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女性弁護士の草分け、相磯まつ江さんに学ぶこと

2008年6月23日

川口和正さん(ライター)

「戦争がどんなに恐ろしいものなのか、今の人たちにはわからないのかもしれない。だから、『九条改正』といわれても、ピンと来ないのでしょう。でも、憲法が、戦後の日本に平和をもたらし、人々の暮らしを支えてきたんです。私の人生も切り拓いてくれました。改憲は何としても止めなくちゃならないんですよ」
 女性弁護士の草分け、相磯まつ江さんは、私にこう語った。
 彼女は50年以上にわたり、平和・人権・男女平等の実現のために力を尽くしてきた。砂川訴訟、朝日訴訟などに携わり、女性初の労働事件を扱う弁護士として、働く人たちの暮らしも守ってきた。離婚訴訟など女性の自由と自立を守る活動にも力を注いできた。
 その弁護士人生は、まさに憲法とともに歩んできたものだった。

●「憲法は、私の人生を切り拓いてくれた」

 このほど、私は、相磯さんの評伝『道遠くとも 弁護士相磯まつ江』(コモンズ)を上梓した。
 伊豆の農家に生まれた彼女は、幼い頃から学ぶことが好きだった。大学進学を切望するが、「女に学問はいらない」と父親に一蹴される。アジア・太平洋戦争の渦中でもあった。若者たちは戦争に駆り出され、自分の夢を追うことはとうてい許されなかった。
 彼女は、周囲に勧められるまま21歳で結婚する。ところが、半年も経たないうちに里帰りしていた彼女のもとに、荒縄でくくられた嫁入り道具が嫁ぎ先から送り返されてきた。むごい仕打ちに、しばらく立ち直れなかった。
 しかし、「女は結婚して子どもを産むことしか生きる道はない」と、2年後に再婚。だが、ここでも夫や姑に「嫁は家具と同じ、悪ければ取り替えればいい」と壮絶ないびりを受け続ける。衣食も満足に与えられず、そのために母乳が出ないと「子どもへの愛情が足りないからだ」とののしられた。ついに乳飲み子を残し、身一つで婚家を出る。
 誕生したばかりの日本国憲法を受け取ったのは、そんな最中だった。脳天をぶち割られるほどの衝撃を受けたと、相磯さんはいう。「男女平等」がそこには高らかに謳われていたからだ。
 私の夢や希望を何度となくうちのめした女性差別・抑圧の壁が、今、打ち破られようとしている。これで思う存分、自分の求める道を歩いていける――。
 彼女の人生は、まさに憲法によって切り拓かれたのである。

●平和とは、自分たちで勝ち取るもの

 その後、相磯さんは一念発起して勉学に励み、司法試験に合格。1956年、晴れて弁護士になる。若き頃の過酷な体験は、弁護士になってからも女性への一貫した共感と支援の原点となった。「法律を、弱者のために使おう」と決意、初志を貫く。
 結核患者が生存権を求めて闘った朝日訴訟。「現代の百姓一揆」といわれた全日農米価訴訟。男女雇用機会均等や家庭科の男女共修を求め、日弁連の「女性の権利に関する特別委員会」の委員長も務めた。その半生は、憲法が謳った平和、人権、そして男女平等を、人々の暮らしの中に根づかせてきた歴史だった。
 中でも、とりわけ私が印象に残っているのは、砂川闘争について聞いた話だ。半世紀ほど前に起こった、東京・砂川の米軍基地拡張反対闘争。20年もの長きにわたる闘いを振り返り、相磯さんはこう語った。
「『あんたがたはカマキリだ。カマキリが斧を振り上げたって、権力者には勝てっこない』、当時は世間からそう思われていた。だけど、私たちは一歩も引かずに闘い続けた。そして、ついに米軍基地の拡張をあきらめさせた。今、都心の空を米軍の飛行機が飛ばないのは、あの時の私たちの力なのよ。平和とは、自分たちで勝ち取るものなんです」
 砂川闘争は、今、沖縄・辺野古などで起こっている米軍基地問題につながる。私(たち)が受け取るべき言葉と経験が、ここにあると思う。
 相磯さんは、85歳になる今も現役の弁護士として法廷に立っている。その歩みからは「自らの権利は、自分たちの手で守る」ことの大切さが感じられる。それは、まぎれもなく、「主権在民」を謳った憲法の思想でもあろう。
 私はこの本で、相磯さんが関わった憲法を守る闘いのひとつひとつを、「現場」ととらえた。ディテールを可能な限り積み重ね、シーンの描写に努めた。相磯さんの軌跡を通して、憲法をより身近に、より生き生きと感じていただけたらとも思っている。

◆川口和正(かわぐち・かずまさ)さんのプロフィール

1964年愛知県生まれ。静岡大学教育学部大学院修士課程修了後、出版社・思想の科学社勤務を経て、ライターに。
子ども、人と仕事、市民活動、戦後史などをテーマに取材・執筆。編著に『道遠くとも 弁護士相磯まつ江』(コモンズ)、共著に『ひきこもり支援ガイド』『これがボランティアだ!』『教師』(いずれも晶文社)など。



 
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