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おおいに語ろう、自衛隊イラク派兵違憲判決(後編)

2008年9月1日

川口創さん(イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長)
伊藤真(法学館憲法研究所所長)
 前回に続いて自衛隊イラク派兵違憲訴訟弁護団の事務局長の川口創さんと伊藤真所長の対談です。今回は裁判をした熱い想い、訴訟活動や裁判運動をどのように進め、展開したのか、そしてこれかどう生かしていくかについて語っていただきました。

判決全文はこちら(PDF)

(伊藤)
 この訴訟にはさまざまな人たちが関わりました。特に、若い人たちとか、今まで法律にあまりなじみのない人たちもたくさん関わりましたね。

■若い人に広がっていった「イラクの子供たちを殺すな!」

(川口)
 裁判を起こした時点で、私自身の原点としては、イラクの子供たちに対する加害者の立場に立ちたくないという気持が大きかったですね。憲法9条を守るということは目的というより手段に過ぎません。開戦前から「セイブ・イラクチルドレン」という、名古屋の小野万里子弁護士たちが起ち上げたNGOのようなものがありまして、私はその活動に関わっていました。その後自衛隊のイラク派兵の問題が出てきました。軍隊では本当の意味での人道支援はできず、イラクの人の敵になってしまいます。ですから、その時点で、法律家としてイラク派兵をなんとかして食い止めたいという想いがありました。他方で、周りの市民の間でもイラク派兵を止めるために裁判所でなんとかできないかという声がありました。しかし弁護士の間では、裁判所に訴えても門前払いされてしまうので難しいというのが多数でしたが、市民の声を弁護士が封殺してしまっていいのかという想いがありました。そこで、裁判を真剣にやりつつ、たとえ裁判で負けてもイラクから自衛隊を撤退させる声を上げ続けていく運動の一つの軸にするという発想でやりましょうと声をかけました。運動となると、一部の平和運動を一生懸命にやっている人たちだけでは広がらず長続きしないので、若い人たちを含めて多くの人たちに参加を呼びかけました。
 そこで、すぐにホームページを作って、訴状も「ですます調」にしました。イラクというと「フセインの国」というイメージが強いですが、湾岸戦争で働き盛りの大人がたくさん亡くなり子供が多く、しかもその子供たちが劣化ウラン弾の被害でどんどん死んでいる、そのうえにまた戦争をしかけようとしていることを、特に9条を持つ日本として許せますか、ということを分かりやすく書きました。高校生を含めて全都道府県から約3000人の原告が集まりました。若い人には9条を知らない人もたくさんいました。初めて聞いたと。“キュウジョウ”と言ってもいろいろありますからね(笑い)。一致点はイラクの子供たちを殺したくないということです。そのためには9条という条文も使えるんだというシンプルな発想です。9条を守るということも大事ですが、目の前の子供を殺さないために9条を使うということが本当の意味の9条の使い方じゃないかと。それが学生さんにとってみると理解しやすかったという印象を持っています。1945年の戦争というのは、20歳位の人からみると大昔の戦争です。イラクの問題は「今」のことですし、幼い子供が殺されるのは胸が痛む、飛行機で行けばそう遠くのことではない、というのが若い人からみると理解しやすいく、広がっていったのだと思います。

■原点は「いのちを守る裁判」

(伊藤)
 日本の裁判所の現状を知れば知るほど、この訴訟を起こすのは無理だという意見が出たのは、ある意味で当然なことです。そういう先入観から自由になり、本当に自分がやりたいことは何なのか、本質に近づくにはどうしたらいいか、じゃあ9条を使ってみようということだったのですね。法律家の中にいながら専門バカにならないで、伺ってきたような訴訟の形を作れた原因というか、きっかけというのは何なのでしょう。川口さんのどういうものがこの裁判を生み出したのでしょうか。

(川口)
 やっぱりこの裁判は「いのち」の裁判だと思いました。裁判所から見ると、「9条を守る」ということを語ってくると、「政治的な裁判」なんですね。PKOとか湾岸戦争の時の訴状も見ました。すると政治的なアピールなんです。これじゃあ、裁判官は受け付けないと思いました。そこで極端に発想を変えて、私の原点は「いのち」を守る裁判だと、生命や人権を守るということは、まさに裁判所の役割でしょうということを裁判所にいかに伝えるかということを考えました。そして今まで平和運動をしたことのない多くの市民、若い人の感性に訴え共感を呼べるものがないと裁判所に伝わるはずがないだろうということでいろいろ工夫しました。それで、「ですます調」の訴状にしたり詩を書いてもらったりしました。

 ただ、準備書面は事実関係を克明に調査して本腰を入れて書きました。ヨルダンに調査に行ったり、新聞記事もたんねんに切り抜いて出しました。9条の理論的な問題もていねいにていねいに書面化するなど、法廷の中でも真剣に闘ってきたつもりです。

 他方で、出発点から、裁判の目的を裁判で勝つことではなく、裁判運動であり、イラクから自衛隊を撤退させることに置きました。内藤功弁護士から「訴訟で勝とう思うな。運動で勝て。」と言われたことがけっこう励みになりました。

