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若者の中の貧困の実態に目を向け解決をめざす

2008年3月3日

河添誠さん(「反貧困たすけあいネットワーク」事務局長)

―――「格差社会」化が進行し、貧困層が増大していますが、若者のところでも深刻な事態になっています。河添さんは昨年暮れに「反貧困たすけあいネットワーク」を立ち上げました。「反貧困たすけあいネットワーク」は何を目指しているのか、なぜネットワークをつくったのかをお聞かせください。
(河添さん)
 私は首都圏青年ユニオンという労働組合で若者をサポートしてきました。いま多くの若者が、残業を強いられる、残業代が払われない、有給休暇をとれない、社会保険・雇用保険に加入させてもらえない、納得できない理由でクビにされた、等々労働基準法などの最低限の法律すら守られない状況におかれています。私は、毎日、若者の様々な相談にのり、ユニオンに加入してもらい、経営者と交渉しています。
昨年のことですが、私は母子家庭の高校生から相談を受けました。その時、その高校生に「ユニオンに入れば団体交渉ができますよ」と話したところ、「そのお金があったら家に入れたい」と言われて、ショックを受けました。彼の場合は、組合費は月1000円だったのですが、それを払えないと言うんです。たしかに母子家庭の高校生にしてみれば1000円は大変な額です。大学に行くためにお金を貯めていると聞いて、私は悩んでしまいました。そして、“労働組合は労働者の生活と権利を守る組織なのに、実は本当に困っている人を排除してしまっているのではないか”と思い、困っている若者たちを救うネットワークが、労働組合の外にも必要だと考えました。そこで私は、NPO自立生活サポートセンター・もやいの湯浅誠さんたちと相談し、「反貧困たすけあいネットワーク」を結成することにしました。
 「反貧困たすけあいネットワーク」は、1ヶ月300円という少額の掛け金を6ヶ月以上納めることを条件に、病気やケガで仕事を休んだときに、1日1000円(上限10日)の「休業たすけあい金」を受け取れる、生活に困ったときに無利子で「生活たすけあい金」を1万円まで借りることができる互助制度として発足しました。お金に困っている人たちがお互いに支え合うネットワークにしていきたいと思っています。

―――「反貧困たすけあいネットワーク」を立ち上げ、反響も大きいのではないかと思いますが、いかがですか。
(河添さん)
 いろいろな人から歓迎されています。
 たとえば、派遣労働者で、派遣先の工場の一方的都合で出勤日が減らされて収入が減ってしまったため、日雇い派遣でも働くことにしたところ、日雇い派遣の派遣先で労災事故にあってしまった人が相談の電話をかけてきました。聞くと、その人は会社の寮で生活していたので、収入が減ったにもかかわらず会社から寮費を天引きされ、生活が困窮していました。東北地方からの電話だったので、この方には、生活保護支援法法律家ネットワークという生活保護を受けることを支援している司法書士・弁護士のネットワークを紹介しました。生活困窮者が生活保護を受けることもみすえながら、まずはこのような場で相談できるということにも意味があると思っています。
 「反貧困たすけあいネットワーク」のことを知った年配の方からカンパを頂戴したこともあります。その時は大変嬉しく思いました。

