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「ちゃんと知りたい!日本の戦争」

2006年10月30日

久保田貢さん(愛知県立大学教員)

 東京都大田区に「平和島」という地名があります。京浜急行線の駅があり、競艇場などもあるのでご存知の人も多いかもしれません。わたしは大学卒業までこの近くにずっと住んでいて、小学生のとき、このあたりは埋立地だと学んだ記憶があります。
 しかし、ここがなぜ「平和島」と名付けられたのか、その由来についてはずっと知りませんでした。実は、「平和島」は日本のアジア・太平洋戦争と密接にかかわっていて、東条英機も一時、この地の収容所にいたのです。くわしくは、わたしたち歴史教育者協議会で編集した『ちゃんと知りたい!日本の戦争ハンドブック』(青木書店、2006年)を御覧ください。「平和島を知っていますか」というコラムに、編集委員のお一人でもある菊地宏義さんが書かれています。
 このように、わたしたちの生活は、戦争とさまざまなところでつながりがあります。地名だけではありません。たとえば、調味料や食材。そのいくつかは、戦時中、アジアで巨利を得て成長した企業が生産・販売しています。強制労働を強いられた人びとが謝罪と補償を求める裁判を各地で起こしていますが、訴えの相手のほとんどは、日本政府と、そしてわたしたちもよく知る大企業です。わたしたちは過去の戦争とけっして無関係ではない、これが『ちゃんと知りたい!日本の戦争ハンドブック』で伝えたかったことの一つです。


ちゃんと知りたい!日本の戦争ハンドブック

 編集しながら感じたことがあります。それは、この20年ほどの間に、日本の戦争について歴史学の学問的成果は確実に積み重ねあげられている、ということです。背景には、長年、家永教科書訴訟を支援するなかで、あるいは証言をはじめるアジア・太平洋の侵略被害者の声に寄り添うなかで、また再び戦争の惨禍を繰り返すまいと努力し続けてきた人びとの願いに応えるため、多くの歴史学者が市民とともに戦争の実像を明らかにしてきたという努力があります。「平和島」という、地域の戦争とのかかわりを掘りおこした事例もその一つです。わたしたちのなかに日本国憲法の「平和」理念が根付きつつあるからこそ、こうした地道な研究活動が続いているのです。
 しかし一方で、学問の成果が世間に充分に伝わっていない、という矛盾も実感しました。書店に行くと、歴史関係の書棚は日本の侵略戦争を美化するものばかり。インターネットの世界では、「侵略の事実は無かった」ことを主張するサイトがたくさんあり、歴史学の研究成果とはまったく相容れないものばかりです。メディアもジャーナリズムの役割を果たしていないことが多く、「平和」や「人権」を揶揄する風潮まで広まっています。これらは、市民、とりわけ子ども・若者の戦争認識に深刻な影響を与えています。

 それゆえ、いま教育現場では、戦争の授業をおこなうのに大きな困難も生じています。文科省や教育委員会(あるいは管理職)がこの流れに乗じて教育内容の管理・統制を強めているからです。たとえば、先日、東京地裁で「日の丸・君が代」強制反対予防訴訟の判決がありました。このいわゆる「難波判決」は、「日の丸・君が代」の戦争とのかかわりをはじめ、思想・良心の自由など日本国憲法の理念を学ぶのに格好の教材になります。しかし、教育現場からは、教材化すること自体が処分の対象となりかねないので怖くてできない、といった声すら聞こえてきます。戦争や平和についての教育は、これほどまでに逆風が強まっているのです。わたし自身、中学高校で長く社会科を教えていたので、教師たちがいかに厳しい状況にあるか、よくわかります。
 この「今週の一言」コーナーで、小堀俊夫さんが、戦争学習を憲法の平和理念の学習につなげる中学校の社会科授業について述べられています(2006年1月16日)。小堀さんも逆風に抗しながら実践をしているのです。昨夏、小堀さんたち小・中・高・養護学校の教師と渡辺治さん(一橋大学)にご協力いただいて、『日本国憲法に出会う授業−子どもたちはどう学んだか』(かもがわ出版、2005年)という本も出版しました。逆風のなかで教師たちがどのような試みをしているのか、それによって子どもたちがどれほど豊かな学びを広げているか、明らかにする必要があると思ったからです。

 過った教育が人びとを侵略戦争に駆りたてました。再び戦争のできる国にしないために、市民の、とりわけ、子どもたちの学びは、学問の研究成果にもとづいてすすめられるべきです。歴史学の成果に依拠し、真理を探究する戦争についての学びは、新たな発見や世界の広がりをもたらすことでしょう。戦争によって苦しめられ、いまも苦しむ人びとがいる。戦争とわたしたちの生活は密接にかかわりがある。それらを知ることで、わたしたちは次に何をすべきか、考えられるからです。
 そのような学びを助けるために、逆風のなかで子どもたちとの学びあいをすすめている教師たちをサポートするために、何ができるのか。わたしも考え続けたいと思っています。

◆久保田 貢(くぼた みつぐ)さんのプロフィール

愛知県立大学教員。専門は社会科教育学・平和教育・教師教育学。
著書として、『教室で語りあった戦争責任』(単著、かもがわ出版、1997年)、 『近現代史生き生き 発表・紙上討論の授業』(単著、日本書籍、1999年) 、『共同でつくる総合学習の理論』(共著、フォーラム・A、1999年) 、『ジュニアのための戦後史入門』(共著、平和文化、1999年) 、『日の丸・君が代にどう立ちむかうか』(共著、大月書店、2001年)、『日本国憲法に出会う授業 ― 子どもたちはどう学んだか』(共著、かもがわ出版、2005年)がある。

 


 
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