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「改憲」こそ「国益」に反し世界の「現実」に背を向けるもの

2007年5月7日

浦部法穂さん
(名古屋大学教授・法学館憲法研究所主席客員研究員)
 現在の「改憲」論の根っこにあるのは、いわばカッコ付きの「グローバリゼーション」、つまりアメリカが自国の価値観で世界を取り仕切ろうとする動きです。もっと正確にいえば、アメリカの政権がみずからの基盤となっている資本の利益を最大化するために力ずくで世界を支配しようとする動きだ、というべきでしょう。そのために、アメリカは、日本にアジア・太平洋地域での軍事的負担を負わせようとしているわけです。そういうアメリカの政策自体はずっと一貫していますが、冷戦崩壊を転機にそれを全面的に実行することが可能となり、さらに9・11やイラク戦争で、歯止めなしの展開がなされています。
 そういうなかで、日本の政府はといえば、なにからなにまでアメリカに追随する、アメリカの要求はなんでもかんでもそのまま受け入れる、ということしかやってきませんでした。アフガニスタン攻撃への後方支援、イラク戦争の全面支持と自衛隊派遣、のみならず、郵政民営化も今年5月の「三角合併」解禁も、ことごとくがアメリカの要求そのままに行われたのです。なぜこうもアメリカにいわれるままになるのでしょうか?それは、日本の政府・財界が、とにかくアメリカの尻尾にくっついていって「おこぼれ」にあずかろうという姿勢でいるからです。そこには、長期的視点にたった合理的思考は全然みられません。日本の企業や産業をこの先どうするかということさえ考えず、自分たちの当面の私的な利益を図ることしか考えていない、としか思えません。財界の論理からいっても、合理的に考えるなら、いま急速な経済発展をみせているアジア諸国との関係抜きに日本経済が成り立つはずはありませんから、そのアジア諸国との友好的な関係を損なうような「改憲」の動きには、本来反対してしかるべきでしょう。あるいは、日本の企業をつぎつぎとアメリカ資本に売り渡すような政策を、財界が支える政権に許していることも、とても合理的には説明がつきません。これは結局、「財界」なるものを構成する人たちが、この国の将来なんかはどうでもよく、もっぱら自分たちの当面の地位や利益を守ることしか考えていないことの証左だと思います。
 そんな「財界」に支えられている政治家たちが長期的視点にたった合理的思考をもたないのも、ある意味当然のことかもしれません。「国益」や「愛国心」を声高に叫ぶ一方で、日本をアメリカに売り渡すような政策ばかりを展開する。そして極めつけは、自分たちの地位の根拠となっている憲法を平気で否定して「新憲法制定」を唱える。そういう矛盾を矛盾として意識しない感覚は、合理的思考以前に、思考回路そのものがあちこちで切断されているというべきでしょう。内閣総理大臣が内閣総理大臣でいられるのも、国会議員が国会議員でいられるのも、すべていまの憲法のもとでのことであり、その憲法を否定することは自分たち自身の地位を否定することだということは、ちょっと考えれば(というより、別にたいして考えなくても)すぐにわかりそうなことだと思うのですが。
 いまの「改憲」論は、このような短絡的で思慮の浅いものなのですが、それがさらに、なにやら威勢のいい言葉でもってはやし立てられ、その「威勢のよさ」を「カッコよさ」と勘違いして「そうだ、そうだ」と乗せられてしまう人も少なくないようです。でも、そういう人たちは、自分自身が戦場に行って殺される、あるいは人を殺すということを、はたして現実的に考えているのでしょうか。戦争に行って殺したり殺されたりするのは他人、自分はその他人に「守られるべき」立場。威勢のいいことを言っている人たちや「そうだ、そうだ」とはやし立てる人たちは、そういう前提でものを言っているとしか思えません。
 いま、安全保障について国際社会で共通認識となっているのは、「国家の安全保障から人間の安全保障へ」ということです。これまで、安全保障といえば「国を守る」ということだけが考えられ、すぐに軍事力の問題としてとらえられてきました。しかし、こういう旧来の安全保障の考え方では、たとえば、貧困・飢餓、差別、地球環境の破壊、食糧や水や資源・エネルギーの限界等々、こんにち人々が日常的に直面しているさまざまな脅威から人々を守ることはできません。これらの問題の解決に軍事力はなんの役にも立たないことは明らかです。だから、安全保障ということを、国を守るという観点ではなく、人々の日常生活の安全を保障するという観点で考えなければならない、ということです。そして、実際に、そのための取り組みが国際社会では進められています。軍事力による安全保障という考え方は、いまや時代遅れなのです。これがいまの国際社会の常識であり「現実」なのです。
憲法は現実離れしているなどとよく非難されますが、じつはまったくその逆です。憲法の平和主義の基本的な考え方は、前文の「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」という言葉に表されています。つまり、単に戦争をしないとか軍隊を持たないというのではなく、全世界の人々があらゆる恐怖や欠乏のない状態で生存できる、そういう世界を目指すということです。これは、人間の安全保障という考えと多くの点で一致するものです。ですから、憲法の平和主義はいまの国際社会の現実にまさに合致したもので、この憲法の下で日本が国際的に貢献すべきことはいくらでもあるのです。
軍事力の強化をめざす「改憲」の動きこそ、「国益」にも反するし、なによりも、時代遅れであり世界の現実に背を向けるものだということを、認識しなければならないと思います。

◆浦部法穂(うらべのりほ)さんのプロフィール

1946年、愛知県に生まれる。
1968年、東京大学法学部卒業。
神戸大学大学院法学研究科教授・神戸大学副学長等を経て、現在、名古屋大学大学院法学研究科教授。
法学館憲法研究所主席客員研究員
特定非営利活動法人「人権・平和国際情報センター」理事長
主著
『違憲審査の基準』(勁草書房、1985年)
『注釈 日本国憲法(上)(下)』(共著)(青林書院、1984年、1988年)
『憲法キーワード』(編著)(有斐閣、1991年)
『「憲法改正」批判』(共著)(旬報社、1994年)
『入門憲法ゼミナール』(実務教育出版、1994年)
『ドキュメント「日本国憲法」』(共編著)(日本評論社、1998年)
『全訂 憲法学教室』(日本評論社、2000年)
『いま、憲法学を問う』(共編著)(日本評論社、2001年)
『法科大学院ケースブック 憲法』(共編著)(日本評論社、2005年)
『憲法の本』(共栄書房、2005年)など多数


 
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