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『医療・福祉の現場から憲法を考える』経験

2006年11月27日

升田和比古さん(勤医協月寒医院)
 私は札幌市の小さな診療所で医師として働いております。民医連に加盟する診療所ですから、「綱領」には「戦争政策に反対する」ことが明記されておりますが、職員が自動的に憲法を守るための運動に参加するものとは考えておりません。2004年6月に「九条の会」の呼びかけにどう診療所の職員として応えていくかを考えました。
 月寒(つきさむ)医院は外来診療と訪問診療(往診)の医科診療所機能と、デイサービス(通所介護)・訪問看護ステーション・ヘルパーステーション、居宅介護事業所の介護サービス機能をもっており、職員はパートを含め約30人です。職種は医師・薬剤師・看護師・放射線技師・検査技師・介護福祉士・ヘルパー・調理師・事務・運転手など多種多様です。年齢構成も20歳代から60歳台までです。
 私がこの診療所で一番誇りに思っているのは、週一回全職種で行う「事例検討=カンファランス」です。一人の患者・利用者をめぐって医療・介護の分野から情報を出し合い、いかに良い医療・介護のサービスを行っていくか検討していくものです。医療・介護の現場には、安心して医療を受け、安心して生活をしていくことが困難な方がたくさんおられます。みんなの知恵を寄せ合えば、どんな困難な事例でも、時間がかかっても一歩一歩前進していくことができることに毎回のカンファランスで感動を覚えておりました。
 患者・利用者がその人らしく生きていくことの援助は、憲法25条の精神に基づくものであることは言うまでもありません。しかし、職員は憲法を意識しているかといえばそうではないことに気づきました。そこで私は、事例検討の最後に事例と憲法にこだわって『10分間憲法討論』をしようと職員に呼びかけ、2004年7月から約1年間憲法討論を続けることができました。
 困難な事例を出し合い、「憲法手帳」をもちよって、それが憲法の何条に抵触するのか?何条によって守られているのかを考えてみました。そこででてきた疑問には、誰かが次回の討論の際に報告してくれます。生活保護法のこと、スウェーデンの社会保障の実態、朝日訴訟についてなど、芋づる式にテーマが広がりました。人権の問題では、「高齢者の自己決定権」について患者・利用者の顔を浮かばせながら真剣に討論できました。「高齢者から戦争体験を聞く」企画では、知らないことばかりでしたが平和の尊さを学びました。
 この討論内容を、翌週の朝の打ち合わせ会議(朝会)で、私が『憲法を医療・福祉の現場から考える』と題して5分間で報告することを続けました。「3カ月も続けば立派なもの、半年続けば『本』をだす」と宣言しておりましたので、2005年12月「本の泉社」から同名の本(定価1,000円)を出版していただきました。
 「憲法討論」が1年も続いた理由は、医療・介護の現場の現実から出発したこと、学習の企画が職員の声で発展したこと、そして何よりも憲法のもつ大きな力に確信をもつことができたことにあると思います。講師が一方的に語る学習会とは違って、自主的に、しかも気楽に参加し、患者や利用者さんを通じて自分の意見を述べ合い、共感と感動を共有できたことが、この学習会の“いのち”だったのでしょう。本を出版できたことで、職員の確信はもっと強いものとなり、患者・家族、地域の「九条の会」の方々からも共感の声がたくさん寄せられています。
 私の職場の職員は全員が戦後生まれです。もちろん戦争は体験しておりません。「憲法はアメリカに押し付けられたもの」「現実に合ったものでなく、古臭い」などと言われると、「そうかな」と思ってしまいます。しかし、事例を通して検討していくと、憲法の理念から外れたことがどんどん医療・福祉の行政で行なわれ、苦しんでいるのは精一杯生きている人々であることが分かってきます。同時に、戦後60年間、憲法を生活に生かすために、国民のたたかいがあったからこそ現在の憲法が生きていることに気づくことができました。
 医療・福祉の現場は、「いのち」を対象にした仕事であり、憲法を学び活かす宝庫であると私は考えています。生存権・基本的人権を守る立場に立つことが、良質なサービスを提供する職員の前提だとも思います。しかも、医療や介護は一方的にサービスを提供するものではなく、患者・利用者・家族との「共同のいとなみ」として成り立つものです。私を含め職員は、この一年間の討論を通じて大きなものを学ばせていただきました。日本国憲法を守る自信と確信をもつことができました。
 医療や福祉の現場に限らず、すべての職場から憲法を考え・活かし・守るうねりが起きることを願っています。

◆升田和比古(ますだ かずひこ)さんのプロフィール

北海道勤労者医療協会理事長、勤医協月寒医院院長。
1948年生まれ、北海道大学医学部1974年卒業。内科医。
著書;『胃を切った仲間たち―胃切後遺症とその克服法―』(桐書房、2003年、1,500円)
『医療・福祉の現場から憲法を考える』(本の泉社、2005年、1,000円)

 


 
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