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今週の一言

 

おおいに語ろう、自衛隊イラク派兵違憲判決(前編)

2008年8月25日

川口創さん(イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長)
伊藤真(法学館憲法研究所所長)
 イラクでの自衛隊の活動が、今年の4月17日、名古屋高等裁判所で違憲(9条1項違反)と判決されました。憲法前文に規定されている「平和的生存権」が具体的な権利であると明確に判断されたこととあいまち、違憲審査の歴史上極めて注目される画期的な判決です。判決は5月2日に確定しました。
 この訴訟には全国から3000人が原告として参加し、さらに原告を支えた多くの市民の方が非常に熱心で独創的な裁判運動を展開しました。この裁判は、学ぶべきことをたくさん含み、今後に向けて大きな力を秘めています。
 弁護団の事務局長を務められた川口創さんと伊藤真所長に、この判決の意義と運動の展開、そして今後どう生かすかについておおいに語っていただきました。
 2回に渡って掲載いたします。今回は判決の意義です。長文ですが、とても濃い話です。

 判決全文はこちら(PDF)

(伊藤)
 名古屋からお出でいただきありがとうございます。よろしくお願いします。今回は前編として、判決の内容、意義についてお聞かせください。

【第1 私たちは今、憲法違反のイラク戦争に参加している】

(川口)
 判決についてまず強調したいのは、私たちの自衛隊は今イラクで戦争をしているんだということが明確に指摘されたことです。憲法9条1項は戦争放棄をうたっています。ですから、自衛隊のイラク派兵は、9条1項に違反して違憲だと判断されました。自衛隊がイラクで戦争をしているという事実を、私たち自身の責任としてきちんと結び付けた判決です。
 私は今たくさんの所で講演しています。これを「講師養成講座です」と話しています。非常に分かりやすく書かれた判決ですので、私の話を聞いた方はいろいろな所でこの判決を説明し広げていただきたいと思っています。

■当初の目的を達成した実質的な勝訴判決

 確かに、判決の主文を見ると形のうえでは負けています。国が憲法違反の行為をしても、国民が異議を申し立ててそれをストップさせるシステムにはなっていませんので、通常の民事訴訟の中で憲法違反を訴える方法しかないからです。
 しかし、私たちは、自衛隊のイラク派兵は憲法違反だと司法で判断するべきことを目的としてきました。この判決は、判決理由の中で、自衛隊のイラク派兵は憲法違反だと指摘しています。したがって、裁判の当初の目的どおりの判決で実質的には勝訴だと弁護団では判断しています。

 福田首相らは、違憲判断は「判決の傍論に過ぎない」と言ってこの判決を軽視しようとしています。しかし、判決(冒頭の「判決全文」をご覧ください)の3ページの「第3 当裁判所の判断」の「2」をご覧ください。「本件派遣の違憲性について」という項目があります。これは、とりもなおさず、裁判所は本判決の主要な争点であるイラク派兵の違憲性について正面から向き合って判断しますよ、という決意の表れです。他のことを検討して傍論として付け足し的に判断したというのではありません。ですから、この違憲判断は重く受け止めなければなりません。

■自衛隊は多国籍軍に「参加」した

 内容に入ります。(1)認定事実の中で、まず「ア」として「イラク攻撃及びイラク占領等の概要」をしっかり確認しています。その「ウ」で、「多国籍軍が発足し、この多国籍軍に日本の自衛隊も参加することになった」と書いてあります。政府は、自衛隊は「多国籍軍の“傘下”に入ることになったが多国籍軍の指揮権は受けていない」と言い訳をしてきました。それは、多国籍軍に「参加」と言ってしまうと、9条2項で禁止している「交戦権」を行使していることになるのでごまかしているのです。判決はこの言い訳を認めていません。
  判決は(オ)で、「当初のイラク攻撃の大義名分とされたフセイン政権の大量破壊兵器は,現在に至るまで発見されておらず,むしろこれが存在しなかったものと国際的に理解されており,平成17年12月には,ブッシユ大統領自身も,大量破壊兵器疑惑に関する情報が誤っていたことを認めるに至っている。」と述べています。私たちは、「ブッシュですら大量破壊兵器があったというのは誤りだったと認めており、他の国の政府もイラク戦争は間違っていたということで選挙で負けたりしている。しかし、日本だけが唯一イラク戦争についての反省をしていない。憲法9条があるにもかかわらずそれでいいのか」と批判してきました。判決は、この私たちの主張に対応して同じくイラク戦争を批判しているものだと受け止めています。

