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自衛隊のインド洋派兵について

2007年10月22日

山内敏弘さん(龍谷大学教授・法学館憲法研究所客員研究員)
 「戦後レジームからの脱却」とか「美しい国」つくりを掲げて2006年9月に登場した安倍内閣は、さる9月10日に臨時国会での所信表明演説を行なった直後(12日)に辞任を表明するという前例のない形で終わりを遂げて、代わって福田内閣が登場した。安倍首相の辞任の原因となったのは、7月の参議院選挙で自民党が大敗して参議院で少数与党になったことであるが、より直接的にはそのことによって今年の11月1日で期限切れとなるテロ対策特措法の延長が参議院では承認不可能となったことが理由とされている。福田内閣は、野党との話し合いをしてテロ対策特措法に代わる新法の制定を図りたいとしているが、民主党などの野党は新法の制定にも基本的に反対の立場をとっており、臨時国会での最大の争点となっている。そこで、以下、この問題に関して私見を簡単に述べることにしたい。
 そもそもテロ対策特措法は、2001年11月2日に、同年9月11日の同時多発テロ事件を契機として公布施行されたものである。アメリカは9・11事件の首謀者はアフガニスタンで当時実効支配していたタリバン政権によってかくまわれているオサマ・ビンラデインであるとして、自衛権の行使ということでアフガニスタンに対する武力攻撃を行い、日本に対してその後方支援を要請してきた。しかし、この同時多発テロが国連憲章51条で自衛権行使の要件として規定する「武力攻撃が発生した場合」に該当するかどうかは問題であったし、テロ行為を行なった者がタリバン政権であったわけではないことからすれば、アフガニスタンに対して武力攻撃を行うこと自体にも疑問があった。
 そのように国際法的にみても疑問があったアメリカのアフガニスタンに対する武力攻撃について、日本政府は「協力支援活動」(=諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供、便益の供与その他の措置)などを行うことをテロ対策特措法において定めた。たしかに、同法は「対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」(2条2項)と規定し、また対応措置については、非戦闘地域で実施する(2条3項)と規定していたが、しかし、同法は同時に「武器の使用」を認めており(12条)、これが憲法で禁止する「武力の行使」に該当しないとする根拠は不明のままであった。
 日本政府は、この法律に基づいて主として米海軍の補給艦などへの給油活動をインド洋において行ってきたが、その実態は国民に明らかにはされないままに今日に至っている。たとえば、防衛省は、最近、インド洋で給油活動をしていた自衛隊の補給艦「とわだ」の2003年7月〜11月の航海日誌を今年7月になって「誤って破棄した」と釈明した。防衛省の文書管理規則に従えばこのような文書の保存期間は5年間とされているにもかかわらず、しかも市民の間からつとにその開示が求められていた矢先において、そのようなことが起きるとは容易には信じがたいことである。関係者の処分だけですむ話ではないであろう。
 さらに、当初2年の時限立法であった同法の延長が国会にかけられた際に、政府は、2003年2月に自衛隊から給油を受けた米補給艦が米空母キチーホークに給油したが、その量は20万ガロンと説明していたが、最近になってその量は、80万ガロンであったと訂正している。しかも、その給油は空母キテーホークの海上におけるテロ阻止行動のためにのみ使われたと説明しているが、そもそも空母が海上でのテロ阻止行動に使われたということ自体常識的に不自然であるし、しかも、同空母は、ペルシャ湾を航行して対イラク戦争に出動したことからすれば、自衛隊から受けた油が海上阻止行動にのみ使用されたという説明も説得力に欠けるものといえよう。
 かりに政府のいうように自衛隊から給油された油が海上でのテロ阻止行動にのみ使用されたとしても、それではそのような給油活動は合憲となるのかといえば、その合憲性は危ういものと思われる。政府は、給油活動は憲法の禁止する武力行使に該当せず、憲法には違反しないとしているが、しかし、自衛隊の給油活動は米軍の戦闘行為に対するいわゆる兵站活動であって、米軍の戦闘行為にきわめて有用な軍事的役割を持つことは明らかであろう。そうであるが故にアメリカ政府は、日本に対してその継続を要請して来ているのである。政府は、このような給油活動は武力行使と一体化した活動ではないとしているが、しかし、武力行使と密接に関係することは否定すべくもないであろう。国際紛争を解決する手段として武力による威嚇又は武力の行使を禁止した憲法9条の趣旨はそのような武力行使と密接な関係にある行為をも禁止したものと解するのが、憲法の平和主義の正しい解釈と考えられる。
 政府は、従来のテロ対策特措法に代えて、新法の提案を国会に行うことにしたが、上述したことは、基本的には新法案にも妥当するといってよいであろう。新法案は、従来のテロ対策特措法が広く「協力支援活動」などを行うとしていたのに対して、その活動をペルシャ湾を含むインド洋における給油給水に限定しているが、そのように給油給水活動に限定したとしても、上述した疑問が基本的にはそのまま妥当するからである。それだけではない。新法案では、そのような給油活動を行うについては国会の承認を不要としている。新法案の国会での承認が具体的な給油活動についての国会の承認をも意味しているという理由によってである。しかし、このような見解は説得的とはいえないであろう。かりに新法案を国会が承認したとしても、それは具体的にどのような給油活動を自衛隊が行うことをもすべて政府に白紙委任したことを意味するわけではないからである。このように国会によるシビリアン・コントロールをも軽視した新法案は国会の事後承認を規定したテロ対策特措法に比較してもなお重大な憲法上の疑義をはらむものと思われる。
 なお、関連して指摘しておくべきは、民主党の小沢一郎代表が、テロ対策特措法による対米軍事支援は違憲であるが、国連安保理の承認に基づくISAF(国際治安支援部隊)への自衛隊の参加は武力行使を伴う場合でも合憲としている点についてである。小沢氏はその根拠として、個々の国家が行使する自衛権と国際社会全体で平和を維持するために行なう国連の活動とは次元が異なるものであり、後者は自衛権を超えたものであり、従って、日本国憲法ではなんら禁止されていないということを指摘している。しかし、このような見解は、従来の政府見解をも逸脱するものといえよう。政府は、これまで、国連の行う活動といえども、武力行使を伴う活動には日本は参加できないとしてきたのである。憲法前文と9条は武力行使は国際紛争解決の手段として一切禁止しており、それが国連の決議による場合は認められるとする解釈をこれらの規定から導き出すことは困難であろう。 
 もちろん、日本国憲法は一国平和主義を定めたものではない。憲法前文は「全世界の国民は、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」と規定している。この規定はテロを国際社会からなくするためにも有用であろう。テロの根元には差別や貧困があり、それらを絶つために軍事力行使は役には立たないことを、イラクやアフガニスタンの事例は示しているように思われる。非軍事的な国際協力を地道に行うとともに、「文明間の対話」を積極的に促進して「暴力の連鎖」を断ち切る努力をしていくことこそが今必要であるように思われる。

◆山内敏弘(やまうち としひろ)さんのプロフィール

1940年山形県生まれ。
獨協大学教授、一橋大学教授を経て、現在、龍谷大学法科大学員教授。
法学館憲法研究所客員研究員。
【主な著書】
『平和憲法の理論』(日本評論社、1992年)、
『憲法判例 を読みなおす』(共著・日本評論社、1999年)
『有事法制を検証する』(編著 ・法律文化社、2002年)
『人権・主権・平和』(日本評論社、2003年)
『新現代憲法入門』(編著・法律文化社、2004年)

山内敏弘さん動画メッセージ(約11分。2007年4月28日収録)はこちらから。


 
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