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今週の一言

 

ハンセン病問題は終わっていない

2008年2月4日

鈴木敦士さん(弁護士)

1 2月16日に、韓国のハンセン病療養所(ソロクト更生園)の一人の女性入所者の一生をテーマにしたドキュメンタリーフィルムの上映会を日本で初めて行います。(後記参照)

 彼女は、幼いころ病気にかかった両親とともに収容され、最初、ソロクト更生園内の保育所で両親と離れて生活しなければなりませんでした。日本時代のソロクト更生園での強制労働や苦しい生活、独立後も子供を産み育てることが禁止され隠れて出産し、子供を手放さなければならなかったこと、現在も続く差別などが描かれています。
 おりしも、本年2月10日は、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」(ハンセン病補償法)が改正され、植民地等に設置されたハンセン病療養所の入所者に対しても補償すべきことが明確になってから2年がたちます。この機会に、ハンセン病問題の経緯を振り返り、残された課題を考えたいと思います。

2 熊本判決とハンセン病問題対策協議会

 2001年5月11日、ハンセン病国家賠償訴訟の熊本判決が出されました。
 熊本地裁判決では、周知のとおり、厚生労働大臣の隔離政策を遂行したことの違法性・過失、国会議員のらい予防法の隔離規定を改廃しなかったことの違法性・過失が認めらました。らい予防法の隔離規定が違憲であったことも確認されましたが、単に居住移転の自由の制限ということではなく、より広く憲法13条に根拠を有する人格権そのものに対する侵害ととらえています。
 この判決に対し国が控訴を断念し、国と原告団との基本合意を取り交わし、熊本地裁の示した基準で和解をしました。ハンセン病補償法が制定され、生存している入所経験者には、訴訟をへずに補償をする道ができました。(現在、国内療養所については請求期限の満了によりこの制度は終了しています。)
 その後、損害賠償請求権を相続した遺族による賠償請求と、入所しなかったハンセン病患者にたいする賠償請求についても基本合意が取り交わされました。現在も遺族訴訟を中心に訴訟が継続しており、和解が行われています。
 全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)と原告団・弁護団とともに統一した交渉団を作り、ハンセン病問題対策協議会の場で、国の政策について協議しました。そのなかで、療養所外で暮らしているハンセン病元患者の生活の保障のために、退所者や非入所者に対する給与金制度を創設しました。

3 日本のハンセン病問題の課題

 ところで、療養所入所者の減少が続いており、療養所が充実した医療・介護を提供する場所として存続できるのか危惧されています。そこで、全療協・原告団等では、療養所を地域住民にも開放し利用してもらうことにより療養所を維持し、入所者が社会とかかわれるようにすることを目指して、ハンセン病基本法の制定を目指した運動をしています。
 社会に根強く残っている差別偏見の克服も大きな課題です。

4 ソロクト・楽生院訴訟

 旧植民地においても、強制収容が行われ、ハンセン病に対する差別が強化されました。療養所内で強制労働・断種・堕胎が行われたほか、職員による入所者による暴力もひどかったのです。その影響は人々の意識に深く浸透してしまい、韓国では、独立後も療養所での出産が認められなかったり、定着村といわれるハンセン病患者らが集まって暮らしている集落に対する強い差別があり、現在も残っています。
 ハンセン病補償法は国賠法施行前後を問わず、請求者の国籍、居住地に関係なく補償が認められています。それにもかわらず、国は、旧植民地に設置された療養所の入所者には対象外であるとして補償しませんでした。これを、平等原則違反であるとして韓国ついで台湾のハンセン病療養所入所者が訴訟を起こしました。
 2005年10月の判決は台湾勝訴、韓国敗訴という結論でした。しかしこれを乗り越えて、ハンセン病補償法を改正し、国外療養所についても補償すべきことを明確にしました。ところが、韓国では日本が撤退する際の資料等の管理に問題があり、入所歴の認定に困難をきたしています。
 現在でも、日本時代ソロクト更生園におり現在は定着村に居住している方々の請求が相当数残っている状況です。
 また、すべての植民地等にあった療養所が指定されているわけではなく、ミクロネシアについて漏れている療養所があるという指摘が歴史学者からなされているほか、満州国は独立国だからという理由で、満州に存在した療養所も指定されていません。

5 韓国・台湾、国連の動き

 この裁判をするにあたり、韓国・台湾の弁護士や人権団体・ジャーナリスト等の支援を得ました。日本時代の被害を明らかにしていくことをきっかけに、ハンセン病患者に対する差別の問題をそれぞれの国で考えていくようになりました。韓国では、敗訴判決に抗議してソウルで、ハンセン病患者が初めて公衆の前にでて大規模な集会をするということになりました。韓国国家人権委員会も、ハンセン病患者に対する人権侵害の調査を重要課題として取り組みました。韓国では、現在、独立後のハンセン病政策やさまざまな差別事件について真相究明や補償のための立法が検討されています。台湾でも、独立後の強制収容等に関する補償のための立法や訴訟が検討されています。
 それだけでなく、アジア・アフリカ等のハンセン病の発病者が比較的多い地域で、保健福祉の向上に多大な支援をしてきた日本財団等の働きかけで、国連の人権促進保護小委員会(機構改革により廃止され人権理事会の下部組織としての諮問委員会が設立される予定)でも数年前からハンセン病の差別の問題が取り上げられて議論されています。

6 おわりに

 映画により、韓国のハンセン病患者の生きざまに触れて、まだ残されている日本や世界でのハンセン病問題に関心を持ち行動に参加していただけることを念願しています。


【映画「椿むすめ」上映会】
日時 :2008年 2月 16日(土)午後 6時50分
場所 :新宿区角筈区民ホール
入場料:500円
製作 :ドキュ希望 監督 朴貞淑
     〒122−839 2FL 201, 59-17 Dejo-Dong, Eunpyeong-gu, Seoul, Korea
    www.docuheemang.com (日本語HP)

<参考ウェブサイト>
ソロクト更生園・台湾楽生院補償請求弁護団
ハンセン病国家賠償訴訟弁護団
ハンセン病市民学会
日本財団
厚生労働省 ハンセン病に関する情報ページ

◆鈴木敦士(すずきあつし)さんのプロフィール

弁護士。ソロクト更生園・台湾楽生院補償請求弁護団団員。



 
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