法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

9条を世界の目で、世界の人と、世界に向けて

2007年9月3日

新倉修さん(青山学院大学教授、9条世界会議共同代表)
1 平和を望むなら、戦争に備えよ?

 「平和を望むなら、戦争に備えよ」という言葉がある。過去の失敗に懲りない面々は、さらに、「臥薪嘗胆」とか「捲土重来」などと付け加えて悪のりしてくるだろう。おまけに、「敷島の豊瑞穂の美し(うまし)国」を懐かしむレトロ調を振りまくかも知れない。
 しかし、「うまし国」の伝統の中には、民のかまどに煙が上がらないことを憂え、善政を心がけたエピソードも含まれる。数百年にわたって死刑を執行しなかった御代も含まれる。天皇その人が、自分たちの祖先が朝鮮半島から渡ってきたことを認めている。土地にこだわるのであれば、竹島どころか、朝鮮半島全体の領有権を主張することも、あながち絵空事とは言えない。つまり、戦争は、そのような限りのない欲望を充足するための方法として、正当化され、失地を回復することが平和の条件であるとふうに、欲望の向かう目標を高めに設定すれば、戦争に備えることは平素の心がけとして求められることになろう。

2 サイパン島の玉砕と沖縄

 62年目の終戦記念をめぐって、さまざまなテレビ番組があった。そのひとつに、サイパン島の玉砕を扱ったものがある。サイパン島は、南太平洋の美しい島だが、切り立った崖があり、その名を「バンザイ・クリフ」という。米軍の圧倒的な攻撃によって、サイパン島の守備隊とともに、島民全員が戦死したとして、当時の戦争指導部は判断して、「民間人もよく軍に協力して、上陸する敵と戦い、壮烈な玉砕を遂げた」と発表した。しかし、崖淵に追い詰められて、バンザイと叫んで、海に飛び込んだ住民も多かったが、1万5000人の住民が降伏して、陸戦法規に従って、捕虜して丁重な待遇を受けたそうだ。沖縄出身の村山千鶴子さんという女性もその1人だった。悲劇はその後に生まれた。
 千鶴子さんの兄でたった一人沖縄に残った金城正雄さんは、家族がサイパン島で玉砕したという当局の発表を鵜呑みにして、志願して、沖縄防衛隊に加わり、上陸してきた米軍に切り込み壮烈な戦死を遂げた。身内の仇を討つというのが、正雄さんの志願の動機だった。情報が正しく伝わっていたら、兄の正雄さんは戦死しなかったのではないか、少なくとも妹の仇を討つという気持ちにはならなかったはずだ。これが、戦後62年経った今でも、千鶴子さんの胸を去来する悔いだった。
 そもそも「大東亜戦争」がなかったらということをひとまず置くとしても、戦争において陸戦法規を遵守するという国際法があることを知っていたら、捕虜になることを恥とする「戦陣訓」などが生まれる余地もなく、玉砕のニュースを鵜呑みにすることもなかっただろう。このことに示されるように、普通の人を「無知」に追いやるシステムそのものが、戦争のメカニズムのなかに組み込まれている。

3 ネメシス

 このような仕組みのもっとも発達したものが、アメリカの世界戦略だ、とカリフォルニア州で日本政策研究所を主宰するチャーマーズ・ジョンソンさんは、近著『ネメシス』の中で詳細に説いている。有り体に言えば、アメリカが誇る産業は、もはや軍事産業しかない。この指摘はショックだ。
 「海外における帝国を維持するには資源と約束や関わり合いが求められることになり、それによって必ず国内の民主主義が衰弱し、最終的には軍事独裁や文民による同様な独裁制を生み出すことになる」という指摘も示唆に富む。これを防ぐ手だては共和制だが、巨大な常備軍と絶え間ない戦争、軍事的なケインズ主義、破滅的な軍事支出のせいで、共和制の仕組みは破壊され、帝国主義の大統領制が生み出されているという。ここまで来れば、相当深刻だ。しかも、世界一の大国がこのような状況であるだけでなく、世界第2位の経済力のある日本を引き込もうとしている。9条改憲は、そのもっとも先端的な現れだ。

4 9条世界会議をつくろう

 「平和を望むために、戦争に備えよ」という発想が、巨大な常備軍と海外基地と、引きも切らない外国での戦争を意味するなら、僕たちに必要なのは、その歴史の歯車を逆転させるような動きを、正しい方向に向かわせることだ。ということは、「平和を望むために、戦争を廃止しよう!軍備を放棄しよう!交戦権を否定しよう!」ということにほかならない。現実は、このような理念をそのままストレートに受け入れるものではない。何よりも世界第3位とも第4位とも高位にランキングされる装備をもった自衛隊が存在している。それだけではなく、「原爆投下はしょうがない」と言ってしまう大臣がいたり、その「失言」によって交替した女性大臣が、名護の基地問題で交渉を担当した事務次官をあっさり首にしたりしている。その同じ防衛大臣は、首相がインドで米印核協定について話し合っているそのときに、インドと同じく核兵器を開発した隣国パキスタンに出向いて、アフガニスタンやイラクを攻撃しているアメリカなどの艦船に給油する自衛艦を支えている「テロ特措法」について、その延長を依頼されて、野党を説得するよう約束している。それだけではない。横須賀では、いっぺんの通告で実現させられた米海軍の原子力空母の母港化を受け入れるために、横須賀港のしゅんせつ工事が開始されようとしている。
 なし崩しでずるずると、アメリカの世界戦略に付き合わされている危険な国を、公正と信義に基づく国際秩序の正道に立ち戻させるために、来年5月4日と5日に、幕張メッセで1万人規模の9条世界会議を開こう。あらゆる角度から9条の意味をさぐり、9条が「瀕死の状態」にあるとしたら、これを生き返らせ、元気づけ、世界を照らす「灯台」として、「ネメシス」の怒りにさらされている世界一の帝国を軍備のくびきから解放してあげよう。
 そのための智慧と勇気を1人でも多くの人が、寄せ合えば、9条世界会議は成功する。広島から幕張まで80日かけて歩き通そうという提案もある。平和のタペスリーを持ち寄ろうという提案も大歓迎。世界の歌や音楽で、多彩で楽しい世界の人びとと交流することも大事だ。でも、9条を世界に発信するために、参加者の智慧を集めて、メッセージをつくりましょう。平和の鼓動をアジアから発信しましょう。

◆新倉修(にいくらおさむ)さんのプロフィール

青山学院大学法科大学院教授(刑事法)。
日本国際法律家協会会長、国際民主法律家協会(IADL)執行委員なども務める。
9条世界会議共同代表。
『刑法マテリアルズ―資料で学ぶ刑法総論』(1995年、柏書房、共著)、『いま日本の法は―君たちはどう学ぶか(第3版)』(2001年、日本評論社、共著)、『少年「犯罪」被害者と情報開示』(2001年、現代人文社)、『導入対話による刑法講義〈総論〉(第3版)』(2006年、不磨書房、共著)など著書多数。

 


 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]