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今週の一言

 

米軍再編をめぐる岩国の戦い
―民主主義と地方自治の観点からー

2008年5月12日

井原勝介さん(前岩国市長)
1.岩国と基地の関わり

 (1)岩国には米海兵隊の航空基地があるが、その撤去を求めているわけではない。「米軍基地が安全保障上果たしている重要な役割を理解し、その安定的な運用に協力してきたし、今後ともその方針は変わらないが、市民生活の安寧を守るために、これ以上の基地機能の強化は容認できない」というのが、これまでの一貫した方針である。

 (2)極東一の航空基地に
  今回の米軍再編に、厚木基地から空母艦載機部隊(スーパーホーネット等59機)、普天間基地からKC-130空中給油機(12機)の岩国への移駐などが盛り込まれた。
  これは、航空機の数が一気に2倍の約120機、人員も約4千人増加し1万人、極東一の航空基地になるという大規模なもの。基地機能の大幅な強化に該当することは明らかであり、市民に過大な負担を強いるもの。
  「これまでは協力してきたが、今回だけは我慢できない」というのが、市民の率直な思いであり、平成18年3月に行われた住民投票やその後の市長選挙でもそうした市民の意思が明確に示された。

2.国のアメとムチ

  これに対して、国は「地元の理解を得る努力をする」と公式には言いながら、全く聞く耳を持たず。厚木の訓練分散、機数の削減、試験飛行の実施などの条件を繰り返し提示し、お互いに接点を見出すための具体的な話し合いを行うよう提案したが、いずれも拒否された。まず容認しなければ、協議機関の設置さえ拒否するという頑なな姿勢に終始した。

 (1)新庁舎建設補助金のカット
  そして、言うことを聞かなければ、約束された補助金でさえカットするという強硬措置がとられた。3年前に補助金交付の明確な約束をした上で、建設工事が始まり、1年目、2年目と順調に交付されたにも関わらず、3年目にして、後から出てきた米軍再編を認めないからといって、国と自治体の公的な約束が反古にされてしまった。これほどあからさまに圧力をかけるということは、前代未聞であり、あの汚職事件で逮捕された守屋前防衛事務次官でなければできない強引なやり方であった。
  「何を聞いても今後一切信用できない」と市民は猛反発し、不信感は一気に高まった。国への抗議の意味を込めて、市民有志の自主的な募金活動が始まり、全国からも温かい志が次々に寄せられ、合計約2,700万円に達した。

 (2)再編交付金の品のなさ
  一方では、米軍再編特別措置法により「再編交付金」という新しいアメが用意された。これも守屋前次官の発想によるものであろうか、お金で自治体や市民を左右しようとする品のない制度である。進捗状況に応じて交付するが、初めに容認しない限り、いくら負担が増えても、現実に部隊がやってきても交付金は出さない。こんな不公平なやり方は、税金の使い道として許されない。

 (3)何でもありの市長選挙
  一旦は全会一致で反対決議をするも、すぐに腰砕けになりすでに容認派が多数を占めていた市議会において、新庁舎補助金カットをめぐり予算が4回も否決され、昨年12月に5回目の予算と引き替えに私が辞職。2月10日に市長選挙が行われたが、圧力の総仕上げとして、国や山口県などが露骨に介入し、各種団体や企業などを使い、デマや誹謗中傷、圧力や締め付けなど何でもありの手法がとられた。投票と引き替えに企業が特別手当を出し、タクシーなどを使い動員をかける、一人2万円もらえるという噂まで飛び出す始末。市民が政治に参画する一番大切な機会である選挙において、市民の自由が抑圧され、民意がねじ曲げられてしまったら、民主主義は機能しない。

3.民主主義と地方自治の観点から

 (1)国防は国の専管事項?
  「国防は国の専管事項だから、住民投票にはなじまない」、「国が決めたことだから地方は従うべきだ」
  国や山口県、市議会、そして橋下大阪府知事など、多くの方面からこのような考え方が示されており、米軍再編を一方的に推し進める一つの根拠となっている。
  国が責任を持って決めるという意味においては専管事項である。しかし、市民はものを言うなというのであればそれは違う。国防といえども、市民の負託を受けて行われるものであり、国民の理解と協力なくしてうまくいくはずがない。
  国防を振りかざし、露骨なアメとムチで地方を抑えつけ、そして民主主義の基本である選挙さえもデマや圧力、お金で左右しようとする。憲法の基本的理念である「民主主義」や「地方自治」が踏みにじられているのが実態である。

 (2)自衛隊イラク派遣に対する違憲判決
  安全保障といえども説明責任をきちんと果たすべき、憲法9条との関係も含めて議論が整理されないままに事態がなし崩し的に進展し、今回のイラクへの自衛隊派遣に対する違憲判決につながった。米軍との協力、自衛隊の役割、もちろん憲法との関係などの根幹に関わる部分について、国民的議論を行い共通の理解を得ることが先決である。

 (3)市民の平穏な生活を求める権利
  基地問題を考える上でのキーポイントは、国の安全保障と地域住民の生活の安全・安心をどうバランスさせるかである。市民生活に過度の犠牲を強いるようでは、基地に対する市民の反発が強まりその安定的運用に支障が生じる。国や米軍にとっても、地元住民の理解と協力が不可欠である。今回の空母艦載機部隊の移駐については、規模の大きさに見合うだけの戦略上の意義や必要性、併せて、地域住民に与える影響の程度とその防止策の両面から、合理的説明が必要である。いずれも十分になされないままに、日米間で決めたことだから受け入れろと言われても、納得できないかぎり容認できない。市民の平穏な生活を求める基本的権利は、国といえども一方的に侵すことはできない。

4.新たな戦いに向けて

  国やそれに呼応した山口県の仕打ちに市民は一層不信感を強めている。未だに米軍再編の全容は明らかになっておらず、愛宕山の米軍住宅化、NLP(夜間離着陸訓練)の恒久的基地の確保などの重大な課題が残されている。その行方によっては新たな反対運動が起こる。
  本当に「民主主義」という価値を大切にするのであれば、敬遠するのではなく、主権者の民意を正面から受けとめて、誠意を持って住民の理解を得る努力をすべきである。国と地方の関係、そして政治があまりにも未成熟である。力に頼る旧態依然とした手法では、目覚め始めた市民の反発と不信を招くだけであり、決して根本的解決にはならない。
  私は、もう一度市民の中に戻り、市民と共に新たな戦いを始める。 市民の政治を選択する自由が保障され、常に市民の意思が尊重される新しい民主主義(―市民主義―)の政治を実現するため、4月1日に、新しい政治グループ「草の根ネットワーク岩国」を設立し、その代表となる(市内外から会員募集中)。私が主宰する政治の学び舎「草莽(そうもう)塾」も開設し、自由で責任ある市民、志ある政治家を育てる。国の理不尽なやり方には決して屈服せず、子供や孫たちの未来を守るために、これからも働いていく。


 
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