■イラクでしていることは「国際貢献」ではない

 (カ)では、「イラク攻撃開始当初の有志連合軍及びCPAからの主権委譲後の多国籍軍に参加したのは,最大41か国であり,いわゆる大国のうち,フランス,ロシア,中国,ドイツ等は加わっておらず,イラク攻撃への国際的な批判が高まる中,参加国も次々と撤収し,現在(08年1月31日)の参加国は,アメリカ,英国及び我が国を含めて21か国となっている。」と述べています。
 日本は「国際貢献」とか「人道支援」とか言ってイラク戦争などに参加してきました。そして今また自衛隊の海外派兵恒久法を同じ説明で制定しようとしています。しかし、多くの国が当初から参加せず、しかも次々と撤退する国がある中で、日本はアメリカに最後まで付き従っている稀に見る異常な国だということをここで確認する必要があります。「国際貢献」でも何でもありません。

■ファルージャで市民を大量虐殺

 5ページでは「ファルージャ」のことが書いてあります。大阪の原告である西谷文和さんがイラクに行かれて「イラク 戦場からの告発」というDVDを作りました。法廷でも映して、いかに罪のないイラクの子どもたちが殺されているかという実態を見ていただきました。これを見て裁判官も変わって行ったと思います。「ファルージャにおいて,アメリカ軍兵士4000人以上が投入され,クラスター爆弾並びに国際的に使用が禁止されているナパーム弾,マスタードガス及び神経ガス等の化学兵器を使用して,大規模な掃討作戦が実施された。残虐兵器といわれる白リン弾が使用されたともいわれる。これにより,ファルージャ市民の多くは,市外へ避難することを余儀なくされ,生活の基盤となるインフラ設備・住宅は破壊され,多くの民間人が死傷し,イラク暫定政府の発表によれば,死亡数は少なく見積もって2080人であった。」と書いてあります。
ポイントは2点あります。武装勢力の掃討の名のもとに掃討作戦が行われましたが、「武装勢力が掃討された」とは書いてありません。アメリカがしている掃討作戦というのは、結果としては市民に対する大量虐殺であり、市民の生活をめちゃめちゃに破壊することであるという、アメリカが今行っている戦争の実態や本質が書いてあります。第2に、アメリカが使用している武器や弾薬について、単に名称を並列するだけでなく、「国際的に使用が禁止されている」「残虐兵器といわれる」という修飾語をあえて残しています。淡々と書いているよう見えますが、文脈からは「許せますか」という裁判官の怒りや心の痛みがにじみ出ていると思います。

