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自由な選挙運動は市民の権利

2008年2月18日

河野善一郎さん(弁護士)

1 日本の選挙・世界の選挙

 選挙制度とくに選挙運動の規制に関しては,国際レベルと日本では天地の差がある。日本では,1925年以来戸別訪問は禁止され,文書配布も大幅に規制されている。警察庁の統計によれば,1946年以来これら2種の違反で9万人を超える有権者が処罰されている。候補者も有権者も,自由に選挙運動することがかくも禁止,制限されている選挙制度は世界に例がない。
 これに対して議会制度の発祥地である欧米諸国では,選挙運動費用の制限や発行者の明記などの規制はあるが,言論や文書による選挙運動は基本的に自由である。この思想は国際人権条約にも反映し,1966年国連採択の自由権規約25条は,「選挙人の意思の自由な表明を保障する真正な選挙において,投票し及び選挙されること」を市民の権利として保障している。日本も1979年にこの条約を批准し,国内法として発効した。

2 市民の権利としての選挙運動の自由

 憲法15条は,公務員の選定・罷免が国民の権利であると定め、普通・秘密選挙を保障するが,自由権規約25条は,さらにその選挙が選挙人の意思が自由に表明された選挙であることも明文で要求している。ここから規約19条と合わせて,自由な選挙運動が市民の権利として導かれる。規約人権委員会の解釈指針である一般的意見25は,「・・これは個人として又は政党その他の団体を通じて政治活動に従事する自由,政治について討論する自由,・・政治的文書を出版すること,選挙活動をすること及び政治的意見を宣伝することなど,・・を完全に享受し,尊重することを要求する。」と解説していて、自由な選挙活動の権利性を明確にしている。
 従って,自由権規約を批准した以降は,日本は公選法を改正して戸別訪問や文書配布等を自由にするべきであるが,国会はなかなかそうならない。平成6年細川内閣当時に衆議院に小選挙区制を導入したときの公選法改正で,一旦は戸別訪問を午前8時から午後8時まで解禁する法案が成立したが,政党間の妥協により施行されないまま禁止が復活した。

3 人権条約に背を向ける裁判所

 そこで戸別訪問や文書違反の公選法裁判では,自由権規約の保障を援用して無罪を主張する事例が登場するようになった。しかし,裁判所はまだ選挙運動の自由を市民の権利として認めようとしない。
 憲法マップ(和歌山編)で紹介した公選法大石事件は,掲載直後の平成19年9月7日に福岡高裁で控訴棄却の判決が下った(但し公民権停止の宣告は破棄した)。弁護側は,自由権規約委員会の元委員E・エヴァットさんらの証言によって,自由権規約は戸別訪問や文書配布を市民の権利として保障していると主張したが,高裁判決は,選挙制度の設計は,締約国の国情を考慮に入れた立法裁量に任されており,日本の公選法の制限は規約に違反しないと結論した。条約加盟国の国情に合わせて権利の保障を低めるなら,統一的な条約適用はできないから,とうてい容認できない見解である(日本を政治意識の劣った国とみること自体問題であるが)。
 弁護側は上告したが,去る1月28日に異例の速さで最高裁第2小法廷が上告棄却の判決を下した。公選法と自由権規約との関係について,その判決理由は「公選法の各規定が自由権規約19条,25条に違反しないと解されるから,前提を欠き,上告理由に当たらない。」という門前払いのそっけないものであった。なぜ自由権規約に違反しないのか,その理由をまったく述べていない。
 これでは最高裁としての解釈理由がいつまでたっても明らかにならず,学説と実務の相互検証による法理論的発展も望めない。重要な法令解釈の争点については,職権によって判断することもできるし,そうした実例は珍しくないのであるから,選挙運動の自由の保障が日本公選法と明らかに差がある自由権規約の解釈について,最高裁はもっと積極的に正面から向き合うべきである。

4 主役は有権者国民

 そういう次第で,立法上や裁判上で選挙運動の自由を確立するにはまだ時間が掛かりそうであるが,これを実現する主役は国民,有権者である。マスコミで著名なタレントがあっけなく当選する選挙やテレビ劇場の視覚情報にたよる観客選挙でいいのか。今一度,主権を行使するシステムはどうあるべきか考えてみたいものである。

参考文献・リンク先
大石事件裁判資料 
(直接リンク)

◆河野善一郎さんのプロフィール

1941年生 
1967年 京都大学法学部卒業 
1969年 弁護士登録(大分県弁護士会)
公選法大石事件主任弁護人



 
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