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今週の一言

 

労働者の権利を守るために
−ホクエツ福井不当解雇事件−

2006年9月11日
吉川健司さん(弁護士)
1 はじめに
 憲法27条は勤労権,勤労条件基準の法定を定め,憲法28条は労働基本権を保障しています。
 しかし,現実には,労働者に対する不当解雇は後を絶ちません。
 このような不当解雇を制限する判例法理として,現在の裁判実務では,解雇権濫用法理が確立され,また,整理解雇においては,いわゆる「整理解雇の4要件」が必要とされています。そして,2003年の労基法改正により,解雇権濫用法理が明文化されました(労基法18条の2)。

「支援する会」結成総会で挨拶する万所さん
 しかし,これらの法理が簡単に確立されたわけではありません。無数の不当解雇事件において,労働者と弁護士が解雇の不当性を訴え,解雇権の濫用であることを粘り強く主張し続けた結果,1970年代になって,やっと,多数の裁判例で認められるようになったのです。
 また,多数の裁判例によって認められるようになったといっても,それで安心できるわけではありません。使用者側は,今でも,これらの法理を骨抜きにしようと,裁判で様々な主張を行い,あるいは労働者の権利を制限する法律を作ろうとしています。だからこそ,「不断の努力」(憲法12条)によって,その法理を守り続けることが必要になります。
 福井において,万所さんという労働者が,整理解雇の無効を求めて裁判に訴えた事件も,そのような「不断の努力」によって労働者の権利を守ろうとした事件の一つでした。

2 事件の概要
 この事件の発端は,土木工事用コンクリート二次製品を製造・販売する会社であるホクエツ福井が,当時,組合の執行委員長であった万所さんを2002年3月8日に整理解雇したというものです。
 この2002年の解雇は極めて乱暴なものでした。約60名の従業員に対し,わずか2週間の希望退職募集を行った後,予定した人員削減数8名に僅か2名足りないという理由で,万所さんに対し整理解雇を通告したのです。しかも,解雇通告した3月8日は,万所さんが委員長をしている労働組合が,会社に対し,人員削減の根拠となる経営状態を明らかにするよう求めて団体交渉をし,さらに団体交渉を継続することを約束した翌日のことでした。
 整理解雇が僅か2名であったこと,しかも,1名は元組合員で,1名が組合委員長である万所さんであったということから,そもそも不当労働行為としての解雇が疑われるものでした。

3 第1審での勝訴判決
 この不当解雇に対し,福井において,弁護士5名により弁護団が結成され,5月1日のメーデー当日に,賃金仮払いおよび労働者の地位保全を求める仮処分の申立を行い,4回の審尋を経て,11月1日には,労働者の地位を認め,賃金仮払いを命ずる仮処分決定が出されました。
 あきれたことに,ホクエツ福井は,万所さんを解雇した後に新規従業員の募集を行っており,そのような事実が審尋において明らかにされた結果,仮処分決定は,整理解雇の4要件のうち,使用者側の主張が認められやすい「人員削減の必要性」さえ否定したのでした。
  しかし,ホクエツ福井は,賃金の仮払いは行ったものの,万所さんの職場復帰は拒否しました。
 その後,2002年12月11日,福井地裁に本訴を提起し,2003年10月29日に勝訴判決が出されました。しかし,実質審理が僅か6か月しかなく,こちらの主張立証活動が不十分なものにとどまったため,整理解雇の4要件のうち「被解雇者選定の妥当性」,すなわち,万所さんを被解雇者として選定したことに問題はないという認定がされた,極めて問題のある判決でした。そして,この認定が,後に,万所さんにさらなる追い打ちをかける根拠にもなりました。

4 第2次整理解雇


労働組合で訴える万所さん

 万所さんと弁護団は,仮処分,第1審判決と勝利を重ねましたが,ここから会社による反撃が本格化しました。
 まず,仮処分,第1審においてホクエツ福井の代理人だった弁護士がいなくなり,ホクエツ福井の親会社であるホクエツの顧問弁護士と東京のいわゆる経営法曹(経営者側の代理人として活動する弁護士のこと)が代理人になりました。
 さらに,控訴審の第1回弁論が開かれる前日である2004年2月29日,ホクエツ福井は,わずか1名の余剰人員を理由に,万所さんに対し,2度目の整理解雇を通告してきました。第1審判決において認められた被解雇者選定の妥当性を最大限に利用して,万所さんが,再び被解雇者として選定されたとして,整理解雇を行ったのです。

