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今週の一言

 

『非戦を選ぶ演劇人』

2007年6月25日

渡辺えり子さん(劇作家・演出家・女優)
◆10回目の「ピースリーデリング」

―― 渡辺さんが実行委員をしておられる「非戦を選ぶ演劇人の会」が、6月30日(土)に、10回目のピースリーデリングの公演をなさるのですね。
(渡辺さん)
 はい。「9条は守りたいのに口べたなあなたへ‥」というタイトルで、永井愛さんが書いた台本でやります。昨年の第9回目は、私が「日本の戦争」という題で台本を書いてリーディングしました。私の他に、麻丘めぐみさん、草笛光子さん 、沢田亜矢子さん、根岸 季衣さん、平幹二朗さんなど大勢出演します。今国会では憲法改正を主張する政党が3分の2以上を占め、改憲に反対するのは少数派で押しつぶされそうです。国民投票法など次から次へと法案が通って行きます。太平洋戦争の前と似たような空気になっていますね。9条を持つ今の憲法は理想の憲法です。なんとか9条は守りたいという気持ちで公演します。

◆「非戦を選ぶ演劇人の会」とは

――「非戦を選ぶ演劇人の会」を結成なさったきっかけは何でしょうか。
(渡辺さん)
 戦後の日本はもう戦争はしないと思ってやってきたじゃないですか。しかし、小泉首相の時にイラク戦争が始まり、日本も参戦することになりました。これは絶対に阻止しなければならないという気持ちで、この会を結成してピースリーディングを始めました。日本人は太平洋戦争で空襲を受けたり被爆したり、実際に大変な体験をしました。それがどんなに苦しいことで、深い傷を負うことかということは、私たちが一番知っているわけです。ですから、日本人は、実際に爆弾を落とされる側の心理を代弁して世界に訴える役割を担っていると思います。また同じ苦しみをイラクの人たちに繰り返してはなりません。

――戦争はもうしない、ということですね。
(渡辺さん)
 みんなが戦争をしているのだから自分たちもやらざるを得ない、というのではだめです。誰かが、戦争をしない、殺さない、ということを進めないと、戦争はなくなりません。生命のために人の命が大事だからと、ここ数年禁煙運動が盛んになり、煙草を吸う人がずいぶん減りました。「禁煙」「禁煙」と貼られた紙を「非戦」に変えたいと思うくらいです。煙草だって止められるのですから、戦争だって止められるはずです。今の戦争は、アフリカの戦争にしても、全部大国が武器を渡し、大国が介入して大国の論理で広げています。現在全世界でクラスター爆弾の禁止が叫ばれていますが、日本はアメリカの顔色を伺って禁止するとは言いませんし、自衛隊も大量のクラスター爆弾を持っていると聞きます。殺されなくてもいい生命までが殺されています。今の憲法は「押し付け」だから変えようという意見がありますが、いいものは押し付けだっていいじゃないですか。そういうなら洋服だって押し付けでしょう。しかし、私たちは、これはいいもんだから、ということで着ているわけです。女性が走り回って仕事する時にもう和服では困ります。

◆戦争や平和の問題を考えるようになったきっかけ

――渡辺さんが、戦争や平和の問題を考えるようになられたきっかけは何でしょうか。
(渡辺さん)
 1991年の湾岸戦争です。小学校の頃から母からは憲法があるのでもう絶対に戦争はしないと繰り返し聞かされていましたし、私も、全世界が、それぞれの国を尊重して外交で解決し、武力による殺し合いなんてなくなる近未来が来ると思っていました。ところが、何の罪もない子供たちが殺され続けています。カッターでちょこっと指を切ったってひどく痛いのに、子供たちが想像を絶する苦痛の中にいるのです。信じられなかったです。
 そして、三宅島に行ったとき、民宿のおばさんが、米軍基地の建設を阻止しようとして住民が自衛隊と戦っている写真集を見せてくれました。こんなことは報道されていなかったし知らなかったんですよ。離島だからいいってもんじゃないでしょう。日本はアメリカの子分になっているということをあまり知らないで生活していますよね。泣き寝入りしている方がいっぱいいます。自分のしたいことをしているだけでは大人として申し訳ない、後で後悔したくないとという気がしたのです。

◆いま、メディアで平和を自由に語れない

――メディアで9条に関する発言などをしておられると、いろいろ大変なこともあるのではないでしょうか。
(渡辺さん)
 この間スタジオパークに出演したところ、何も言っていないのに出ただけで、「どうして左翼思想の人間をテレビに出すのか」という投書が来たそうです。私は左翼思想でも右翼思想でもありませし、ある部分は両方に似ているところもありますが、「戦争反対」というだけで左翼思想と決め付ける人がいるのはおかしいし、別に左翼思想の人や右翼思想の人がテレビで発言したって自由だと思います。言論の自由がなりたたない社会は狂っています。
 「グッドナイト&グッドラック」というアメリカの映画が昨年日本でも公開されました。レッドパージの嵐が吹き荒れた1953年のアメリカが舞台です。大手のテレビ局のキャスターのエド・マローが、「ある軍人が父親が共産党員だという理由だけで解雇されたのは不法ではないか」という主張の元に番組を作り、窮地に陥るという映画です。自由な国と言われるアメリカですが、この問題は昔のことと笑ってはいられません。日本でも、番組を作る人はスポンサーの目を大いに気にせざるをえません。企業が戦争に向かって行った時、戦争に反対するタレントを出演させないとなる可能性もあります。戦前・戦中のマスコミのようになってしまうのは恐ろしい。マスコミ全体の良識が問われていると思います。
 先日、陸上自衛隊の情報保全隊が市民運動を調査したことが告発されました。私なんかは何党員でもないですが、イラク戦争反対と言っただけで調査され仕事ができなくされてしまうのではたまりません。そうなれば、みんな自分の身を守って発言できなくなってしまいます。なんとかしないといけません。