■毎回、市民に開かれた勉強会や市民集会を行った

(川口)
 そして、主体は原告の方々ですから、原告の皆さんが思うような、市民が続けられる裁判でなければなりません。そこで、例えば法廷で集団的自衛権に関する準備書面を陳述したら、次の期日までに集団的自衛権についての勉強会をやりました。学者を呼んだり、原告だけでなく市民に開かれた市民集会とか勉強会を必ずしました。市民に広げていくということは常に意識しました。法廷に来ただけでも勉強になるように、裁判官にていねいな審理を求めたり、準備書面の内容も市民の皆さんに法廷で分かりやすく伝えました。原告の意見陳述は1回の法廷で4人ずつしましたのでけっこう時間がかかりました。陳述書は、全国に住んでいる原告の所に弁護士が赴いて一緒に作成しました。弁護士が行くと原告も本気になります。名古屋だけ盛り上がってもしょうがないので、全国の各地域地域で盛り上がるようにしました。それが“運動”ですね。法廷に来られる人は非常に限られていますから、地域ごとにがんばっている人が増えていくということが非常に大事です。例えば、「イラク訴訟名古屋高知原告の会」から法廷の度に誰かが名古屋に来て、弁護士も高知に行って報告しました。私は高知には4回行きました。行く先々で素晴らしい人に出会えるのが財産になります。

(伊藤)
 お話を伺っていて、運動という面と裁判するプロとして本気なんだということの両面のバランスが大切なのだなと思いました。運動だけですとパフォーマンスになってしまいますが、事実や証拠をきちんと踏まえて裁判の王道を踏まえるという両面がとてもうまくいったのですね。

■判決をどう生かすか ― これからの課題

(伊藤)
 さきほど、課題は裁判所から市民に投げ返されたという話がありました。問題は山積みですよね。イラク派兵をどうするか、派兵恒久法、地位協定、などたくさんあります。この判決を生かしてこれからどう立ち向かって行ったらいいかについてお聞かせください。

■まずはイラクからの撤退の実現、そして派兵恒久法を作らせないこと

(川口)
 判決の生かし方として、まず短いスパンでの見方と長期のスパンでの見方と両方必要だと思います。短期的には、イラク派兵の期限は来年来ますが、それを再延長させないことが最低ラインです。期限より前にイラクから撤退させることが大事だと思います。また、派兵恒久法を作らせないことが急務だと思います。そのためには、多くの市民の方たちに、一気にこの判決を広げていくことが大事だと思います。判決の話をすると、けっこう衝撃を与えるようです。判決から派兵恒久法のことを話すと、わりと確信になります。しかも、弁護団は若い人が多いです。私は35歳ですが、こういう若僧が行って話すと親近感もわくし、新鮮なようです。若僧ががんばっているならということで皆に力を与えているところがあるかもしれません。

■「歴史的判決」を「歴史」にしない ― 判決をリレーしていこう

(川口)
長期的なスパンでは、軍事国家化を進める勢力と軍事に依存しない平和を目指す勢力のきっこうはずっと続きますよね。憲法9条がある限りは。その中で、次の世代にいかに運動を承継していくかということが大事だと思います。どこへ行っても一定のお年の方が多いと言うのでは困ります。この判決は長沼訴訟などの闘いを承継しています。多くの教訓があり、市民の声があり、横のつながりと時間のつながりがあってこの判決にたどり着きました。ですから、この判決をずっとリレーしてゆかなければなりません。判決に現れた9条の精神をいかに次の世代にリレーしてゆくのか。その意味で、「歴史的判決だ」ということで「歴史」にしてはいけません。この判決を力にしながら、皆が新しい運動をそれぞれ新しい感性で作っていっていただきたいと思っています。この判決はすべての人に開かれた判決ですから、息の長いリレーをする人たちをどんどん作っていかなければならないと思っています。
 今年1月31日の結審の前の時点で、違憲判決が出たら全国行脚すると決めていたものですから、去年の10月に弁護士になったばかりの人も集めて弁護団に入ってもらいました。今その人たちにも判決の報告会に行ってもらっています。弁護団の若手ががんばっているなということになると、行った先の人たちも元気が出ます。同時に、若い弁護士も人前で話しして学び成長していっています。自分ひとりでできることは限られていますから、一人でも多くの仲間を作って、先へ先へリレーしていくことが大事だと思います。大学生や高校生にも話しています。

(伊藤)
 どうもありがとうございました。歴史的判決を歴史にしない、そのためにも皆でリレーしていく、それがまさに責務として私たち一人ひとりに託されているのですね。それぞれの人がそれぞれの立場で判決を受け止め、実行できることはたくさんあると思います。


判決全文はこちら(PDF)

◆川口創(かわぐちはじめ)さんのプロフィール

 1972年埼玉県生まれ。
 現在名古屋第一法律事務所所属。
 イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長。


◆伊藤真所長のプロフィール

 1958年生まれ。
 1995年、憲法を実現する法曹養成のため「伊藤真の司法試験塾」(現在の伊藤塾)を開塾。
 ・法学館憲法研究所所長。
 ・憲法の理念を広める講演活動も各地で行っている。

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