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今週の一言

 

東京高裁に憲法はないのですか!?

2007年12月24日

中村欧介さん(弁護士)

1 はじめに
 表題に掲げた言葉は、「葛飾マンションビラ配布弾圧事件」の被告人とされている荒川庸生氏が判決言い渡し直後に法廷で発した言葉である。この言葉が発せられた2007年12月11日は、東京高等裁判所が第一審無罪判決を覆してまでも公安による言論弾圧を追認する姿勢を明らかにした、戦後裁判史に汚点を残す一日となった。

2 事件概要
 「葛飾マンションビラ配布弾圧事件」とは、2004年12月23日午後2時過ぎに荒川氏が、日本共産党の都議会報告・葛飾区議団だより等をオートロック式ではない民間分譲マンションのドアポストに投函した行為について住居侵入罪が問われた刑事事件である。
 荒川氏の行為を見とがめた住民の一人による110番通報で多数の警察官が駆けつけ、氏を警察署に任意同行し、帰宅を申し出た氏に対し住民によって既に現行犯逮捕されていると告げ、その後23日間にわたる身柄拘束を続けたことが事件の発端である。  
 同じく住居侵入罪に問われた立川自衛隊官舎ビラ配布事件で第1審無罪判決が出た1週間後の事件であり、ビラ配布という憲法21条1項で保障された言論活動について刑事処罰を求める点で、とりわけ政府与党に批判的な立場の言論内容に着目した「平成の言論弾圧事件」の一つである。

3 東京地裁無罪判決
 原審での審理の中で、現場マンションは集合ポストにもドアポストにも多様なビラが日常的に投函されていたこと、管理人も常駐ではなく現実には厳格な立入規制が行われていなかった実態が明らかとなった。
 2006年8月28日東京地方裁判所刑事第12部(大島隆明裁判長)は、弁護側の主張した捜査の違法性については認めなかったものの、「ビラ配布の目的だけであれば集合郵便受けへの投函にとどめておくのが望ましいとはいえても,それ以上の共用部分への立入行為が刑事上の処罰の対象とすることについての社会通念は未だ確立しているとはいえず,結局、被告人の立入りについては正当な理由がないとはいえない」として、本件への住居侵入罪の適用を認めず無罪判決を言い渡した。

4 東京高裁不当判決
 検察側は同年9月1日に直ちに控訴したが、住民等の証人尋問等を請求することなくマンションを設計した建築士を尋問しただけであった。東京高裁刑事6部は何ら有効な立証の出来ない検察官のアシスト役を果たし、「憲法の番人」としての司法府本来の役目を放棄した。
 判決内容の詳細をこの場で述べるのは困難であるため、その骨子を3点紹介する。すなわち、(1)「チラシ・パンフレット等広告の投函は固く禁じます。」という張り紙が玄関ホール内に掲示されていた事実などからビラ配布のための立入を禁止する管理組合理事会の決定が存在すると認定でき、それに反した立入は住居侵入罪を構成する。(2)許可なく立ち入って多くの住戸のドアポストにビラを投函しながら滞留した行為が相当性を欠くことが明らかであり違法性は阻却されない。(3)マンションに立ち入らないビラ配布や個別住民の許諾を得てそのドアポストに投函するために立ち入ることは禁止されていないので、表現の自由や住民の知る権利も害されない、などと述べている。
 しかし、上記判決の論理は、本件マンションにおける日常的なビラ投函実態を無視するとともに、配布先に事前予告なしに配られるビラの本質を曲解し、本件マンション居住者らに具体的に如何なる権利がどの程度侵害されたのかの論証も全く行わない極めて形式的・表面的な論理であり、説得力を欠く。裁判所の強引な論理の背後には、ビラを配ることへの偏見や無理解、すなわち自己と異なる見解を持つ者に対する寛容の精神を背後に持つ憲法21条1項に対する無理解・軽視の姿勢が垣間見えるのである。

5 憲法の危機
 近年改憲に向けた政治動向に注目が集まるが、目の前にある憲法を裁判所が軽視するのでは改憲手続によらずして憲法が解体される。
 冒頭の荒川氏の言葉を背に受けて退廷する3人の裁判官の中には、口元に「笑い」を浮かべている者がいた。私には、それが「憲法」を口にする者への侮蔑・嘲笑と受け止めざるをえなかった。
 憲法を守る闘いは、最高裁に舞台を移す。絶対に負けることは許されない。

【参考】「葛飾ビラ配布弾圧事件 ビラ配布の自由を守る会」のWebサイトはこちら

◆中村欧介(なかむら おうすけ)さんのプロフィール

1996年東京大学法学部卒業
2001年司法試験最終合格
2003年東京弁護士会登録
 受験生時代からクラスマネージャーやゼミ長などで伊藤塾スタッフとして活動し、弁護士登録後には専任講師も務める。
 町地域の町医者的弁護士としてクレサラ問題をはじめとした一般民事事件や刑事事件を幅広く手がけるとともに、すみだ9条の会や日中友好協会墨田支部など地域に未着した諸活動にも精力的に取り組む。
 弁護士登録2年目に起きた「葛飾マンションビラ配布弾圧事件」では、発生直後の接見以来一貫して弁護活動を続け、主任弁護人を務める。



 
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