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6月23日とドキュメンタリー映画『ひめゆり』

2008年6月2日

柴田昌平さん(映画『ひめゆり』監督)

(C)プロダクション・エイシア

「6月23日」という日付を聞いてピンと来る人はどれぐらいいるだろう? 法学館の関係者の方々ならご存知かもしれない。が、日本人の大部分は「何それ、聞いたことない」という反応をするのではないだろうか。

6月23日、それは第二次世界大戦末期に沖縄で住民を巻き込んで繰り広げられた凄惨な戦争、いわゆる「沖縄戦」の組織的な戦闘が終わった日だ。沖縄県では「慰霊の日」と制定され、全県が戦争の犠牲者を追悼し、祈りを共にする。「6.23」と沖縄の人々は呼び、家庭や学校などを舞台に、戦争の記憶が若い世代へと継承されていく。

もちろん日本全体では8月15日の「終戦記念日」があり、8月6日、8月9日がある。人それぞれに、反戦を決意する日があるだろう。
でも私は、6月23日という日にこだわりたいと思った。

[沖縄戦体験者と6月]

皆さん、想像がつくだろうか。毎年6月のこの時期になると、沖縄の戦争体験者の多くが悪夢にうなされるという現実を。「悪夢」というのは比喩ではない。多くの人が、6月の夜の床で金縛りにあい、うなされ、枕をぬらすのだ。

私は1994年以来、沖縄・ひめゆり学徒の生存者の方々の体験を映像で記録する作業を行ってきた。そのうちのお一人、Iさんが戦後に日記がわりにメモを書いてきたカレンダーを見せてもらったことがある。日付の横に小さく丸印がつけられている日があるのが目を引く。Iさんに尋ねると、戦場の悪夢を見た日に丸い印をつけたのだという。驚いたことに、丸印は、毎年6月のこの時期になると急激に増えるのだった。

6月の沖縄の気候は独特で、むせ返るような梅雨の湿気が、人々の細胞の奥に眠っている記憶に働きかけるのだろうか。戦車に追われる夢、火炎放射器のパチパチという音が間近にせまってくる夢、亡き友が立つ夢枕・・・・。Iさんだけでなく、多くの沖縄の人々が眠れぬ夜を過ごす。戦争のもたらした心の傷は、拭い去ろうにも消すことはできない。
しかし、そんなむごい記憶を抱えた人たちも、七十代、八十代と齢を刻み、その割合はけっして多くはない時代となった。

[記憶の喪失]

ひめゆり学徒の生存者の一人、Iさんは幼い頃、よく両親から次のように聞かされたという。「ほうき星が出ると戦が起こる」。ほうき星とはハレー彗星のこと。ハレー彗星はおよそ 70年周期で現れる。70年もたつと、過去の戦争の記憶が失われ、人々は戦争の恐ろしさを忘れ、為政者が戦争へと突き進むのを許してしまうというのだ。

記憶はその人の時間とともにあるもの。放っておくと、その人とともに消えてしまう。
そんな記憶の喪失にあらがうことはできないだろうか。歴史の忘却にあらがうことはできないだろうか。きれいごとではない、ざらざらとした記憶の重さを、みなで共有しあうことはできないだろうか。そのことが、記憶の重みに耐えかねている人たちの救いにもつながらないだろうか。そんな「記憶の手触り」を確認する日として、私は、6月23日を大切にしたいのだ。

[ひめゆりの記憶をつなぐ]


撮影風景 監督と元学徒隊

6月23日をきっかけにした日々に、「ひめゆりの記憶」をつなぎ、考えるきっかけにしたいと、ドキュメンタリー映画『ひめゆり』の上映を全国各地で行おうという動きが起こっている。全国の映画館、そして市民団体が協力し、毎年この時期に記憶を確認しようという取り組みだ。映画『ひめゆり』は「一回見ればもう終わり」という質の作品ではないと言ってくださる。2度観る、3度観る、その都度、各自の人生の段階に応じて発見があるのだという。現実的に6月23日だけで上映するのは不可能なので、6月から8月にかけての時期を「全国特別上映会」と位置づけた。テーマは、「いきる つなぐ いのち」。
命をつなぎ、未来へと希望を託す日という意味だ。

6月23日――それは、8月6日、9日のような人類史スケールの日ではないかもしれない、8月15日のような日本近現代史を総括するような日ではないかもしれない。
でも『ひめゆり』を通して、「抽象的な戦争論」ではなく「具体的な戦争の現場」を追体験することができる。また『ひめゆり』を通して、戦争の「死者」だけでなく、「生き残る者」の終わることのない苦しみを理解することができる。さらに『ひめゆり』を通して、自らの忘れたい記憶に向き合う女性たちの勇気に出会うことができる。ひめゆり学徒の生存者たちは恨み節もなく、まっすぐな気持ちで未来へと記憶を託そうとした。その姿は、「人間の尊厳とは何か」を問いかけてくるのだ。


●ドキュメンタリー映画『ひめゆり』詳しい内容はこちら
●映画評が、当HPの「シネマDE憲法」の昨年6月ページでも紹介されている。

●上映情報
 十勝・苫小牧・山形・群馬・東京・横浜・川崎・京都・大阪・広島・三重・沖縄の各劇場および市民による自主上映を予定。詳しい日程はこちら

◆柴田昌平(しばた しょうへい)さんのプロフィール

1963年東京生まれ。88年東大卒。同年NHK入社、沖縄放送局放送部制作班、報道局特報部勤務。1992年NHK退職。民族文化映像研究所を経て、95年独立。アジア・沖縄を見つめる映像作品を数多く手がける。2004年ひめゆり平和祈念資料館の展示リニューアル事業総合プロデューサーを勤めた。映像製作会社プロダクション・エイシア代表。

○主な監督作品
 長編ドキュメンタリー映画『ひめゆり』
(<日本ジャーナリスト会議>JCJ特別賞)
(文化庁映画賞<文化記録映画部門>大賞)
(キネマ旬報ベスト・テン<文化映画>第1位)
(日本映画ペンクラブ<文化映画部門>ベスト1)
(高崎映画祭特別賞)
(全国映連賞 監督賞)
(日本映画復興賞 奨励賞)
(SIGNIS JAPAN カトリック映画賞)

「1フィート映像でつづるドキュメント沖縄戦」(教育映画祭優秀賞)
「沖縄の伝統芸能」
NHK「風の橋〜中国雲南・大峡谷に生きる」(ギャラクシー賞)
NHK「杉の海によみがえる巨大楼閣〜中国.森の民トン族」(ギャラクシー賞、ATP賞)
NHKスペシャル「新シルクロード・第1集・楼蘭4千年の眠り」(米国際エミー賞ノミネート)
NHKスペシャル「新シルクロード・第5集・天山南路ラピスラズリの輝き」(ニューヨーク・フィルム・フェスティバル宗教部門グランプリ受賞)ほか多数。



 
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