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薬害を憲法の視点で検証する

2006年8月28日

片平洌彦さん(東洋大学教授)
―――片平さんは薬害の問題についての研究を長くなさってきました。同時に「『九条の会』のアピールを広げる科学者・研究者の会」(九条科学者の会)の事務局長として憲法9条を守るとりくみの先頭に立っておられます。その問題意識をお聞かせください。
(片平さん)
薬害の問題というのは、まさに国民の生命と健康に関わる人権の問題であり、人権尊重を謳う憲法の問題です。
私は大学院生の時にスモン病の問題に関わることになり、その後30年以上、薬害エイズ、ソリブジン、薬害ヤコブ病、重症型薬疹、薬害肝炎などの問題を研究テーマにしてきました。国民の生命や健康よりも企業活動が優遇される施策が新自由主義の思想を背景にすすめられていますが、憲法「改正」の動きもそれに関わっています。薬害の原因は構造的で根深い問題がありますが、その科学的解明を行い、薬害問題の解決をはからなければならないと思っています。
私は薬害エイズの発生防止に貢献できなかったことを大変悔しく思い、その後薬害の発生を防止するために設立された市民団体「薬害オンブズパースン会議」の活動にもたずさわっています。

―――これまで多くの薬害がくりかえし発生してきていますが、片平さんは根本的な問題点をどのようにお考えでしょうか。
(片平さん)
私は政府の責任が決定的に重大であると考えています。政府は国民の生命と健康を守るために、薬の安全性の確保のために、製薬会社を規制する権限と責任があるのです。この点から薬害の原因が究明され、再発防止策がとられなければなりません。
ところが、最近ではこのような政府の責任を果たさせる方向に逆行する動きもすすめられています。例えば、新薬承認審査など薬事行政の中核業務が独立行政法人の仕事になってきているのです。しかも、その運営費などを製薬会社に依存して行われるのです。これでははたして薬の安全性の確保を重視する審査が行われるのか疑念が生じます。薬害イレッサはこのような背景の中で起こったのです。

―――憲法は国民の権利を守るために権力を制限するものとして存在しており、薬害の問題も憲法の視点で検証される必要があるということですよね。
(片平さん)
私は、国民は「健康に、平和のうちに生きる権利」が保障されなければならないと考えています。この考え方の根本には「生命の尊厳」という考え方が据えられるべきです。そして、その前提に「平和」があるのです。
かつて「健康権」という考え方が唱えられたことがありましたが、これもこのような考え方によるものでした。今日でも、例えばWHO(世界保健機構)で「健康とは完全な肉体的・精神的、及び社会的に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。到達しうる最高基準の健康を享有することは、人類・宗教・政治的信念又は経済的もしくは社会条件の差別なしに万人の有する基本的権利の一つである。」という考え方が唱えられているのも同様の考え方からです。

―――片平さんは証人などとして裁判にも関わってこられましたが、司法の場で憲法25条の生存権という国民の権利を具体的に確立していくようなことも重要だと思いますが、いかがでしょうか。
(片平さん)
スモンの裁判では証人として5回法廷で証言しました。その福岡判決は有名です。判決はアメリカの独立宣言、ヴァージニア州憲法や患者である原告の「神様お願い、3日間の健康を私に与えてください」という訴えを引用する格調の高いものでした。
憲法上の権利を具体的に確立していくとりくみは大変重要です。

―――片平さんは「『九条の会』のアピールを広げる科学者・研究者の会」(九条科学者の会)の事務局長をなさっています。科学者・研究者の運動の全体をとりまとめておられますが、その状況をお知らせください。
(片平さん)
2年前の「九条の会」のアピールはそれを読んだ者に何らかの行動を求める内容になっています。自ら志願して「九条科学者の会」の事務局長になり、これまで2回の集会を開催するとともに、「九条の会」アピールへの科学者・研究者の賛同を呼びかけ、現在1800人を超える方々に賛同していただきました。
今後は各大学ごとのネットワークを広げていきたいと思っています。また、科学者・研究者としての特性を活かし、国際的なネット−ワークを広げていきたいと思っています。特に現在世界はテロと戦争の悪循環に陥っており、これを断ち切るためにアメリカの科学者とのネットワークづくりが必要ではないかと考えています。

―――ありがとうございました。最後に補足があれば仰ってください。
(片平さん)
日本国憲法は先の戦争の惨禍への反省から生まれたことを忘れてはならないと思います。そのように考えた時、私は憲法13条に明記された、国民の「幸福追求権」が大事だと思っています。憲法12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と謳っていますが、私は国民が不断に努力しなければ国民の自由や権利は失われてしまうのだと理解しています。

―――ありがとうございました。今後とも連携させていただければと思います。

◆片平洌彦(かたひらきよひこ)さんのプロフィール

東洋大学教授。専門は社会医薬福祉学、薬害・難病問題、脂質栄養問題。
『かけがえのない生命(いのち)』(編著。2001年、桐書房 )、『改訂版 やさしい統計学』(著書。2000年、桐書房 )、『増補改訂版 ノーモア薬害』(著書。1997年、桐書房)など著書多数。
国民医療研究所副所長、薬害オンブズパースン会議副代表、「『九条の会』のアピールを広げる科学者・研究者の会」(九条科学者の会)事務局長なども務める。

 


 
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