■今でも激しい空爆が続き多数の被害者を出している

 次に、(イ)で「首都バクダッド」について書いています。それは今でも私たちの航空自衛隊がクウェートから輸送活動している輸送先として私たちが関わっている場所の問題だからです。7ページの「f」と8ページの「g」には「このようにアメリカ軍を中心とする多国籍軍は,時にイラク軍等と連携しつつ掃討作戦を行い,特に平成19年に入ってから,バグダッド及びその周辺において,たびたび激しい空爆を行い,同年中にイラタで実施した空爆は,合計1447回に上り,これは前年の平成18年の約6倍の回数となるものであった。アメリカ軍は、平成20年1月8日から、イラク軍とともに、イラク全土で大規模な軍事作戦『ファントム・フェニックス』を開始し、同月10日からは、その一環として、バクダッド南効において大規模な集中爆撃を行い、40箇所に爆弾を投下した。」と書いてあります。平成19年というのはわずか去年の話です。日本国内では、イラク戦争というのは5年前に始まり、その当時は激しかったが今は内戦状態とは言いながらも治安維持活動は一定の効果を上げ、いつ撤退するのかということが問題になっているというような報道が出ています。しかし、現実はそのような状況ではありません。去年は、前年より6倍もの回数の空爆をしています。1447回というと、1日当たり4回はイラクのどこかでアメリカ軍が残虐兵器を使って空爆をしていることになります。「平成20年1月8日から」以降の文章は、結審した1月31日までのぎりぎりの情報をあえて残すことによって、過去の話でなく今でもこのような空爆が続いているということをきちんと残す必要があると判断して記録したのだと思います。

12ページに「オ 多数の被害者」という項目があります。イラクの人口は2700万人〜2800万人と言われていますが、英国の臨床医学誌ランセットによると、イラク戦争開始後から平成18年6月までの間における死者が65万人を超える旨の発表をしたことが記載されています。判決は続いて、「イラクの人口の約7分の1にあたる約400万人が家を追われ、シリアには150万人ないし200万人、ヨルダンには50万人ないし75万人が難民として流れ、イラク国内の避難民は200万人以上になるといわれている」と示しています。ファルージャの攻撃を見れば分かりますが、生活圏がめちゃめちゃに破壊されます。住めないので難民になります。お金のある人は隣国に出られますが、ない人は国内の避難民になっています。

■航空自衛隊の空輸活動―私たちは今イラクで戦争をしている

 13ページから私たちの問題である「航空自衛隊の空輸活動」が説明されています。航空自衛隊は輸送活動にC−130H輸送機3機を用いています。これは完全武装の空挺隊員64人を輸送することが可能です。この輸送機は飛行の際に地対空ミサイルを回避するための兵器であるフレア(火炎弾)を装備していて、実際にバクダッド空港での離着陸時にフレアが自動発射されています。

 平成18年の7月に陸上自衛隊はサマワから撤退します。今から2年前です。それまでは危険だからという理由で、航空自衛隊はバクダッドへの輸送活動はしていませんでしたが、それ以降、「アメリカからの強い要請により」、航空自衛隊はバクダッドへの空輸活動を開始しました。この要請は、軍事的要請です。
 航空自衛隊が輸送した内容について行政文書開示請求していますが、1件を除いて全て黒塗りの文書を開示するだけで、輸送内容を明らかにしません。この報告書をご覧ください。真っ黒です。この辺のことを追及した結果、武装した米兵を運び込んだことが大半で、物資はほとんど運んでいないことがはっきりしています。
 20ページの「しかるところ」以下に「(航空自衛隊の輸送活動の)詳細は政府が国会に対しても国民に対しても開示しないので不明であるが,航空自衛隊は,前記認定のとおり,平成18年7月ころ以降バグダッド空港への空輸活動を行い,現在に至るまで,アメリカが空挺隊員輸送用に開発したC−130H輸送機3機により,週4回から5回,定期的に(クウェートの)アリ・アルサレム空港からバグダッド空港へ武装した多国籍軍の兵員を輸送していていること,これは陸上自衛隊のサマワ撤退を機にアメリカからの要請でなされているものであり,アメリカ軍はこの輸送時期と重なる平成18年8月ころバグダッドにアメリカ兵を増派し,同年末ころから,パブグッドにおける掃討作戦を一層強化していること,」と書いてあります。
バクダッドにおける掃討作戦を一層強化するというアメリカ軍の軍事作戦があったからこそ、アメリカから日本に強い軍事的な要請がありました。その要請でアメリカ兵を運んだのは、私たちの航空自衛隊です。

