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歴史と憲法を身近に

2007年8月13日

塩田長英さん(明海大学教授)

 7月のある日曜日に、何気なくTVを見ていると、岩手県の松尾鉱山の廃墟が映し出されていた。「どうして?」という思いで画面を追っていると、日本の産業の近代化の中で足跡を残した産業遺跡という観点で、取材し報道しているものであった。明治時代の末期から硫黄鉱山として開発された松尾鉱山は、戦後経済の高度成長期の中で競争力を失い、企業は倒産し、大規模で恐ろしい鉱害を残した(1904-1969)。戦後の一時期は雲上の楽園とまでいわれた松尾の職場も今はまったくの廃墟である。30年以上前に、日本の休廃止鉱山が残した公害としては最大級の規模である松尾・北上川清流化対策の調査に参加して、私たちがさまざまな提言をしたことは、忘れられてしまったのだろうか。公害対策はいまだ完璧ではないのに、ふと背筋が寒くなるのだった。

 その次の日のことである。私が済む東京、杉並の中古のマンションが突然かなりひどく揺れた。6階に住む私は、直感でコレは大きいぞと妻に叫んだ。新潟県の柏崎の海岸がTVの画面で震えている。私はここでも30年以上前の仕事をとっさに思い出した。私が積極的に参加した住民運動の研究調査では、原子力発電の立地も対象のひとつであったからだ。柏崎刈羽の原発建設予定地にしばしば足を運んで、政府・企業・住民のかかわりの分析に真剣に取り組んでいた同僚のM氏の顔が浮かんだ。この日があることをもちろん想定していたわけではないが、原発立地の不透明性はその時から問題だったのだ。

 中越沖地震の被害は、日を追うごとに大きくなりしかも重大な問題を白日の下にさらすこととなった。原子力発電所は「いつのまにやら」1号機から7号機まで拡大し、その安全性が厳しく問われることになったのである。世界は驚きと不信の目をもって、日本の原発の安全性を問い始めている。スリーマイル島やチェルノブイリにも似た疑惑があるのではないか。IAEAから調査団を受け入れることになって、日本の不透明性は少しは変わるのだろうか。

 この2例は、現代のほんの数十年の歴史さえ、責任ある者が忘れたり・変えたり・無視していることの付けを私たちに教えてくれるものである。私たちが、もしも祖父の代からの記憶をこつこつ引き継いでいれば、およそ150年の歴史が、ものの考え方、生き様、生活に生きているはずである。明治、大正、昭和、平成がみごとに繋がるはずである。戦争の歴史も、我が家の歴史も、生活習慣や社会の変化の歴史も生きてくるはずである。いまの公害、環境、エネルギーなどの問題も歴史の視点があって理解が進むことが多いのだ。

 ところで、一気に話は変ります。いま大学で学生に「憲法」を語ったり、問うてみると、ほとんどの学生の反応はきわめて鈍い。「先生、突然どうしたのですか」といわんばかりにいぶかしい顔をする。これは私が働く大学だけの問題ならそれほど騒ぐ必要もないだろう。ところがそうではないらしい。歴史に関心が薄く、歴史を自分のものにしていない若者には憲法の存在はきわめて希薄である。おそらく私たちがそうだったので、次世代はさらに現世的になってしまったのかも知れない。戦後の混乱や経済成長が世俗的な生き方や人生観を助長したのではないか。

 私はかなりさまざまな仕事を経験し、多様な種類の本を書いてきた。65歳を過ぎてからは憲法のことが心配になって、折りある毎に憲法の話をしている。3年前からは経済学部生に憲法講義を始めて受講生がようやく500名になるところである。法理論よりも、まず馴染んでもらおうと「憲法を身近に」を出版した。構成は15の話でなる。簡単な解説、ポイント、補足、参考文献が中心である。判例は少ない。補足は私の経験からくるおしゃべりである。いまはアメリカ経済論と憲法を担当する羽目になったが、とても力が入っている。少しでも共感を持つ学生に会えるととてもうれしい。(2007.8.6)




◆塩田長英(しおだながひで)さんのプロフィール

明海大学教授。専門は政策課題研究。
主な著著として『比較現代世界の家族』(1992年、勁草書房)『現代アメリカ経済論(1960-2000)増補版』(1999年、多賀出版)『国際関係論(変容する文化と社会)』(2000年、多賀出版)がある。
2007年、多賀出版から『憲法を身近に』を出版。


 
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