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今週の一言

 

「食」なくして平和なし

2007年9月10日

八木直樹さん(有機農業)
 私は、有機農業で暮らしている一農民です。
3年ほど前のこと、私の住む房総半島南部に数十ヶ所もの戦争遺跡があるということを、私は知りました。わが家から1qほどしか離れていないところに、そのうちの一つ、特攻機「桜花(おうか)」発射基地跡があります。これはカタパルト発射台の跡で、畑の真ん中にコンクリートの構造物が数十m続いています。「桜花」は、沖縄戦で実際に使われた特攻機ですが、この基地は、1945年8月末の完成を目指して突貫工事が進められていたものの、その前に終戦となったために、実際には使われなかったというものです。作物を育て、人のいのちをつなぐ場である畑の真ん中に、人のいのちを犠牲にし、人のいのちを奪うための特攻機の発射台がある。これを知ったとき、私はとても衝撃を受けました。
戦後、アメリカの公文書でわかったことですが、アメリカ軍は1946年3月1日に、房総半島の太平洋側と相模湾から同時に上陸し首都東京を挟み撃ちにするという作戦を予定していました。ですから、もしもあの戦争がもっと長引いていたならば、沖縄戦と同じ光景が房総半島にも展開され、いま田畑にいながら眺めるこの風景はあり得なかったでしょう。あれから日本が日本国憲法の下、戦争をしない国となったことの重みを、強く感じずにはいられません。
 私は、3年ほど前までは、特に憲法について意識したことはありませんでした。それほど日本国憲法を前提とした戦後日本のあり方が、当たり前のものだと思っていたのです。しかし、イラクへの自衛隊派兵以降、日本が再び戦争への道をたどり始めたのではないかという不安が生じてきました。続いて、新聞等で、政治家たちの「憲法を変えた方がいい」という声が盛んに報じられるようになってきました。そしてついには、憲法を変えることを目標として公言する首相が登場しました。この間の流れの速さには驚くばかりです。それに対し、憲法を守ろうという声が高まってきているのも事実で、そのことは私たちを勇気づけるものです。しかし、私は、憲法を守ろうと唱えている方々の多くが、同じように大事なことをほとんど語っていないことに疑問を感じています。それは、食料の自給ということです。
今、日本の食料自給率は、カロリーベースで40%を割っています。この状況を例えてみれば、日本人は、1年365日のうち自分たちでつくった食料を食べて生きているのはたった146日足らずで、残りの219日は、海外でつくられた食料を食べて生きている、ということになります。しかも、農産物の輸入を前提とした農業政策のため、農産物価格は下がり、農家は意欲も誇りも失いかけています。その結果、若い人が農業後継者とならないため農民は高齢化していて、10年も経たないうちに農民は激減してしまうだろうと、地元の様子を見て感じています。しかも海外の農産物輸出国からの自由貿易圧力は高まっており、今後ますます海外への依存率は高まる可能性が高いということです。このことがいかに危ういかということに気づいていない方も多いのではないでしょうか。
食べるということは、時代を問わず、政治体制を問わず、もっとも大切な人が生きる基本です。「食」の安定なくして、安定した平和な社会はありえません。皆様はもう忘れたでしょうか。1993年異常気象により戦後最悪の大凶作となりました。そして、減反政策と備蓄米の不足もあって、国産米は品薄により高騰。翌年春に「緊急輸入」という形で外国産米が輸入され、これが貿易自由化交渉(ガット・ウルグアイラウンド)と重なったため、政府は米の部分輸入をあっさり決め、自給政策を止めてしまいました。当時まだ東京で暮らしていた私は、「いくら凶作だったからといっても、こんなに混乱するということは、日本の農業・食糧政策はとんでもないことになっているのではないか」と疑問を感じ、農業に関心を持つことになりました。そして、自ら農業に携わる道を選んだのです。
 日本が食料輸入に頼っていられるのは、経済が優位に立っているという条件があるからであって、国際社会での日本の地位が今後同じように維持できる保障はないのです。また、すでに世界的な穀物の不足傾向は始まっていて、価格の上昇につながっています。ある日突然、買いたい食料が買えなくなって、国内生産では賄いきれなくなり混乱に陥る、ということもありえない話ではないでしょう。さらに、国民の生命線である「食」を他に委ねているのですから、国際情勢の変化によっていつでも直接的、間接的に戦争に巻き込まれる危険があります。
 ですから、海外に依存しない、他国の人や環境から搾取しない、そういう自立した経済の基盤をつくっていこうと努力することが同時に求められています。そのためには、農業を国の基礎に据え、国民が安定して食べていける条件を整えることが何より大切だと、私は考えています。こうして経済的に自立しなければ、憲法第九条があるというだけでは、安定した平和な社会はつくれないと思います。もちろん、わが家では、米、麦、大豆、野菜数十種類、味噌、漬物などをつくり、わが家の自給率を高める努力をしています。
 私は、いのちを育み、いのちのつながり、人のつながりをつくる有機農業で暮らしています。それは、次世代に平和で安定した社会を継承しようとすることでもあると考えています。もしも戦争への道のりがどんどん進んでしまったら、穏やかに暮らしたいという願いも未来へ農村の環境を残していきたいという願いもすべて踏みにじられてしまうのですから、一農民として、憲法を学びながら、戦争できる国にしようとする動きにはとことん反対していきたいと思います。

◆八木直樹(やぎ なおき)さんのプロフィール

1965年、東京に生まれる。一年間農業研修を受けた後、97年に旧三芳村で就農。その後、地元農家の養子となる。田50a、畑75aを夫婦二人で耕作。
地元の戦争遺跡の調査・保存と戦争の歴史や平和についての学習活動を行う「南房総・平和をつくる会」代表を務める。

 


 
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