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今週の一言

 

チャンスを生かし、「活憲の政府」の実現を

2007年10月15日

五十嵐仁さん(法政大学教授)
 ヤベー首相とか、アブ内閣などと言われた安倍政権は自壊した。ジレンマに押しつぶされてしまったのである。

 その資質も能力も、それに体力さえもなかったのに、選挙用の看板として見栄えがするという理由だけで首相になり、挙げ句の果てに参院選で惨敗してしまったジレンマ。憲法尊重擁護義務があるのに改憲を掲げ、「従米」路線をとり続けながら、アメリカ主導で作られた「戦後レジーム」からの脱却を目指したジレンマ。全く指導力がないのに、「チーム安倍」や「少年官邸団」を指導しようとしたジレンマ。
 数々のジレンマにぶち当たった安倍首相は、所信表明演説の後、代表質問の直前という、およそ考えられる限り最悪のタイミングで辞任を表明した。愚か者は、最も悪いタイミングで最悪の選択肢を選ぶものである。安倍首相の辞め方は、愚か者の典型だったと言えるだろう。

 安倍辞任の背景としては様々な要因が指摘できる。その最大のものは、参院選での歴史的大敗である。「一票革命」とも言える主権の発動によって、自民党は手痛い敗北を喫した。安倍改憲政治は、国民主権の岩盤にぶち当たって跳ね返されたのである。しかし、安倍首相は辞めなかった。
 続投を決意した安倍首相の“やる気”を砕いたものは二つある。一つは、自民党と官僚の逆襲だった。小泉エピゴーネンとして、安倍首相は「首相支配」を気取り、「官邸主導」を真似ようとしたものの、それだけの力を持たなかった。官僚は隠微な形で抵抗し、党と内閣への指導力も失った。後継の福田首相が自民党の派閥政治に依拠し、公務員改革を先延ばしして官僚に妥協したのも不思議ではない。
 もう一つの要因は、アメリカに見離されると思ったからである。常々アメリカからの冷たい視線を感じていた安倍首相は、インド洋での海上自衛隊の給油を継続することによってブッシュ大統領の信頼をつなぎ止めようとした。しかし、小沢民主党代表の堅い拒絶によって、この思惑は完全にはずれる。窮した安倍は、職責を放棄して病院に逃げ込むしかなくなったのである。

 参院選での自民党惨敗によって、国会の構成は変化した。改憲賛成派は53%(『朝日新聞』調査)と3分の2を下回り、改憲発議は不可能になった。福田首相は「国際平和主義は国民の間に定着した」と言い、安倍前首相の改憲路線を踏襲していない。明文改憲を唱えていた安倍、麻生、中川昭一などは自民党や内閣の要職を去り、代わりに、谷垣や古賀などの解釈改憲派が復権した。
 かつて、安保条約反対闘争の高揚を引き出して明文改憲路線を挫折させた岸元首相と同様、安倍前首相は参院選での惨敗によって明文改憲路線に大きな打撃を与えた。この点でも、安倍は岸のDNAを受け継いでいたと言えようか。
 他方、参院で多数を占める民主党は、衆院通過法案の否決、参院先議の法案の可決、国政調査権、問責決議の採択、承認人事での拒否権という武器を手に入れた。安倍辞任のぶざまさへの反動と首相交代による「振り子の論理」の部分的作動によって、内閣支持率が持ち直したとはいえ、福田首相にとっての国会運営は「地雷原」を進むようなものである。いつ、地雷を踏んで吹き飛ばされてしまうか分からない。

 いずれにせよ、安倍首相は去った。後任の福田首相も憲法論議の深まりを期待するとしているが、少なくとも、改憲派にとってはこれまでのようにはいかないだろう。『正論』『諸君』『WiLL』などの右翼論壇誌は、安倍首相に期待を寄せていた右派言論人の悲鳴のような恨み節に満ちている。
 このような局面転換を生かして、護憲運動は攻勢に出なければならない。改憲に向けての策動を牽制しつつ、「護憲」を越える新たな攻勢的な運動課題を掲げる必要がある。安倍前首相の改憲攻撃によって「活」を入れられた「護憲運動」は、そのエネルギーを新らしい形で発展させなければならない。それが「活憲」である。
 第9条や第25条などに掲げられた憲法の理念を、日本の政治と我々の生活に生かすことである。真に憲法を尊重し擁護する首相を選び、憲法に従い、それを日々の生活に具体化する新しい政府を樹立することである。

 改憲を真正面から掲げた安倍首相は去った。古い自民党の復活を策す福田首相を乗り越え、新しい「活憲の政府」を実現する必要がある。
 国民の信任を得ていない福田政権は選挙管理内閣にすぎず、近い将来、解散・総選挙は避けられない。そのチャンスを捉えて、「活憲の政府」を樹立するための政権交代を実現することこそ、当面の最重要課題にほかならない。


◆五十嵐仁(いがらし じん)さんのプロフィール

法政大学教授。法政大学大原社会問題研究所副所長。
専門は政治学、戦後政治史、労働問題、労働政治、選挙制度。
『政党政治と労働組合運動−戦後日本の到達点と21世紀への課題』(御茶の水書房、1998年)、『概説 現代政治−その動態と理論〔第三版〕』(法律文化社、1999年)、『戦後政治の実像−舞台裏で何が決められたのか』(小学館、2003年)、『現代日本政治−「知力革命」の時代』(八朔社、2004年)、『この目で見てきた世界のレイバー・アーカイヴス−地球一周:労働組合と労働資料館を訪ねる旅』(法律文化社、2004年)、『活憲―「特上の国」づくりをめざして』(績文堂・山吹書店、2005年)など著書多数。
五十嵐さんのWebサイト「五十嵐仁の転成仁語」 はこちら


<お知らせ>

市民社会フォーラム第11回東京例会 「日本政治の展望 ―「活憲」を軸に」


日 時 07年10月27日(土)15時〜18時
会 場 法政大学市ヶ谷キャンパス(富士見坂校舎内)58年館867教室
    JR飯田橋駅か市ヶ谷駅から徒歩10分
話題提供
 「活憲を展望する政治論―政治学者の立場から」 五十嵐仁さん 
 「活憲を実現するためには―平和活動家の立場から」 きくちゆみさん
共 催 へいこうせん(平和と公正の選択を求めるネットワーク)
    沖縄・日本から米軍基地をなくす草の根運動
協 力 平和と文化のネットワーク
    グローバル9条キャンペーン
※お問い合わせ・申込み先:Eメール

 


 
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