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「メタボ化する都市、飢餓化する地方」
〜地方分権改革推進委員会・第1次勧告は出されたけれど〜

2008年6月16日

白藤博行さん(専修大学教授)

 2008年5月28日、地方分権改革推進委員会(以下、「委員会」)の第1次勧告が出された。副題には、「生活者の視点に立つ『地方政府』の確立」とある。「地方が主役の国づくり」を掲げた「地方分権改革推進にあたっての基本的な考え方」(2007年5月30日)で示された基本原則に忠実に、基礎自治体である市町村の自治権の拡充をはかる諸方策についての勧告ということである。ここでの基本原則とは、「地方自治体を、自治行政権のみならず自治立法権、自治財政権をも十分に具備した完全自治体にしてゆくとともに、住民意思に基づく地方政治の舞台としての『地方政府』に高めてゆくこと、これを地方分権改革の究極の目標に設定」して、その「基礎自治体優先の原則」を筆頭に掲げたものである。いかにも誰もが否定しがたい基本原則であり、忠実にこれを実施するための具体の方策を示すということであれば、一般論として何も問題がないようにみえる。
 しかし、地方自治をめぐる現実に少し眼をやれば、夕張市の破綻を例に出すまでもなく、「メタボ化する都市、飢餓化する地方」とでもいわねばならぬような悲惨な地方自治の現実である。自治体行政の効率化のプレッシャーの中で、現場の正規職員は減らされつづけ、自治体行政そのものを外部化することによって、「コンビニ行政」やファーストフードならぬ「ファーストアドミニストレーション(Fast Administration)」とでも呼ぶべき現実行政が顕在化してきている。アジア圏域で、いち早く経済成長を成し遂げ、まれにみる富を得たはずの日本・日本人が着地したのは、すべての国民の豊かさを誇れる国ではなく、格差社会と貧困に喘ぐ国だったのだろうか。
 委員会第1次勧告の「分権処方箋」が、こんな日本の現状をいかに改善するかが問題である。勧告では「完全自治体」あるいは「地方政府」といった麗句が並ぶが、まぎれもなく現存する憲法上の地方公共団体である都道府県と市町村を「完全自治体」に近づける努力をまるでしないで、小さな市町村に対しては、ひたすら行財政能力の拡大を求め市町村合併を半ば強制し、都道府県に対しては、市町村合併で大きくなった自治体への権限移譲をひたすら求め、もはや都道府県なんかいらないとばかりの書きぶりである。現存する憲法上の地方公共団体である都道府県や小さな市町村をあまりに軽視していないか。
 「住民に最も身近で基礎的な自治体である市町村」が、勧告がいうところの「地方政府」になるためには、市町村合併を果たすことで住民との距離の近さを捨てなければならない。そうであれば、それはすでに「住民に最も身近で基礎的な自治体である市町村」ではなくなるという論理矛盾がそこにはある。かつてあるチョコレートの宣伝で「大きいことはいいことだ♪」と歌うフレーズがあったが、大きな「フルスペック自治体」だけが、なにゆえに「政府」の名に値するというのだろうか。そこには、ほんとうに「生活者の視点」があるのだろうか。この間総務省は、指定都市、中核市、特例市といった制度を拡充することによって自治体の「昇格」願望をくすぐり、あるいは財政的支援の「飴」を舐めさせて自治体大規模化政策(市町村合併)を推進してきた。「中央政府」・「広域地方政府」・「基礎地方政府」といった政府間関係の確立といえば聞こえはいいが、こんどは「地方政府」というかたちで自治体の究極の「昇格」願望、「政府昇格」願望をくすぐり、いったい地方自治の何を実現しようというのか。
 一方で現存する憲法上の自治体の存立保障を踏みにじりながら、他方で一定以上の規模をもつ憲法上の自治体の創設を想定し、これだけが「地方政府」に値すると決め付け、その立法自治権・行政自治権・財政自治権の確立を主張する議論の本質を考えなければならない。委員会第1次勧告では、道州制については明言されていないが、「広域地方政府」が道州とされる確率は高い。経団連等によって、道州制は「究極の構造改革」といわれるところであるが、機関委任事務体制の廃止でようやく「完全自治体」化への第一歩を踏み出したかに見えた都道府県は、国の下級行政機関の機能を担いがたくなったとたん、お払い箱なのか。
 TOKIOという人気グループの「宙船(そらふね)」(中島みゆき作詞)という歌の中に、「その船を漕いでゆけ、おまえの手で漕いでゆけ、おまえが消えて喜ぶ者に、おまえのオールをまかせるな」というくだりがある。小さな自治体や都道府県が消えて喜ぶ者に、地方自治という船のオールをまかせてはならない。民主主義の実現をとおして、基本的人権を保障し人間の尊厳を守り、その先にある平和主義にたどり着くまで、苦しくても自分の手で、地方自治という船を漕ぎ続けるのがわれわれの課題ではなかろうか。

◆白藤博行(しらふじひろゆき)さんのプロフィール

専修大学法学部教授(地方自治法・行政法)。弁護士。
『自治体の「市場化」』(1998年、自治体研究社)、『地方分権の法制度改革』(1999年、自治総研)、『教員・公務員の業績評価制度を問う』(1999年、自治体研究社)、『改正地方自治法を超えて−分権「改革」と地方自治の課題−』(2000年、編著、自治体研究社)、『グローバリゼーションと日本』(2001年、専大出版会)、『公務員制度改革』(2002年、大月書店)、『新地方自治の思想−分権改革の法としくみ−』(2002年、敬文堂)、『現代自治体再編論』(2002年、日本評論社)、『新現代行政法入門(2)』(2004年、共著、法律文化社)など著書・論文多数。

*編集部から:白藤博行さんは6月21日(土)、市民シンポ(13時30分〜、明治
大学にて)で「地方分権改革」について報告されます。詳しくはこちら



 
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