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今週の一言

 

いま南京事件を考える

2007年11月26日

石山久男さん(歴史教育者協議会委員長)
南京事件とは

 ちょうど70年前の1937年、盧溝橋事件をきっかけに日本は中国に対する全面的侵略戦争に突入した。同年12月には、日本軍は首都南京を占領した。そのさい南京とその周辺で占領前後の数ヶ月間に、日本軍は多数の中国人捕虜と住民に対する虐殺、暴行、強姦、略奪などを行い、死者の数は約20万人といわれている。これが南京事件である。
 南京にいた中島今朝吾第十六師団長は12月13日の日記に次のように記している。
 「大体捕虜ハセヌ方針ナレバ、片端ヨリ之ヲ片付クルコトトナシタル共……」「後ニ到リテ知ル処ニ依リテ、佐々木部隊丈ニテ処理セシモノ約一万五千、大平門ニ於ケル守備ノ一中隊長ガ処理セシモノ約一三〇〇、其仙鶴門附近ニ集結シタルモノ約七八千人アリ、尚続々投降シ来ル」「此七八千人之ヲ片付クルニハ相当大ナル壕ヲ要シ、中々見当ラズ、……」
 捕虜にするとその収容所をつくり、監督し、食糧を与えなければならないので、それは面倒だから、みんな殺してしまえという方針だったことがわかる。中島師団長が把握していただけでも、13日1日で約24,000人の捕虜を殺したことになる。
 1995年に南京の被害者として東京地裁に損害賠償請求訴訟をおこした李秀英さんは、日本兵にレイプされそうになって抵抗したため、銃剣で37箇所も刺され失神したが、幸いにも生き延びた人である。99年の地裁判決は、賠償請求は棄却したものの、侵略戦争だったことを認め、南京虐殺の事実と、李さんが受けた被害を、証拠にもとづいて認定した。
 当時8歳だった夏淑琴さんも銃剣で刺されたものの幸い生き残ったが、侵入した日本兵によって、祖父母、父母、一人の妹が殺され、二人の姉が強姦殺害された。夏さんはその体験を日本でも証言してきたが、東中野修道・亜細亜大学教授の著書『「南京虐殺」の徹底検証』(展転社)で夏さんは偽者だといわれ、東中野氏を名誉毀損で訴えた。去る11月2日の東京地裁判決は、東中野氏の著書は「学問研究の成果というに値しない」と断じ、400万円の損害賠償を命じた。これらは被害者のなかのほんの一例にすぎない。

いまなぜ南京事件が重要か

 南京事件は明らかな戦争犯罪であり、東京裁判でも当時の軍司令官・松井石根は死刑判決を受けた。しかし、1950年代以後、教科書への統制が強まると、文部省の検定によって南京事件は教科書から姿を消してしまった。
 1970年代になって、本多勝一氏が朝日新聞に連載した「中国の旅」が日本の加害の事実を明らかにして大きな反響をよび、また80年代には、教科書検定による侵略の事実の抹消に対し中国・韓国からの強い抗議が行われた。政府も一応それを受け入れ、侵略加害の事実に関する教科書の記述は1980年代後半から改善されるようになった。
 ところがこれに対し、南京虐殺はまぼろしだとする説が大がかりにふりまかれるようになり、それは戦争を美化する「新しい歴史教科書をつくる会」の運動にひきつがれてきた。いま書店には、南京虐殺まぼろし説をはじめ、戦争の事実を歪曲し美化する本が平積みになって売られている。彼らは「従軍慰安婦」の記述を中学教科書から消すことに成功し、いま南京事件の事実や、沖縄戦の「集団自決」が軍の強制によるものだったという事実を教科書から消し、国民の目から隠すことに躍起となっている。
 なぜか。軍隊による犯罪的行為の事実を通して、軍隊をもつことや戦争をすることが決して人々のためにならない、軍隊は住民を守るものではないという考え方が広まることは、日本国憲法を変えて戦争のできる国にする計画を大きく妨げることになるからである。
 こうして今日なお、南京事件の事実は多くの日本人にとっての共通認識になっていない。
 しかし、いま世界では、戦争や侵略のなかでおこった人権侵害を許さず、事実をありのままに認めあうことを基礎に国境を越えた和解と平和をつくりあげようとするのが常識となっている。ドイツがナチスの犯罪行為による被害の補償を実行し、アメリカが戦時中の日系人の強制収容に対して謝罪と補償を行い、国連人権委員会が「従軍慰安婦」問題を調査し日本政府への勧告を含めてまとめた報告書に留意することを決議したことなどが、そのあらわれである。
 日本がいつまでも右翼勢力に押されて戦争の真実を認めようとしない態度をとりつづけるならば、日本は第二次世界大戦のときと同じように世界からアジアから孤立するであろう。それがもたらす弊害は計りしれないものがある。
 だからこそ南京事件70年にあたるいま、日本の戦争犯罪の象徴的事件の一つといえる南京事件の真実を明らかにし、ひろく国民が共有できるようにすること、そのことを通し世界的視野に立ってアジアにおける和解と未来の平和をつくりあげる展望を共有することが求められている。そのため、私たちは昨年から準備をはじめて「南京事件70年国際シンポジウム」を企画・実行してきた。すでに今年三月のアメリカを皮切りに、六月にカナダ、九月にイタリア、一〇月にフランス、ドイツ、マレーシア、一一月に韓国、中国と行ってきた。しめくくりのシンポジウムを一二月に東京で行うことになっている。ぜひ多数の方が参加してくださることを願っている。

■東京シンポジウムの概要■

<12月15日(土)10:00〜17:30>

明治大学駿河台校舎リバティータワー6F1063教室

記念講演
「日本とアメリカの戦争残虐行為、歴史の記憶喪失、東アジアにおける和解への道」
マーク・セルデン(コーネル大学教授)
パネルT「『戦後補償裁判』が未来に果たす役割とは何か」
     中国人戦争被害賠償請求事件弁護団/小山一郎/井上久士/聶莉莉/南典男
パネルU「南京事件−発生の背景/沈黙の構造」
     吉田裕/能川元一

<12月16日(日)9:30〜18:00> 

明治大学駿河台校舎リバティータワー1F1011教室

パネルV「東アジアにおける戦争の裁きの再検討」
     程凱/高橋哲郎/丸川哲史
パネルW「ヨーロッパでは戦争責任をどう議論しているか」
     川喜多敦子/ジャン・ルイ・マルゴラン/スヴェン・サーラ
総括ディスカッション「東アジアの和解と平和のために」
     荒井信一/徐勝/笠原十九司/尾山宏

参加協力券 2日間通し券 一般2500円 大学生・高校生1500円
      一日券    一般1500円 大学生・高校生1000円
問合せ先  南京事件70年国際シンポジウム実行委員会 03-5842-1666


◆石山久男(いしやま ひさお)さんのプロフィール

1936年 東京で生まれる
1961年 東京都立大学大学院修士課程終了 神奈川県川崎市立高校教諭(社会科担当)就任
1989年 歴史教育者協議会事務局長就任 東京都立大学非常勤講師(2006年まで)
2004年 歴史教育者協議会委員長 現在にいたる
     他に 日本歴史学協会常任委員 子どもと教科書全国ネット21常任運営委員
著書 『近現代史と教科書問題』新興出版社 1998
   『君たちは戦争で死ねるか』大月書店 共著 1999
   『日の丸・君が代−国旗・国歌を考える』学習の友社 1999
   『平和と戦争の絵本』第3巻 大月書店 2003
   『とめよう戦争への教育』学習の友社 共著 2005


 
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