5 控訴審でのたたかい
 控訴審は事実審の最後であり,ここで負ければ,万所さんの職場復帰は極めて困難となります。
 そのため,まず,弁護団に,新たに2名の労働事件に詳しい弁護士の方に入ってもらい,弁護団の態勢を強化しました。次に,第2次整理解雇の4要件と,第1次整理解雇の4要件のうち,被解雇者選定の妥当性の要件について,詳細な主張立証を行いました。提出した準備書面の総ページ数は132頁に及びました。
 第1回弁論が開かれてから1年以上が経過した2005年4月19日,それぞれの主張をふまえて,裁判所から主張整理案(当事者の主張を裁判所が整理したものであり,そのまま判決に使用されることが多い。)が示されました。しかし,その内容は,明らかに万所さんの敗訴を示唆する,会社側の主張に偏ったものでした。
 しかし,万所さんの苦労を考えれば,弁護団が諦めるわけにはいかないと,改めて弁護団活動の立て直しを図りました。
 まず,裁判所の考えを改めさせるため,弁護団であるべき主張整理案を作成することにし,約5か月を費やして,会社側代理人とも書面のやり取りを行い,最終的に,A3用紙で10枚に及ぶ主張整理案を作成しました。この主張整理案は,判決に一部取り入れられただけでしたが,裁判所に,弁護団の主張を簡単に否定することは難しいと思わせるのに役立ったと考えています。
 さらに,改めて追加立証を検討し,最終的には85号証まで提出しました。
 その後,万所さん本人の尋問と,会社側証人である工場長の証人尋問を行った後,116頁の最終準備書面を提出して,2006年2月27日に控訴審は結審しました。

6 勝訴判決と万所さんの職場復帰
 控訴審判決は,2006年5月31日に言い渡されました。第1次整理解雇も,第2次整理解雇も無効である,という完全勝訴の判決でした。
 ホクエツ福井は,上告審において勝訴することは困難と考えたためか,上告も上告受理申立もしなかったため,控訴審判決が確定し,万所さんは,7月には職場に復帰することができました。

7 最後に
 万所さんは,ホクエツ福井で初めて結成された労働組合の初代委員長です。委員長になる前は,工場長に次ぐ責任者である総括班長になるほど有能な労働者でした。その万所さんが,ある時,会社からリストラ対象者の選定を指示されました。労働者が労働者を首にする手伝いをすることに疑問を感じた万所さんは,労働者の権利を守るために労働組合を結成することが必要だと考え,仲間を集めて労働組合を結成しました。
 しかし,労働組合結成前後の会社の嫌がらせは酷いものでした。万所さんを総括班長からヒラの労働者に降格し,給料等の査定において,常に全労働者の中で最低ランクの評価を行い,その上,万所さんの些細なミスを大げさに取り上げ,懲戒処分を行いました。
 このような仕打ちに耐えて,万所さんは,職場で労働者の権利を守るために組合活動に打ち込みました。万所さんがこのような労働者だったからこそ,会社は,職場で労働組合の影響力が広がるのを恐れて,不当な整理解雇を2度にわたって行ったのだろうと思われます。
 私が弁護士を志したのも,万所さんのように不当な扱いを受けている労働者の権利を守りたいと考えたからです。だからこそ,この事件に弁護団の一員としてかかわり,万所さんの職場復帰を勝ち取ることができたことをうれしく思います。
 最後になりますが,解雇がいかに労働者にとってつらいものかを明らかにした,「ルポ解雇−この国でいま起きていること−」(島本慈子・岩波新書・2003年)を読んでみて下さい。憲法に保障された労働者の権利を守ることは,今こそ,切実に求められているのです。

◆吉川健司(よしかわけんじ)さんのプロフィール

弁護士。福井県において、高速増殖炉もんじゅ訴訟、福井女子中学生殺人再審請求事件、市民オンブズマン福井、北陸戦後補償弁護団、集団サラ金借入事件弁護団、各種労働事件などに携わる。「九条の会・ふくい」の呼びかけ人世話人も務める。

 


 
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