――番組に出演する際に何か言われることもあるのでしょうか。
(渡辺さん)
 「それは言わないでください」ということは言われますよ。

◆“愛”がないと生きられない

――渡辺さんは、劇作家・演出家・女優として多彩なお仕事をしてらっしゃいます。お仕事を通して皆さんにお伝えしたいと思われていることはどんなことでしょうか。
(渡辺さん)
 人間が生まれて来ざるを得なかった理由は何なのか、何のために生きているのか、今生きているということはどういうことなのか、ということです。それは“愛”ですね。愛がないと生きられませんよね。無人島で一人で生きるなんて嫌です。夕日がきれいなら「きれいでしょ」とか、誰かにこの服を「いいでしょ」と見せたいとか。人間同士の愛情関係が成り立たないと会話も面白くありません。これは恋人同士の「愛」というものとは違います。ただ「これやっといて」「はい」と、機械みたいだったら意味がないですね。「人間である」というのにはポイントがあると思います。人を愛することができる、笑うことができる、というのは人間だけでしょう。笑わせたいし、笑いたい。笑顔を見たい、というのは愛するからでしょう。その人に興味を持つ、というのは“愛”があるからです。その人に拘って“愛”がないと人は生きられないと思います。
 それが、私の芝居の重要なポイントです。

◆戦争とは、命に値段をつけること

――そのことが9条の問題にもつながるのですね。
(渡辺さん)
 そうです。人の笑顔を見たいですよ。戦争というのは、罪のない人が死にます。弱い人から死んでいきます。戦争をやろう、やろうと言っている人は死にません。戦争をすることは国家権力が決めますから、戦争に反対していた人でも敵を殺しに行かざるを得ません。戦争で一番嫌なのは、命に値段をつけなければならないことです。戦争が始まったら、誰から戦争に行くかという順番を誰かが決めることになるんです。イラク戦争の時は、北海道の自衛隊が最初に派遣されて行きました。二番目は山形県です。徴兵制になったら、何県の自衛隊から先に行くのかを国が、しかも防衛省の若い官僚なんかが決めるんですよ。顔も見たことのない山形県のどこの村から先に行けとか。では山形県のその村の人の命は安いのかと言いたいです。戦争になると、そういうことが始まるんです。戦争体験者は、それを実感として知っているはずです。若い人に教えて来なかった罪もあります。いざ自分が戦争に行け、と言われた時に初めて気がつくんです。
 自分が死ぬ時は相手も殺します。日本は憲法に守られて、60年間戦争で1人も殺しませんでした。これは誇りに思っていいことです。
 それなのに今、アメリカの手先になってイラクに行っています。行ったら目の前の人を殺さなければならないんですよ。たとえ親戚の人でも。
 北朝鮮との問題では、北朝鮮から攻撃されたらどうするかとか、そればかり言われています。しかし、北朝鮮が攻めて来るよりも、アメリカが先に手を出して空爆する可能性が高いと思うんです。北朝鮮には日本に住んでいる人の親戚の人もたくさんいます。北朝鮮に拉致された人で、まだ日本に帰って来ていない人もいます。拉致された人は元気でいてもらった方がいいのに、そういう人も爆撃してしまうというのは理解できません。日本は、アメリカに対して、そんなことは止めなさいよ、と言わなければなりません。

――渡辺さんの、人間や平和を愛する深い想い、そして戦争への怒りがとてもよくわかりました。今日は、脚本作りやご出演などでご多忙な最中に、大変ありがとうございました。



ピースリーディングvol.10『9条は守りたいのに口ベタなあなたへ…』のご案内
 ―憲法の問題を、家族劇・ご町内の話として描く永井愛の書き下ろし!―

【日時】2007年6月30日(土)開場 18:30 開演 19:00
【会場】全労済ホール/スペース・ゼロ (地図)  
   渋谷区代々木2-12-10全労済会館 JR新宿駅南口より徒歩5分
   TEL 03-3375-8741(代)
【主催】非戦を選ぶ演劇人の会
【出演予定者】明樹由佳、麻丘めぐみ、ANZA、 石井正則、板倉光隆、大沢健、大塚道子、岡田浩暉、草笛光子 、沢田亜矢子、白井圭太、関根信一、ソニン、西山水木、根岸 季衣、平幹二朗、平沼寧、深浦加奈子、福本ヒデ(ザ・ニュー スペーパー)、丸尾聡、ラサール石井、渡辺えり子 他
【問い合わせ】非戦を選ぶ演劇人の会 (二兎社内03-5638-4587 平日10:00〜17:00のみ)
会のホームページ



◆渡辺えり子さんのプロフィール

山形県生まれ。
舞台芸術学院、青俳演出部を経て、1978年から1998年の解散まで20年間「劇団3○○(サンジュウマル)」を主宰。劇作家、演出家、女優、歌手、作家として舞台、映像、マスコミのジャンルを問わず活躍中。2001年劇団の枠にとらわれない自由な表現を求めて、「宇宙堂」を旗揚げ。現代社会の問題に鋭くメスを入れ、独特の世界観で多くのファンを魅了している。著書に『早すぎる自叙伝 えり子の冒険』(小学館)『思い入れ歌謡劇場』(中央公論新社)など。「非戦を選ぶ演劇人の会」実行委員、『マガジン9条』発起人の一人。


 
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