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今週の一言

 

9条を実現していく体系的な政策提言を

2007年4月2日

前田朗さん(東京造形大学教授)
―――前田さんは軍隊のない国々を訪問し、その様子を月刊誌「法と民主主義」で連載しておられます。大変興味深い内容となっていますが、その趣旨からお話いただけませんか。
(前田さん)
 日本は戦力不保持の憲法9条を持つ国ですが、私はいま、その世界史的意義・今日的意義が語られる必要があると思っているんです。日本国憲法が施行されて60年になろうとしていますが、憲法を守ろうという人たちが語っていることの多くは60年前に公布された憲法9条の意義であって、その今日的意義ではないんです。近代国家にとっては60年という年月は長いんです。憲法9条が公布されてから60年を経た、2007年時点におけるその意義が語られるべきです。
 いま世界には200近い国、あるいは政治単位があります。その中で、日本で60年前に公布された憲法9条は注目されるものですが、コスタリカも憲法で常備軍を持たないことにしましたし、いま世界には軍隊のない国が27あるんです。戦力不保持というのは、国として非常識だと思われがちですが、決してそうではないんです。私が軍隊のない国を紹介しているのは、そのことをお伝えしていきたいんです。
 それは、憲法9条を日本が活かし、日本と世界の平和のために貢献する道を探ることでもあります。1947年に日本国憲法が制定されたわけですが、その後国際社会に憲法9条の考え方がどれだけ広まったのか、あるいは広げるためにどのような努力がされたのか、というようなことが検証されるべきです。現在軍隊のない国は27ですが、もっと増えていてもおかしくなかったんです。
 加えて言うならば、各国の軍隊の規模や軍縮への努力も検証される必要があります。実は世界各国の軍事費の60%はアメリカをはじめとする軍事大国上位10カ国で占められているんです。27カ国は軍隊を持っていませんから軍事費はゼロです。注目していただきたいのは、残りの100カ国以上はそれぞれ世界の軍事費の0.1%以下の軍事予算しか持っていないんです。それは日本の警視庁の予算にも満たないんです。世界の圧倒的多数の国は軍隊を持っていても、それは警視庁の予算にも満たない程度だったりするのです。
 戦力不保持と軍縮が世界各国でどのようにすすめられているのか、日本はそのために何をしてきたのか、ということも検証されなければなりません。

―――大変重要な問題提起をしていただきました。前田さんが実際に軍隊のない国を巡ってみて、そこから私たちが学ぶべきことについてお話していただけますか。
(前田さん)
 軍隊のない国の多くは小国で、経済力に劣っているので軍隊を持たない、あるいは持てない、という状況です。それは日本の状況とは違うのですが、それらの国々から日本が学ぶべきことは多々あります。
 軍隊のない国が他国と紛争が起きないようにするためには、結局平和外交をし、それぞれの地域の安全保障政策を具体化していくしかないんです。例えば、ドミニカやグレナダ、セントルシアなどは東カリブ安全機構をつくりました。南太平洋のタヒチやマーシャル諸島共和国は南太平洋フォーラムというネットワークをつくり、そして南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)を締結しました。
 周囲をすべてイタリアに囲まれた小国であるサンマリノは、イタリアのオーストリアとの戦争の際にイタリアに協力したことによって国家の独立と安全保障を勝ち取っています。
 ルクセンブルクはNATO軍に国民を派遣している国であり、軍隊のない国とは言えませんが、ここの平和外交も注目されます。今日EUの統合がすすみ、ヨーロッパ全体の平和と安全保障のとりくみがすすんできましたが、EUがつくられるおおもとになったECC(ヨーロッパ経済共同体)、EC〈ヨーロッパ共同体〉の創設はルクセンブルクがイニシアティブを発揮しました。ルクセンブルクという小国は、まさに外交によって自国の存続と平和・安全保障をはかってきたんです。
 このような各国の外交努力に対して、日本の外交には戦略や工夫がほとんどありません。東アジア地域は特別に複雑な事情があり、この地域での平和と安全保障の構築は難しいところはあるでしょう。しかし、戦後の日本の外交はアメリカの戦略に乗っかっているだけだと言わざるをえません。日本はODA(政府開発援助)の最大の拠出国であり、それをどう日本と世界の平和と安全保障に結びつけていくのかも考えなければなりませんが、あまりそういう発想もありません。他国からの攻撃を受けることになったり、あるいは国家間の武力紛争が生じることのないように、本当に求められる平和外交の構築がいまこそ必要なんです。

―――前田さんのご意見は日本政府に対するものであるとともに、憲法を守る運動などへの問題提起となっていますよね。
(前田さん)
 いま憲法を守ろうと言っている方々の中に、「憲法改悪反対」の一点で運動を広げようという意見があります。30年くらい前までは「憲法に書かれていることを実現せよ」という声が多くありましたから、だいぶ変わってきていると思います。もちろん、いま実際に憲法改悪の動きが猛烈にすすんでいるのですから、改悪反対に重点が移るのは当然です。
 しかし、私はこの時点でも、憲法の内容を実現していく、そのための政策提言をすすめる、憲法9条の考え方を世界に広げる、などの声をあげ、運動を展開することが重要だと思っています。また、そのような運動にしていかないと、憲法の改悪を阻止することも難しいと思うんです。
 その点、自民党は憲法施行後さまざまな政策提言をすすめ、彼らなりに実現してきました。それに対して、憲法を守ろうという側の政策提言は弱い。私はこれまで、アメリカのアフガニスタンやイラクに対する武力攻撃を裁く民衆法廷のとりくみをすすめたり、各地域で無防備地域条例を制定するとりくみをすすめてきました。そして今、2008年に「9条世界会議(PDF)」を開催し、9条の世界史的意義を世界の人々と検証・確認しようというとりくみが始まっています。こうしたとりくみをすすめながら、憲法9条を実現していく体系的な政策提言を整理・具体化し推進していかなければならないと思うんです。

―――スケールが大きく、また核心をついた問題提起をしていただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

◆前田朗(まえだあきら)さんのプロフィール

東京造形大学教授。専攻は刑事人権論。
無防備地域宣言運動全国ネットワーク呼びかけ人、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷実行委員会共同代表、日本民主法律家協会理事、在日朝鮮人人権セミナー事務局長、歴史の事実を視つめる会事務局長などを務める。
『鏡の中の刑法』(水曜社、1992年)、『劇画代用監獄』(監修、三一書房、1993年)、『平和のための裁判』(水曜社、1994年、増補版2000年)、『戦争犯罪と人権』(明石書店、1998年)、『戦時・性暴力をどう裁くか』(編訳、凱風社、2000年)、『戦争犯罪論』(青木書店、2000年)、『人権ウオッチング』(凱風社、1998年)、『女性に対する暴力』『刑事人権論』(水曜社、2002年)、『ジェノサイド論』(青木書店、2002)、『民衆法廷の思想』(現代人文社、2003年)、『侵略と抵抗――平和のための戦争犯罪論』(青木書店、2005年)、『市民の平和力を鍛える』(K.I.メディア、2006年)など著書多数。
近年は国連人権委員会や人種差別撤廃委員会に参加し、ウォッチを続けている。


 
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