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「憲法音頭」の誕生と消滅

2006年9月4日

和田 登さん(児童文学者)
終戦直後の昭和21年11月、新憲法が公布され、翌年の5月3日、それが施行されたことは周知のことであるが、その施行日に発表された歌の一つが「憲法音頭」である。作詞・佐藤ハチロー、作曲・中山晋平。依頼主は憲法普及会。以下普及会“と呼ぶことにするが、この普及会なるものは、たてまえは半官半民であるが、実質はマッカーサーを頭にした占領軍の後ろ盾によってできた政府色の濃い顔ぶれとなっている。もう少し踏み込んで紹介すると構成は、こんな具合いである。
貴・衆両議員院が評議委員、評議委員の中より理事を選出。別に政府、学識経験者、及びマスコミ界からの人物も加えて、最高決議機関たる理事会を構成し、さらに理事の互選による常任理事による常任理事会を設けて執行機関とした。その会長が芦田均であった。
普及会は、いかにしたら新憲法の理念や具体的内容を国民に普及するかを検討した結果、講演、映画、紙芝居、カルタ、放送劇等々、考えられるだけの手段をもってのぞんだ。その一つとして、親しみやすい歌を作って全国の人々に歌ったり、踊ったりしてもらおうとした。その結果、「リンゴの唄」で人気をはくしていたハチローと、大衆歌謡の大御所、「カチューシャの唄」や「東京音頭」の晋平に目をつけた。依頼を受けた一人は、さっそく仕上げた。
一番だけここに記すと、このようなものである。

 おどりおどろうか チョンホイナ あの子にこの子
  月もまんまる 笑い顔
    いきな姿や 自慢の手振り
      誰にえんりょが いるものか ソレ
        チョンホイナ ハ チョンホイナ
          うれしじゃないか ないか
            チョンホイナ

四番まであるが、あれ?と思うほど作詞の中身には、民主主義とか新憲法から拾ったような生硬な言葉は出てこない。しいてそれを表している言葉といえば、一番では“誰にえんりょがいるものか“。二番では“古いすげ笠(中略)さらりとすてて/平和日本“ぐらいである。ここにはハチローのできるだけ概念化を避けようとする詩人の強い意志が読み取れる。
さて、普及会誕生後1年経って会の解散にあたりまとめた活動報告である「事業概要報告書」によると、日本全体で約百万人が歌ったとあるが、ぼくの調査ではその記憶をもっている者が、殆どといっていいぐらい無いのである。いったいなぜなのだろうか。
それを二つの観点から追ってみたい。まずは日本と米国との関係による政治情勢の変化。二つ目は、歌と大衆とのミスマッチ。それは時代環境とその中で暮らす人々の情感とのズレということが出来る。この後者の事項から述べていきたい。ぼくは敗戦のとし国民学校4年生であった。したがって当時大衆に親しまれた歌は殆どあげることが出来る。「リンゴの唄」はもちろんのこと、「青い山脈」「異国の丘」童謡「里の秋」「みかんの花咲く丘」等々。その音源はラジオだった。ことし1月に亡くなった川田正子の自伝によると、「みかんの花咲く丘」にしろ「里の秋」にしろ、NHKの電波に乗ったとたん、放送局にジャンジャン電話がかかってきたほど人々の心をひきつけた。
国民は、とくに都会は空襲でやられたりしたうえに、飢えに苦しんでいた。そんな状況でも、心うつ歌に対しては電話をかけた人々がいたのである。そのようなことを考えると、国を挙げて普及しようとした「憲法音頭」がみんなの記憶から消滅してしまったのは、その歌のもつ力が及ばなかったということでもある。
「青い山脈」は昭和24年から映画の主題歌になったこともあって、21世紀のいま現在でも歌われる名曲だが、歌そのものに力があったのだというしかない。内容には新憲法の精神がそれとなくもられている。
さて、歌のもつ力よりもぼくが重視するのは、一番目にあげた政治情勢の変化である。普及会が動きだしている間に、米ソ対立がきわだってきて、その陰でマッカーサーはルーズベルトの死を契機に本国の指令に基づき、あからさまに新憲法を邪魔にしだし、日本の組合等の赤化を防御して、ソ連から守る砦として日本を位置づけようと懸命になりはじめた。そうなると米国にとって、憲法9条が足を引っ張る存在になってきたのである。それを受けてか、普及会そのものも、1年間で解散する運命になり、「憲法音頭」の普及どころではなくってきた。政府は警察予備隊から保安隊、そして自衛隊へと進む道を開いていく。そうした道筋を踏まえて考えてみると、「憲法音頭」の消失の軌跡が見えてくる。
ぼくが、昨今の世界情勢をみて思うことは、米国の軍隊とともに歩む市場原理主義が世界制覇に向かい、その失敗続きを知ってしまった以上、日本が米国の再編に組み込まれていくことは、日本の運命を奈落の底に突き落とす結果を招くことになるということ。理想主義的にすぎるかに見えるこの国の憲法は、逆に最も現実的有効なものであると強く思うこの頃である。詳しくは拙著「踊りおどろか“憲法音頭〜その消えた謎の戦後”」(本の泉社・7月号刊)をお読みいただきたい。
なお、「憲法音頭」のレコードは、幻であったが平成5年にTBSの筑紫哲也ニュースの特番でスタッフが中山晋平記念館の雑庫からそれを探しあてた。それを元に晋平の故郷長野県では9条の会等がそれを歌い、踊ることで憲法意識を高める運動がはじまり、全国に波及しつつある。前掲著書には、CDもついているのでご利用いただければありがたい。

◆和田登(わだのぼる)さんのプロフィール

児童文学作家。『虫』で第1回日本児童文学者協会短編賞、『悲しみの砦』で第1回塚原健二文学賞を受賞。主な作品に『キムの十字架』(明石書店)、『星空のバイオリン』(PHP研究所)、『想い出のアン』(岩崎書店)など多数。2006年7月、『踊りおどろか「憲法音頭」 その消えた謎の戦後』(本の泉社)を執筆。

 


 
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