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権力は憲法によって縛られる

2008年3月31日

マーク・デルナウアさん[Marc Dernauer](ドイツ弁護士)

―――ドイツと日本は第二次世界大戦後、戦前の国家体制を見直し、ともに自由や人権を大事にする憲法(ドイツの場合は基本法)を持つことになりました。
 デルナウアさんは日本で法学修士の学位をとられ、日本社会や日本国憲法についてもよくご存知です。戦後の両国の体制変革やその後の推移の異同をどのように見ていますか。
(デルナウアさん)
 ドイツ人の基本法(=憲法)に対する考え方は基本的なところで日本人の憲法に対する考え方と違っているように思います。
 中世〜近代の時期、ドイツは貴族が支配する国でしたが、当時すでにイギリスやフランスの影響を受けて自由や民主主義の重要性を唱える人がいました。江戸時代の日本には、そのような人はいなかったのではないでしょうか。そこには歴史的な違いがあると思います。また、ドイツでは国民の「国家からの自由」という考え方が唱えられ、それを具体化するものとしてワイマール憲法がつくられたという経緯もあります。しかし、ナチス政権の時代に残念ながら悪い方向への転換があったと言わざるをえません。
第二次世界大戦後、ドイツは基本法(=憲法)のもとで憲法裁判所がつくられました。これも国民=個人には自由のための"武器"が与えられるべきで、個人の自由のためには国の政治や行政には制限が加えられるべきだという考え方の具体化でした。そして、実際に司法もそのための役割を担うことになりました。憲法裁判所は国民=個人の権利を守るため、政治家や行政を縛り、その行為の限界を明確に示す判例を積み上げてきました。そして、国民もその実績を尊重してきました。

―――ドイツでは個人の権利を守るために国家権力を縛る目的でも憲法があるのだという考え方が定着しているということですね。それは日本とはだいぶ違うということなのでしょうね。
(デルナウアさん)
 憲法は尊重されるべきだという考え方が日本の国家権力には希薄だと思います。たとえば、日本の保守政権はずっと憲法9条を尊重した行動をとっていません。憲法9条を尊重したくないのであれば、その改正を実際に提案すべきです。ところが実際には改正を提案しないで、解釈によって「ごまかし」ています。ドイツでは基本法(=憲法)の改正が必要な場合には、実際に国民的な議論を行い、改正してきました。したがって、条文の解釈が大きく分かれるようなことはありません。他の条文に関してはよくわかりませんが、少なくとも第9条の関係に関しては、日本のように憲法の条文が多様に解釈されているのは、少し異常だと思います。
 ところで、日本の憲法9条は戦力を認めていません。したがって自衛隊は憲法上認められない存在だと思います。ですから、日本の保守政権はまずは憲法の条文を尊重するべきです。戦力不保持を定める憲法を無視し、自衛隊=戦力が存在する状況は、やはりおかしいことです。憲法の条文と現実がこれほど乖離していると、憲法自体の価値が尊重されなくなってしまいます。軍隊、つまり自衛隊の存在が必要だと考るのであれば、幅広く議論をして、国民の信頼や理解を得たうえで憲法の条文を改正するべきだと思います。

―――戦争や戦力のことをドイツ人の場合はどのように考えているのでしょうか。
(デルナウアさん)

 先ほど言ったように、ドイツでは国民全体で様々な議論をし、その結果基本法(=憲法)の改正も行われてきました。結論的に、ドイツの基本法は、軍隊を持つが、それはあくまでも他国からの攻撃があった場合に対応する、または国連が指導している平和活動に参加する場合、あるいは基本的には防衛活動というかたちで、例えばNATOの加盟国の一環として活動するときのみです。軍隊が他国を攻撃することは基本法(=憲法)上禁止されています(基本法第26条)。他国を攻撃しないのですから、軍隊は長距離ロケットも核兵器も持たないということになっています。現在では激しい議論もありますが、テロ対策のためにも軍隊は出動できない、それはあくまで警察の仕事である、というのが国民の合意になっています。PKO等といったドイツ軍の他国での活動については慎重に検討されなければならないところがありますが、基本法(=憲法)によって政府や軍隊の行為の限界が定められていると言えます。

―――デルナウアさん自身は戦力の保持についてどのように考えているのでしょうか。
(デルナウアさん)
 ドイツは第二次世界大戦後、戦前のドイツの他国への侵略を反省し、戦前の体制を明確に否定しながら、近隣諸国との関係を改善してきました。そして、ドイツが近隣諸国から攻撃を受けるようなことはもはやない状況をつくり出してきました。そのような外交努力は重要だったと思います。
 私は、その上で、ドイツが万が一攻撃を受けた時に備える自衛力を持ったという判断は現実的な選択だったと思っています。私は合気道をするのですが、合気道は相手を攻撃するのではなく、相手との和合を実践するという精神に貫かれています。仮に相手が攻撃をしてきた場合に、その攻撃を抑える分だけの力を出して、それ以上自分から相手を攻撃することはしません。それによって、相手に攻撃すること自体が無意味だということを分らせるのです。国家が自衛力を持つ場合の考え方にもこのような合気道の精神が活かされてよいのではないかと思います。

―――ドイツが戦前の体制を根本的に反省し、そして戦後にすすめてきた外交努力は日本も見習う必要があると思います。また、ドイツが基本法(=憲法)によって権力を縛るという立憲主義の考え方を定着させるうえで、司法が重要な役割を果たしてきたことからも学ばされます。
 本日は大変意義深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

◆マーク・デルナウアさんのプロフィール

ドイツのマールブルク大学・フライブルク大学、日本の弘前大学で学んだ後、ドイツの司法試験に合格。日本の東北大学で法学修士号を、フライブルク大学で博士号を取得後、2006年からドイツの弁護士として、主に知的財産権などに関わる法律業務に従事。



 
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