 7ページの「f」に戻りますと、「特に平成19年に入ってから、バクダッド及びその周辺において、たびたび激しい空爆を行い」とあります。平成18年の半ば頃からバクダッドに米兵を集中させて、19年になって一気に無差別殺戮を大展開します。これを支えたのは私たちの航空自衛隊です。私たちがやったことの責任は極めて重いということを、この判決は示しています。
 21ページの真ん中から下の方に、「(航空自衛隊は)多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているものということができる。したがって、このような航空自衛隊の空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍の武装兵員をバクダッドへ空輸するものについては、前記平成9年2月13日の大森内閣法制局長官の答弁に照らし、他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったと評価を受けざるを得ない行動であるということができる」との判断が示されています。大森長官の答弁は17ページの上の方に書いてあり、これらの要件に当てはめた結果「他国による武力行使と一体化した行動」と評価されています。

 このような判断のうえで、21ページの(4)で、「よって、現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は,政府と同じ憲法解釈に立ち,イラク特措法を合憲とした場合であっても,武力行使を禁止したイラク特措法2架2項,活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し,かつ,憲法9粂1項に違反する活動を含んでいることが認められる。」と厳しく断罪されています。

 私たちが殺しているのに等しいということをきちんと受け止めて「違憲」としたわけです。ですから、「違憲判決が出てよかった」と言っている場合ではありません。私たちは戦争をしているんだということがリアルに示されているわけですから、他人事ではありません。
 イラクの映像を見ていただいただけだと、「戦争はいけないね」とか「憲法9条を世界に輸出しなければいけないね」という反応が出てきます。その後に判決を読むと、イラクの子供たちを殺しているのは私たちだ、私たちが加害者の立場に立っているということがわかります。憲法9条を世界に輸出する前にすべきことがあるのではないでしょうか。私たちは、9条があるにもかかわらず、イラク戦争に最後まで加担しています。どうしても9条があると、アメリカはイラクでひどいことをやっているが、日本は9条があるからひどいことをやっていない、だから9条を守らなくてはいけない、という「美しい誤解」をしている人が多いようです。私たちはすでに戦争をやっているのです。
 政府は、陸上自衛隊の活動については人道支援だと大々的にアピールしていました。しかし、航空自衛隊については逆に情報を全く伝えようしていません。これは、航空自衛隊が人道支援をしておらず、開示出来るものが全くないということの証拠でしょう。
 軍事行動をしているので、開示内容は真っ黒です。これから準備されようとしている派兵恒久法についても、日本はまだ9条があるから大丈夫だということで、9条を守ることだけに焦点が置かれていると、この法律はすっと通されてしまう危険があるのではないでしょうか。今は、イラクで戦争をしているというリアルな実態をきちんと受け止める大事な時期だと思います。

【第2 平和的生存権について】

■7次訴訟の名古屋地裁判決も具体的権利だと認めた

 イラク訴訟は1次から7次まで訴訟がありますが、7次訴訟の2007年3月23日の名古屋地裁の判決(田近判決)で、平和的生存権の具体的権利性が認められ、控訴せず確定しました。この判決には「基底的権利」という言葉もあります。今回の判決はいきなり出てきたものではなく、この判決を先例としてその上に積み重ねたものです。僅かな期間に6人の裁判官が平和的生存権の具体的権利性を認めたわけです。ですから、平和的生存権をいかに具現化して使ってゆくかということが大事だと思います。

■平和的生存権は単なる条件とは違う基底的権利

 平和的生存権の内容については、それが単なる人権の「条件」ではなく、「全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利である」こと自体が判決で認められたことが重要です。ただの「条件」と違い、時の多数者によっても奪われないのが「権利」だからです。この点、伊藤先生が言われる、権利は多数者によっても奪われないという自由主義的な観点は非常に分かり易かったです。

