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東京生存権裁判の判決について

2008年7月21日

高橋力さん(弁護士)
○不当判決!!
 2008年6月28日、都内在住の70歳以上の生活保護受給者12名が、それぞれ居住する自治体(特別区、市)を被告として、老齢加算の廃止を内容とする保護変更決定処分の取り消しを求めた裁判(東京生存権裁判)について、東京地方裁判所は、原告らの請求を棄却する判決(PDF)を言い渡しました。
 
○生存権裁判の意義
 老齢加算制度とは、高齢者に特有の生活需要を満たすために、原則70歳以上の生活保護受給者について、一定額の保護費を加算支給する制度であり、1960年の創設以来、40年以上にわたり維持されてきたものです。
 
ところが、2003年、小泉内閣は、「いわゆる骨太の方針2003」を閣議決定し、社会保障費の抑制を「財政上の最大の問題」と位置付けた上で、老齢加算の「見直し」の方針を示しました。これを受けて厚生労働省は、老齢加算制度の廃止を決定し、2004年度から老齢加算を段階的に削減し、2006年度からはこれを全廃しました。このように、老齢加算制度の廃止は、財政問題の「解決」のための社会保障費抑制策の一環として行われたもので、高齢者にとっての「健康で文化的な最低限度の生活」についての実質的な検証をおろそかにしたまま強行されたものなのです。

老齢加算受給者は、制度の廃止前も、タンパク質の取得も肉・魚などは遠慮し、豆腐等安いものでまかなうといった食生活を送り、入浴も概して3日に1度、夜中は消灯を早める、暖房具の使用に代えて厚着をするなどして、水道代、光熱費も節約してきました。それでも、友人・親族等の冠婚葬祭の際にも、祝儀金・不祝儀金などを工面できないため、出席どころか連絡すら取ることができないことが少なくありませんでした。もともと老齢加算受給者はぎりぎりの生活を送っていたのです。ところが、老齢加算廃止によって、東京都では老齢者の生活保護給付額が一人当たり月約2万円も削減されました。老齢の生活保護受給者は、「健康で文化的な最低限度の生活」どころか、生きていくこと自体が危ぶまれています。

さらに政府は、これに飽き足らず、ひとり親等世帯に支給されていた母子加算についても今年度末をもって全廃し、さらには生活扶助基準本体についての切り下げを行おうとしています。生活扶助基準本体の切り下げについては世論の大きな反対を受け、与党内からも批判を浴び、先送りを決めざるを得なかったものの、その方針の放棄はしてはいません。今、格差と貧困が広がる中、最後のセーフティーネットとして生活保護制度が果たす役割の重要性についてはいうまでもありませんが、生活保護制度は最低賃金法等、他の諸制度、諸施策と連動しており、生活保護基準の切り下げは、生活保護受給者のみならず国民生活全般に影響を及ぼします。この裁判は、政府の生活保護基準切り下げ政策の転換を図り、国民の生存権を保障する上で、重要な意義を有するものなのです。

○判決の問題点
 本判決は、
第1に、生活保護基準以下の生活を強いられている国民(とりわけ高齢者)が存在する事実に対して、この貧困を解決するのではなく、この貧困状態に合わせて生活保護基準を切り下げ、格差と貧困を拡大する政府の不当な政策を是認したものであり、
第2に、老齢加算が果たしてきた重要な役割を何ら理解することなく、老齢加算が廃止されることで高齢保護受給者の生存権を侵害している実態から目を背け、行政の違憲・違法な措置を追認した不当なものです。人権の最後の砦となるべき司法が、このような判決を下すことは、その職責を放棄したものといわざるを得ません。
 
○生存権実現のために
憲法25条は,憲法の制定過程において、マッカーサー草案及び政府原案にはなかったものが、衆議院での審議の段階で森戸辰男の主張により憲法に挿入されたものです。つまり生存権規定は徹頭徹尾日本人の発想で規定されたものなのです。その後、生存権の意義は、朝日訴訟等の裁判闘争などで幾度となく問われ、裁判の勝敗とは関係なく、不十分ながらも徐々に生存権を具体化するための社会保障制度が発達してきました。ところが、現在25条の存在意義が危機的状況にあります。生活保護者に対しての国民からの風当たりが強い現実があります。しかし、現在問題になっている貧困問題、格差問題等は、明らかに国の政策によるものです。私たちは、控訴審で、生存権が具体的に侵害されている実態を詳細に明らかにして、生存権の意義を問い続けていこうと考えています。


◆高橋力(たかはしちから)さんのプロフィール

1975年生まれ。1999年、早稲田大学卒業。2006年、弁護士登録。台東協同法律事務所に所属。東京生存権裁判弁護団所属。



 
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