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憲法教育の課題と展望―大学・ロースクールの現場から

2006年12月18日

斎藤一久さん(東京学芸大学講師)
■大学の授業から
 ここ数年、私が勤務する東京学芸大学の日本国憲法の授業で「小中高を通じて憲法について勉強したことで、もっとも印象に残ることについて自由に書きなさい」というレポートを課しています。多くの学生のレポートには、憲法というと、条文を丸暗記させられた、9条改正は絶対いけないと押し付ける先生がいたという答えが多いのが実情です。それに伴ってか、印象に残っている条文は9条と、穴埋め問題にしやすい25条が圧倒的多数を占めています。彼らにとっては、ある意味、「押し付け憲法」だったのかもしれません。
また「なぜ大学で日本国憲法を勉強するのか、またしなければならないのか」という質問について、多くの学生は日本人である以上、日本国憲法は知っておくべき「常識」であり、同時に日本国憲法は日本人が守るべきルールであると書いてきます。憲法が国家に対する規範であるという立憲主義の考え方は、学校教育ではあまり定着していないのが実態で、むしろ国民として従うべき規範であるとする誤解が目立ちます。
 このような誤解は、教える先生側が憲法の意義をしっかりと理解できていない場合もあるでしょうが、法と言えば憲法も含めて国民が守るべきものという固定観念が学校教育、そして学校生活、また日常生活を通じて子どもたちに自然にしみこんでしまっているのではないでしょうか。
現在、裁判員制度の導入に伴い、法教育が声高に叫ばれており、次期の学習指導要領改訂の際にも法教育が盛り込まれると言われています。憲法教育についても立憲主義的観点から、もう一度見直すことが必要でしょう。もちろん暗記中心の「押し付け」憲法教育の見直しが必要であることも言うまでもありません。

■アメリカのロースクールから

ウィルソン公立高校での授業風景(ゲストスピーカーとして話をしているのはティンカー判決の原告ティンカーさん)
日本でも法科大学院が設置され、法曹教育について様々な取り組みがなされていますが、本場アメリカのロースクールで行われている憲法教育に関する先進的な取り組みについて紹介したいと思います。アメリカの首都ワシントンDCにあるアメリカン大学ロースクールでは、マーシャル・ブレナン憲法リテラシープロジェクトという授業があります。この授業はロースクールの学生が憲法の授業を受けるのではなく、彼らが憲法を教えに行くという授業なのです。学生が2人1組となって、近隣の高校に週数回出向いて憲法や少年法について教えています。授業では、たとえば戦争反対を示すために生徒が学校で黒色の腕章を身に付けることができるか(ティンカー判決)、公立学校を男子校女子校のように白人学校と黒人学校に分けるのは平等に反しないか(ブラウン判決)など、アメリカ合衆国最高裁判所で問題になった有名な事件だけでなく、いじめ、セクハラ、妊娠・中絶、持ち物検査など生徒に身近な人権問題も扱っています。
就職活動中のロースクールの2年生にとって、このようなプログラムに参加することは相当な負担になるようですが、今年度は40名の学生が参加していました。プログラムのコーディネーターであるマリアン・アランジャニー教授によれば、学生は授業準備のために判例で問題となった事件の詳細を調べ、また高校生に分かりやすく説明できるよう準備する必要があり、それらを通じて判例の読解・分析能力、そして市民とのコミュニケーション能力が鍛えられるとのことです。
参加学生全員が集まる週1回の演習では、高校での教育実践に関する様々な意見交換がなされていました。毎回の授業の進め方、高校生による模擬裁判の計画だけでなく、生徒から相談を受けたという生徒の進路についても議題になっていました。たとえば貧困層が多く住む地域にある学校では軍隊への勧誘が盛んだそうで、生徒が軍隊へ入りたいといった場合、どのような対応をすべきかを議論していました。ジョン・ケリーの失言とされた「勉強に落ちこぼれると米兵としてイラクに行くことになる」というのは実はかなりのリアリティーがある話のようです。
今後、日本にもこのような憲法教育実践モデルが導入可能かどうかについて、現在、調査を進めています(科学研究費補助金・萌芽研究「憲法リテラシー教育構築のための基礎的研究」東京学芸大学・角替晃代表)。

■子ども中心の教育法理論に向けて

子ども中心の教育法理論に向けて
最後に11月にエイデル研究所より出版されました戸波江二・西原博史編著『子ども中心の教育法理論に向けて』についてご紹介したいと思います。
教科書裁判を代表とする様々な教育裁判を通じて、教育の内容について決定する権限は国民にあるのか、それとも国家にあるのかという議論を教育法学では繰り広げて来ました。しかし、親・教師VS国家、実態として日教組VS文科省という議論の枠組みの中で、教育における主人公であるべき「子ども」という視点が忘れ去られることはなかったでしょうか。
このような問題意識の下、戸波江二・西原博史両先生を中心として、比較的若手の憲法研究者が集まり、過去に蓄積された古典的な議論を再検討し、若い世代の憲法学者から教育法学へ新たな問いかけをしようというのが本書です。
本書のテーマとしては、教育における個人・共同体・国家の関係、民主的な価値を教育することの意義と限界、そして教育主体の理論的位置づけ方に関する新たな方向性の模索が設定されており、執筆者それぞれの視点から問題提起をするものです。
私も「憲法教育の再検討」という形で論文を寄せていますので、是非、ご一読頂ければ幸いです。

◆斎藤一久(さいとう かずひさ)さんのプロフィール

1972年新潟県生まれ。現在、東京学芸大学教育学部専任講師(憲法学・教育法学)、中央大学・立教大学法学部非常勤講師。主な著書として『よくわかる憲法』(共著、ミネルヴァ書房、2006年)、『子ども中心の教育法理論に向けて』(共著、エイデル研究所、2006年)、『学校教育の基本法令』(共著、学事出版、2004年)。
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