■イラクへの派兵は日本の軍事国家化の牽引車

  23ページでは平和的生存権が具体的な権利である例を細かく示しています。私たちは、イラク派兵をしていたこの4年間に起きたことを確認してみましょうと提起しました。このことが背景にあります。この間に、防衛庁が防衛省になり、有事法制が通り、米軍再編促進法ができ日米の軍の再編が進み、アメリカ海軍の空母ジョージ・ワシントンが来ることになるなど、どんどん軍事国家化してきました。情報保全隊の問題もあります。それぞれが個々の問題であるかのように見えますが、大きな眼で見ると全体がつながっています。外で戦争をする国は、国内でも人権を弾圧します。このような日本の軍事国家化を引っ張っている牽引車の役割を果たしているのがイラク派兵です。ですから、今の軍事国家化の流れを食い止めるためには、イラク派兵は間違っていることを言うことが何よりも大事だということを主張してきました。
 判決で書いている「憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合」とは、有事法制のような場合を想定しています。その上の方で「戦争の準備行為」に触れていますから、ここで言う「遂行等」の「等」には、基地反対闘争なども含まれます。このあたりのことは、私たち一人ひとりが自分の言葉で豊かにしていっていただきたいと思います。例えば、横須賀にジョージワシントンが来るに際しては、平和的生存権の侵害であると、最近は訴えています。「平和的生存権」と言う言葉を使うのは、今までは裁判所に認められていない権利だということで、法律家の間でも恥ずかしいというような感じがあったと思います。しかし、これからは堂々と使えます。さらに、プライバシーの侵害とか環境権の侵害とかは限定した個人の問題になってしまいかねません。しかし、平和的生存権と言うと、皆の問題として使いやすくアピールしやすいですよね。その意味でも運動の中でどんどん使って豊かにしてゆくいいチャンスだと思います。

 なお書き以下は、「平和」が抽象的であるという最高裁の立場を一蹴しています。「自由」や「平等」も達成手段や方法は多岐多様ではないかという、すごくまっとうなことを言っていると思います。

■裁判官と対話が成立し、人としての気持ちを揺り動かした

 裁判所はどのような思いで判決を書いたのでしょうか。25ページの(3)の「控訴人らの本件損害賠償請求について」の項目の中で、「控訴人らは、それぞれの重い人生や経験等に裏打ちされた強い平和への信念や信条を有しているものであり」として、私たちの思いをきちんと認めてくれています。そのうえで、「そこに込められた切実な思いには、平和憲法下の日本国民として共感すべき部分が多く含まれているということができ、決して、間接民主制下における政治的敗者の個人的な憤慨、不快感又は挫折感等にすぎないなどと評価されるべきものではない」と述べています。普通、裁判所は、「平和」憲法という修飾語はつけません。私たちは、平和憲法とか、9条とか平和的生存権は単に憲法の条文としてあるのではなく、さまざまな運動の中で具体的に社会の中で根付かせてきたのだ、そういう意味で単純に言葉だけの問題ではなく、「平和憲法」の価値を共有してきたのだ、ということを強く主張してきました。これに対して裁判所は「平和憲法下の」市民として「共感すべき部分が多く含まれる」と言っているのですから、私たちとの対話がきちんとできています。
 私たちが声を挙げ続けたことで、裁判官の人としての気持ちを揺り動かし、良心を呼び起こし、この判決が生まれたのだと思います。この判決には、裁判官の心の動きが現れています。これほど人間らしい判決を私はこれまで読んだことがありません。このような判決を手にできて、裁判をして本当に良かったと思っています。

 このことから、私たちはあきらめないで声を上げ続けることがいかに大事かということを、改めて教訓にすべきだと思っています。

■私たちはイラクで人の生命を奪う側にいるという現実に向き合う必要性がある

(伊藤)
 最後に指摘された部分ですが、「強い平和への信念や信条」「切実な思い」「平和憲法」「共感」というような言葉は感動的です。
 そして、事実を大切にする裁判官だったのだなと思います。ていねいに事実を残そうという裁判所の執念のようなものを感じます。
 川口さんのお話を聞いて、やはり、事実にきちんと向き合わなければならないということを改めて思い知らされました。9条の問題とか平和運動というと、抽象的な9条の理念とか抽象的な平和、憲法の精神というようなきれいな言葉として語られ、それで9条は大切だということで語られがちです。そのことはもちろん大切なことですが、それで終わってはなりません。理想に対する現実はどうなのか、という現実をしっかりと見据えてはじめて、現実を理想に近づけてゆく努力が生まれてくるのだと思います。
 私たちは今、イラクでは人の生命を奪う側にいるという現実があるのですね。イラクやアフガニスタンで私たちがしていることの現実を知るということが、理想を実現していくうえでとても大切なことだと思います。