―――貧困者のことというのは、そうでない人にはなかなか理解できないところがありますし、「自業自得」とか「自己責任」などと言われることもあります。しかし、ここ10年くらいで社会のあり方が大きく変り、若者の中で貧困者が大量に生まれている状況があるのではないでしょうか。その具体的な実態を伝え、解決への努力が求められていると思いますが、いかがでしょうか。
(河添さん)
 おっしゃる通り、若者のおかれた状況は大きく変ってきています。大学を卒業すればそれなりに生活していけるような、そんな時代ではもはやなくなりました。大学を卒業し会社で働きはじめた若者が相談に来ましたが、上司から事実上の退職強要されている様子を聞くと、それは大変深刻な状況でした。「この会社、この仕事は君には向いていないんじゃないか」と繰り返し言われ、うつ状態になっていました。このようなことは決して例外ではありません。会社が人を育てなくなってきていると感じます。少しでも機転のきかない従業員は、早め早めに切り捨てていくようになっていると感じます。入社半年の社員まで篩い(ふるい)にかけ、使い捨てにしています。
 大手美容室チェーン「アッシュ」では、正社員を長く働かせる方がバイトを雇うより安上がりと考えられていたようで、美容師が一日16時間を超える長時間労働をさせられ、残業代も支給されていませんでした。不当な給与天引きもされていました。私たちの組合で交渉し、全従業員338人に対して4800万円の残業代を支払わせることができましたが、まったくひどい労働実態でした。
「ショップ99」というコンビニで働いていた若者の相談にものりました。彼は、1ヶ月300時間以上働かされた月がありました。あるいは4日で80時間働かされたこともありました。ところが年収はわずか300万円でした。店長職だということで残業代はまったく支給されていませんでした。
 いまワーキング・プアというと、非正規労働者が連想されがちですが、実は正規社員にもこのような実態があり、相当数の正規労働者のワーキング・プアが存在すると考えています。
 非正規労働者の状況ももちろん深刻です。アルバイトで働いていた30代の女性から「お金を安全に借りられるところはないか」という相談を受けました。そんなところありませんよ、どうしたんですか、と聞くと、職場を変えることになったが、自宅から職場に通う交通費がないと言うんです。生活に困窮していて、新しい職場が決まっても、そこで給料が出るまでの1ヶ月間は食べていけないし、そもそもその職場に通う交通費がない、という状況なんです。
 いま、ちょっとしたことで躓くと、もうどうしようもない状況に陥るケースが激増しています。いったん大変な状況になってしまうと、そこにやさしい言葉をかけるのは、サラ金とか日雇い派遣となっているんです。そのような若者たちの窮状に付け込み、若者たちはさらに大変な状況に追い込められているんです。

―――河添さんは日々貧困な若者たちの相談にのり、そのサポートをしていますが、そのような若者たちを制度的にサポートする社会的なシステムが求められると思うのですが、どうお考えでしょうか。
(河添さん)
 現行の社会保障制度には失業者をサポートする制度があまりに少ないと思います。いまの青年労働者は、死ぬほどにギリギリまで働くか、あるいは失業するかという、そういう極端な選択を迫られる状況にあります。生活保護制度はありますが、生活保護を受けるまでには至らない人に対しても一定の経済的援助制度が具体化・拡充されるべきです。失業しても、雇用保険の失業手当を受けられる人がなかなかいなくなってしまっている。これは重大です。だから、失業すると、収入がすぐになくなってしまって、生活保護しかセーフティーネットがないという状況になってしまっています。
 また、健康保険制度も問題です。非正規労働者の多くは国民健康保険に加入していることが多いのですが、国民健康保険の場合は正規労働者が加入する健康保険と違って、傷病手当金がありません。非正規労働者がけがや病気で働けなくなったら、いきなり無収入になってしまいます。これも緊急に解決されるべきことです。
 全体的に日本の雇用状況がこの10年くらいで大きく変っているのに、社会保障制度は終身雇用制度の時代のものとあまり変っていません。社会の状況に社会保障制度が追いついていないと思っています。
―――生存権をはじめとする日本国憲法の規定がいまこそ社会に適用されなければならないと思いますが、河添さんはどうお考えでしょうか。
(河添さん)

 これまで多くの国民が、日本国憲法の9条については大切にし、運動や裁判で活用してきたと思いますが、25条については十分でなかったと思います。朝日訴訟では重要な判決を勝ち取りましたが、生活保護の問題以外で25条を活用した運動はあまり強くありませんでした。私は25条の理念をより豊富にしていく運動が必要だと考えています。
 28条も重要だと思います。労働者が団結する権利を特別に保障している意義は大きいものです。牛丼チェーン「すき家」の従業員に残業代が払われていなかったので、私たちのユニオンが交渉して、全国1万人以上の従業員に残業代を払わせましたが、それも憲法で労働基本権が保障されていることによるものです。
 私は「平和運動のように反貧困運動を!」と言っています。日本社会には平和運動は一定定着し、それが自治体やマスコミの動向にも反映しています。「反貧困」の世論はまだ大きくありませんが、これから大いに頑張りたいと思います。3月29日には都内で反貧困フェスタ2008を開催します。ぜひ政治的立場を超えた大きな運動にしていきたいと思います。

―――青年たちをめぐる深刻な状況がよくわかりました。ありがとうございました。今後とも連携させていただきたいと思います。よろしくお願いします。

◆河添誠(かわぞえ まこと)さんのプロフィール

「反貧困たすけあいネットワーク」事務局長。
2000年、首都圏青年ユニオンの結成に参加。現在、首都圏青年ユニオン書記長。レイバーネット日本事務局長。



 
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