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今週の一言

 

「パナマは軍隊を持たない」(パナマ憲法)

2008年7月14日

リッテル・ディアスさん(パナマ大使館商務担当官)


NPO法人「人権・平和国際情報センター」(HuRP)が軍隊を持たない国の大使館への取材活動をしています。パナマ大使館への取材の結果がそのホームページに掲載されており、、許可を得て紹介します。そのホームページにはサンマリノ共和国大使のお話も掲載されています。
「人権・平和国際情報センター」が7月27日(日)に開催するイベントではコスタリカ大使のお話やアイスランド共和国大使のビデオメッセージも予定されています。


■中米、真ん中、中継地点。

――国際的な紛争になった場合に、それを解決する方法についてお聞かせください。

(ディアスさん)
 まず、国内の問題をどう解決するかについて説明させてください。
 パナマでは、たとえばパナマ運河についての利益対立、そのほか健康保険や教育の問題などについて、私たちは15年もの間、政府に国家レベルの対話委員会を設けて話し合いを行ってきました。その委員会には、国民のさまざまなセクターの人びとが参加し、そしてUNDP(United Nations Development Program:国連開発計画)がファシリテーターとして参加しています。対立がある場合でも、UNDPが間に入ることによって中立性を確保し、解決の道を探っていく方法をとっています。
 次に、他国との関係ですね。パナマは、中米の真ん中に位置しています。南北、東西の中継地点です。また、パナマ人には、コロンビア時代の南米的要素、またカリブ海的な特徴、そして96年間にわたる米軍の駐留から、北米の影響もあります。歴史的・地理的背景から、パナマ人のパーソナリティーにはこれらが含まれています。ですから、私たちは中立的立場をとても重視しています。

■間に立つことは、対話につなぐこと

(ディアスさん)
 いくつか例を挙げましょう。ラテンアメリカ地域から国連安保理の非常任理事国を務める国として、グアテマラとベネズエラが立候補し、票を争ったことがあります(2006年)。結局48回の総会選挙を経て、選出されたのはパナマでした。
 また、パナマは、キューバともアメリカとも――両国の政治的立場はまったく違いますが――どちらとも親しい関係を築いています。
 2004年からパナマの国連大使を務めているリカルド・アルベルト・アリアス(Ricardo Alberto Arias 1939~)は、国連の中でもファシリテーターの役割を担っていましたが、彼の信念は、「間に立つ」ということでした。それは時として非常に難しいことですが、対立があるのなら、対話につなぐことができる状態になるまで待つことも必要ですし、何より共通の利益を見つけていく努力をすることこそが、重要なのです。
 かつて東西対立の激しい時期に、現大統領マルティン・トリホス・エスピノ(Martin Torrijos Espino)の父、オマール・トリホス将軍(Omar Torrijos 1981年没)は、こう言っていました。「私たちは左派でも、右派でもない。パナマ(中立)だ。」彼は同時に、それを態度でも示しました。
 1977年、トリホス将軍は米カーター大統領とパナマ運河の返還協定を結びました(新しい運河条約及び運河中立条約。このふたつをトリホス・カーター条約と呼んでいる)。そのとき、中立的立場を重視し、「どの国に対しても特別な便宜は図らない」と明記されました。
 2000年、運河は完全にパナマに返還されました。同時に、運河の防衛のために駐留していた米軍も撤退しました。私たちは、それらを平和的に実現したのです。

■平和をつくるのは軍隊ではなく、日々の生活の安定

――パナマ憲法には、軍隊についてどのように書かれていますか。

(ディアスさん)
 とてもシンプルですよ。
 「第310条(制定時は第305条) パナマは軍隊を持たない。」
 これは未来形になっています。今も、そして未来も持たない、ということです。この憲法は、パナマ国民が国民投票によって決めたものです(1994年)。
 現在、国境警備隊が3000人ほどいますが、パナマは、軍隊を保有していません。
 パナマには、銃を所持できる、ということが法律に定められていますが、憲法にはありません。それは、歴史的に、かつてパナマを統治していたスペイン、コロンビア、そしてアメリカが、原住民との紛争の関係から、自分を守るには武器が必要だということで法律を作りました。今でもその法律は残っていますが、必ずしもすべての国民が所持しているわけではありません。

――「軍隊がないと不安だ」という国民の声はなかったのでしょうか?

(ディアスさん)
 安心して暮らせるかどうかは、軍隊の有無と関係ありません。一番大切なのは、自分の生活している環境が安定しているかどうかです。「生活の安心感」なのです。
 パナマは小さな国です。隣のコスタリカは、軍隊を持っていません。私たちはそこから学びました。
 平和も、戦争も、人間が作ったことです。平和の実現のためには、人間の頭の中から、「戦争」を消す必要があります。聖書には、カインとアベルという兄弟の、最初の人間の争いが書かれているように、それは簡単なことではないでしょう!
 しかし、national securityが戦争のもとになる考え方であるのに対して、平和がコンセプトである「human security(人間の安全保障)」という考え方があります。戦争の原因となる貧困や人権侵害など、人間の生命や生活、尊厳を脅かすものをなくしていくことで、平和を、ひとりひとりの人間の安定した生活環境を実現するということです。
 グアテマラの友人が、膨大なお金を注ぎ込んで、妻、子どもたち、家、経営する工場にボディガードを付けたとき、私は彼に言いました。なぜその土地で、教育や、仕事を作り出すことにお金を使わないのかと。周りに富を分けないのかと。貧困そして精神的な貧しさをなくすことが、平和へつながるのです。

■楽観的かつ現実的、具体的思考と行動を

(ディアスさん)
 私は、楽観的なだけの人間ではないのです。楽観的な思考で、現実的、具体的に考えています。
 私は外交官としては、「在東京外交団(Tokyo Consular and Administrative Corps)」のメンバーとして、このような問題について、各国の外交官たちとさまざまな対話を行っています。また、個人としては、パナマで貧しい子どもたちの里親になり、年に2人、小学校に通わせています。私は、彼らのような貧困の中にいる子どもたちこそ、パナマの未来のリーダーになるべきだと思うのです。

――最後に、日本国憲法についてどう思いますか。

(ディアスさん)
 日本国憲法が良いか悪いかということは、日本のものなので申し上げることはできません。
 ただ、一番必要なことは、日本国民自身が、自分たちの問題として憲法をどうしたいのかを考え、対話を通して決めることです。そして、その対話の場では、日本が国際社会からどのように見られたいのか、それを真剣に議論すべきでしょう。


トリホス・カーター条約(1977)
写真の提供:パナマ運河庁(ACP)

 


 
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