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今週の一言

 

いまこそ人権としての社会保障の確立を

2007年8月27日

小川政亮さん(日本社会事業大学名誉教授)
―――小川さんは「生存権裁判を支援する全国連絡会」の会長をされていますが、まず生存権裁判とはどのような裁判なのかをお聞かせください。
(小川さん)
 政府は昨年、生活保護受給者の中で70歳以上の人たちに対する老齢加算を廃止し、母子家庭に対する母子加算も16才以上18才未満は昨年限りで廃止し、16才未満についても来年度限りで廃止することにしています。これに対して8都府県100人を超える高齢者、母子家庭が加算廃止処分の取り消しを求めて提訴しました。
 憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」として国民の生存権を定めています。そして、憲法25条2項には「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とあります。受給者が苦しい生活を強いられている中で、生活保護の受給額を下げたり、加算制度をなくすことは明らかに憲法違反です。
 政府は「一般(低所得)世帯との不均衡が生じている」などを理由にこれらの加算の廃止を強行し、あるいは廃止しようとしているのですが、一般世帯といわれる人々の生活水準が低すぎることが問題なのです。

―――昨年、北九州市で生活保護を断られた男性が孤独死し、今年も生活保護の支給を打ち切られた男性が餓死しました。生活保護の行政にも大きな問題があるようですね。
(小川さん)
 現行の保護基準でも申請すれば保護を受けることができる人はたくさんいるのです。そもそも住民の生活が切迫している場合、行政は職権で保護すべきなのですが、必ずしもそうなっていません。それどころか、自治体が生活保護に関わる財政負担増を恐れ、生活に困窮している人に生活保護の申請をさせないという事態も生まれているのです。北九州市の例はその典型ではないかと思われます。
 私は、いろいろな自治体の役所の窓口に生活保護の説明書や申請書が備え付けられているかどうかをチェックしてきました。だいたい国民健康保険や年金に関わる書類は役所に置かれているのですが、生活保護についての説明書や申請書はありません。窓口で請求してもなかなか渡さないところもあるようです。説明書の内容も、多くが生活保護は憲法25条にもとづく国民の権利であるとは説明されていません。
 これらは、いかに憲法が守られていないかを示しており、大きな問題です。

―――小川さんは社会保障について長年研究してこられましたが、憲法の生存権の考え方は日本社会にどの程度定着しているとお考えでしょうか。
(小川さん)
 もともと生活困窮者の保護は慈恵制度にすぎませんでした。日本では1929年に恤救規則を廃止して救護法ができ、困窮者の保護が国の義務となったのですが、国民の権利ではありませんでした。戦後、旧生活保護法が制定され、1950年の新生活保護法と社会保障制度審議会の「社会保障制度に関する勧告」によって、ようやく日本国憲法に明記された生存権の考え方に基づいて、生活保護も国民の権利として確立することになったのです。
 そして、有名な朝日訴訟において朝日茂さんが生活保護に関わる権利を主張し、政府を動かしたことによって、その後生存権の確立を求める主張や運動が広がってきました。
しかしながら、国民の中に生活保護を受けることを権利として主張するという意識は必ずしも広がっていません。当人の中に遠慮する気持ちがあったり、周囲の方々との関係で抵抗感があるのです。そもそも生活保護が国民の権利だという理解が行政の担当者のところで十分でない状況があります。

―――最近、政府は財政難を叫び、福祉の分野では被保護者の「自立」が一層強調されるようになっているように思われます。その結果要保護者を含む国民の中に福祉へのあきらめの気持ちが広がっているのではないでしょうか。
(小川さん)
 政府は財政難のことは言っても、その大きな要因となっている「軍事費」を見直すようなことはしません。また、財政難ということを強調することによって、国民が政府に対して物を言えないような雰囲気をつくっているのです。

―――このような状況は憲法「改正」への動きとも連動しているのではないかと思います。最後に憲法「改正」問題についての小川さんのお考えをお聞かせください。
(小川さん)
 私はこれまで社会保障について研究してきました。生活に困っている人々のまともな保護を受ける権利、児童、障害のある人々、高齢者等にいたるすべての人のまともな社会保障を要求する権利、人間の尊厳、平等の実質化としての社会保障の権利を真に確立していかなければならないと思います。
同時に、戦後日本人が、基本的に平和な社会を築き生きてくることができたのは憲法9条によるところが大きいと考えます。私は、憲法25条と9条は不可分だと考えています。憲法の9条、25条などの条項が守られる必要があると思っています。

―――今秋、小川さんの著作集が刊行されるのですね。「いまこそ人権としての社会保障の確立を」というキャッチフレーズは大変重要だと思います。多くの方々に読まれることを願っています。本日はありがとうございました。

◆小川政亮(おがわ まさあき)さんのプロフィール

日本社会事業大学名誉教授。
全国老人福祉問題研究会名誉会長。「生存権裁判を支援する全国連絡会」会長。
『日本の福祉 −論点と課題』(大月書店、2000年)、『高齢者の人権 −これまで・これから』(自治体研究社、2000年)など著書多数。
2007年10月、小川政亮著作集(全8巻)が大月書店から刊行される。

 


 
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