捉えることができるものがある。『未決・沖縄戦』のラストシーンが日本国憲法を変えようとする動きを追ったものとなったのは当然のことであった。私は北部山原の『字誌』と「証言者」から日本国憲法を見続けてこの映画を完成することができた。

映画『未決・沖縄戦』のホームページはこちら


<法学館憲法研究所事務局から>

法学館憲法研究所は下記のように映画『未決・沖縄戦』の上映会を開催しますのでご案内します。
いずれも入場無料・予約不要です。
 10月10日(金)18:30〜 伊藤塾東京校(東京・渋谷)にて
 10月25日(土)10:00〜 伊藤塾東京校(東京・渋谷)にて
くわしくはこちら

◆輿石正(こしいし まさし)さんのプロフィール

1946年3月 山梨県生まれ
沖縄・山原に移住して22年
名護高等予備校、じんぶん企画代表
エコネット・美設立同人
『沖縄を知る事典』(共同編集)2000年
『沖縄を深く知る事典』(共同編集)2003年
『基地はいらない・命の響き』制作・プロデュース 2002年
思想の科学会員
新聞・雑誌に雑文を書き散らす



 
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