 私も講演などでこれまでの戦争で日本は加害者の立場にあったことをよく話します。被害を受けたことを語ることも大事ですが、加害の事実は忘れてしまいがちですし、教科書などでもほとんど書かれていません。今イラクでしている加害の事実が知らされていないのと同じように、15年戦争で日本がアジアの人たちにどれほど加害行為をしたかということはあまり知らされてきませんでした。今回のイラクの判決に接して、過去の戦争についても加害の事実にきちんと向き合うことによってきちんと教訓を学び取り、同じ失敗を繰り返しては絶対にいけないと再認識しました。

■平和を実現する道筋が明らかになった―ボールは私たちに投げ返された

(伊藤)
  平和的生存権については、日本の憲法がどういう形で平和を実現しようとしているかという憲法の構造の視点からみると非常に重要だと思います。この判決で、基底的で具体的に主張できる権利だということが明確になったことによって、平和を実現する方法が明らかになりました。憲法の前文第1項で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し」と規定しています。すなわち、まず国民主権のルートで、民主主義の力によって政府に戦争をさせないことをしっかり規定しています。しかし、民主主義の力、すなわち多数の意思は時に間違うこともあります。そこで憲法は、多数の意思によっても奪えない価値である人権として平和を保障しました。判決が、平和的生存権も、こうした人権であると明確に認めたことは、本当に画期的なことです。私たち一人ひとりが、平和的生存権を具体的な権利として裁判所を通じ自由主義のルートで主張することによって、平和を実現することができるのです。ということは、一人ひとりに平和を実現する責任が託されているということを改めて自覚しなければいけないということです。どんな人権でもそうですが、誰かが保障してくれるものではありません。まさに、一人ひとりに任せますよ、という判決だと思います。

(川口)
 ボールは私たちに投げ返されました。裁判所としてはやるべきことはやりました。国に対する「有罪判決」を出したのですから。刑の執行は国民に委ねているわけですね。今度は私たちが政治の場で自衛隊をイラクから撤退させ、派兵恒久法を阻止しないと、この判決は宝の持ちぐされになりかねません。平和的生存権は権利ですが、憲法12条でも言っているように国民は権利を保持する義務があるのですね。今までの最高裁の言い方は、簡単に言ってしまうと平和の問題は国に任せなさい、個人に資格はありませんよ、ということでした。しかし、今回の判決は、平和の問題は国任せでなく、国民一人ひとりが武力によらない平和を創ってゆく主体であり、その権利と責務がある、今はそれが問われている、今はまさにそういう時期ですよ、というのが裁判所のメッセージだと受け止めています。

(伊藤)
 政治家がこの判決に対していろいろコメントしています。違憲判決に対してどう対処していくのかは、現在国会や内閣に委ねられています。判決の権威をどこまで重視するかは、政治家たちの責任です。そしてその対応を見てどの政治家を選ぶかという課題が、ご指摘のように国民に投げ返されています。

 判決全文はこちら(PDF)

(9月1日アップの「後編」に続く)

◆川口創(かわぐちはじめ)さんのプロフィール

 1972年埼玉県生まれ。
 現在名古屋第一法律事務所所属。
 イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長。


◆伊藤真所長のプロフィール

 1958年生まれ。
 1995年、憲法を実現する法曹養成のため「伊藤真の司法試験塾」(現在の伊藤塾)を開塾。
 ・法学館憲法研究所所長。
 ・憲法の理念を広める講演活動も各地で行っている。

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