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沖縄はなぜ島ぐるみで怒っているのか

2007年9月24日

大城将保さん(沖縄平和ネットワーク代表世話人)
 沖縄はいま沖縄戦の史実を歪曲する教科書検定意見の撤回を要求して島ぐるみ闘争≠ノ立ち上がっている。来る9月29日に開催される「9・29『集団自決』検定撤回県民大会」にむけて県知事や県議会から市民団体にいたる1000近い団体が県民大会準備実行委員会に結集して署名運動などの準備活動を展開している。
 私たちの沖縄平和ネットワークでもいちはやく高教組、県教組などと連携して「沖縄戦の歴史教科書の歪曲を許さず、沖縄から平和教育を進める会」を結成して集会や署名運動に取り組んできたが、9月初旬までに集まった署名数は有権者の半数をこえる55万人に達している。
 問題が発覚したのは、今年3月末の新聞報道で、来春から使用される高校歴史教科書の検定で、沖縄戦における沖縄住民の「集団自決」の記述で「日本軍による自決命令や強要があった」とする5社7冊の申請本にたいして「沖縄戦の実態について誤解する恐れのある表現」として、日本軍による命令・強制・誘導等の表現を削除・修正させたことが判明した。修正意見の理由をマスコミの追求された文科省の担当官は、(1)「軍の命令があった」とする資料と否定する資料がある。(2)慶良間諸島で自決を命じたと言われてきた元軍人やその遺族が名誉毀損の訴訟を起こしている。(3)近年の研究は、命令の有無より住民の精神状態が重視されている。
 一読して、私自身がまず驚きあきれてしまった。私はこれまで30数年、沖縄戦の体験者の証言記録と戦史研究を続けてきた者として、学問と教育の府であるはずの文科省がこのような認識不足と想像力欠如を露呈させた粗雑で強引で不誠実な態度で教科書検定を行っていようとは思いもよらなかった。
 私が確認しただけでも、沖縄戦で発生した住民の「集団自決」(強制集団死)の件数は40件におよび犠牲者は1、149人。また、「集団自決」と表裏一体の関係にある「住民虐殺」は46件、犠牲者167人におよんでいる。もちろん、これとて氷山の一角に過ぎないのであろうが、「集団自決」が軍命によって強要されたことは沖縄では常識であり、軍の関与がなければ発生しないはずの二重三重の悲劇であったのだ。今ごろになって一元隊長が自己正当化のために訴訟を起こしたからといって「集団自決」全体の史実がこうも軽々に変更できるものかどうか。
 文科省が示したという上記の3項目の理由は、じつは国家主義・軍国主義への回帰を唱える右派グループの主張を一方的にとりいれたものである。「自由主義史観研究会」は05年5月に戦後60年を期して「沖縄プロジェクト」を発足させ、「文科省に教科書検定方針を改め『集団自決強要』の記述を削除する指導を求める」と決議したが、一方では、現在、大阪地裁で進行中の大江健三郎氏と岩波書店を元隊長らが名誉毀損で訴えた「大江・岩波『集団自決』訴訟」の支援活動にも動いており、教科書検定と訴訟とは裏でつながっていたのである。
 伊吹文科大臣は、県議会や県民大会の要請団に対して、文科省としては検定審議会の審議には介入できないと逃げているが、マスコミの追及でしだいに明らかになったところでは、実質的な作業をおこなう小委員会には沖縄戦の研究をしている専門家は皆無であり、小委員会から調査審議会にあがってきた原案もほとんど議論されずに素通りしたという。
 沖縄県議会は、今回の教科書検定問題にたいして2度にわたって意見書を決議しているが、7月11日に全会一致で可決された2度目の意見書には教科書検定制度そのものに言及して、「諮問案の取りまとめに当たっては係争中の裁判を理由とし、かつ、一方の当事者のみを取り上げていること、同審議会の検討経緯が明らかにされてないこと、これまでの事例ではほぼ同省の諮問どおりに答申されていることなどを考えた場合、今回の同省の回答は到底容認できるものではない」ときびしく指摘している。
 「集団自決」や「住民虐殺」に象徴されるような地獄の戦場を体験した沖縄住民が、口をそろえて強調する沖縄戦の実相と教訓を集約すると次のような真実が浮かび上がってくる。(1)戦争とは、人間が人間でなくなる極限の状態だ。 (2)戦場ではアメリカ兵よりも日本兵がこわかった。(3)軍隊は住民を護らなかった。
 現在、「戦争のできる国」をめざして各方面で画策している政治勢力にとって、「軍隊は住民を護らなかった」という沖縄県民の証言ほどじゃまなものはない。だから、従軍慰安婦問題や朝鮮の植民地支配や南京大虐殺問題などに続いて、いよいよ攻撃に矢を沖縄に向けてきたということだろう。
 沖縄県民は地獄の戦場を体験した教訓を「沖縄の心」として、27年間の米軍統治下に苦しむ中で、「平和憲法への復帰」を合い言葉に島ぐるみ運動を続けて復帰を勝ち取った経験をもっている。しかし、実際には「平和憲法への復帰」は空証文にされ、「安保条約への復帰」にすりかえられて、米軍基地はそのまま固定され、そのうえ米軍再編で自衛隊が米軍基地をひきつぐ準備が進められようとしている。日本が再び戦争の出来る国に突き進もうとする怪しい雲行きが県民の不安と怒りに転化しているのだ。
 教科書は全国の子どもたちに共通するものだ。日本の未来をになう子ども達に、日本の戦争の歴史を歪めて伝えるわけにはいかない。私は来る9月29日の沖縄県民大会に間に合わせて『沖縄戦の真実と歪曲』という本を緊急出版したが、正直なところ、島ぐるみで叫ぶ沖縄県民の声が本土の人びとの心にどこまで届くか不安ではある。今後の動向を見守っていきたい。

◆大城将保(おおしろ・まさやす)さんのプロフィール

1939年、沖縄県玉城村(現南条市)に生まれる。沖縄史料編集所主任専門員として沖縄県史の編纂にたずさわった後、県教育庁の文化課課長、県立博物館学芸課長等をへて、沖縄県立博物館長をつとめる。
沖縄戦研究者として、著書に『沖縄戦』(高文研)『沖縄戦を考える』(ひるぎ社)共著書『修学旅行のための沖縄案内』『沖縄戦・ある母の記録』『観光コースでない沖縄』(共に高文研)など、また作家として嶋津与志の筆名で『琉球王国衰亡史』(平凡社)『かんからさんしん物語』(理論社)など、さらに戯曲「洞窟(がま)」「めんそーれ沖縄」、映画「GAMA−月桃の花」などのシナリオ作品がある。現在、沖縄国際大学講師、NPO法人・沖縄県芸術文化振興協会理事長、新沖縄県史編集委員、沖縄平和ネットワーク代表世話人。
2007年9月、『沖縄戦の真実と歪曲』(高文研)を著す。

 


 
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