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経済学と憲法

2006年7月17日

二宮厚美さん(神戸大学教授)

私は経済学徒の一人として、法学館憲法研究所編『日本国憲法の多角的検証』の執筆に加わった。私に与えられたテーマは、改憲の動きの背後にある経済構造の変容を明らかにすることであったが、安請け合いにすぎるというそしりを覚悟で執筆を引き受けたのは、法学分野に多少の恩返しをしたいという個人的事情があったからである。個人的事情というのは、私が経済学を専攻とする傍ら、若い頃には、ずいぶんと多くの法学研究者から学んできたという過去の体験をさす。
名前をあげるときりがないが、いま思いつくままあげると、たとえば川島武宣、渡辺洋三、沼田稲次郎、藤田勇、片岡昇、室井力、樋口陽一氏等の著書から多くを学んできた。これらの法学研究者で何を学んだかというと、いわゆる「法社会学」の論理である。経済学と憲法は「法社会学」を媒介にすると、さほどの距離感をもたずに結びつく。言いかえると、私にとって、「法社会学」は経済学を法学に架橋し、憲法を身近なものにする助っ人役だった。上に例示した法学研究者は、法社会学の知見を前提にした法解釈論を展開して、法律には素人の私などには、法学と経済学も同じ社会科学的論理性を共有している点において、たいした違いがあるわけではない、といった一種の安心感のようなものを抱かせたものである。これはただし、ひとえに法社会学の先人たちが経済学に精通していたということの結果にほかならない。
戦後日本の先駆的法学者は経済学を自家薬籠中のものとして法社会学を発展させ、これが私のような一介の経済学徒をして憲法を身近にさせる大きな薬になった、私が法学分野に負う恩とはこのことである。そうするとこんどは、その恩返しは、まず経済学の側から法学の成果を習得してはじめて果たされる、ということになる。恩返しのためには、私自身が、経済学のなかにひきこもるのではなく、法学の研究成果を学ばなければならないわけである。当面の課題は改憲問題にあるから、私はあらためて憲法を学ぶことにして、たとえば憲法の制定過程に関する著作などに目を通した。
ただし、憲法のすべての条文を手当たりしだい何もかもすべてを学び直す、というわけにはいかない。一個人のやれることには限界がある。そこで私は、経済学がいま直面する新自由主義的構造改革にかかわる憲法の条文に焦点を絞り込んで、改憲問題に取り組むことにした。改憲の背景にあるのは「新自由主義的帝国主義」の動きである。「新自由主義的帝国主義」の分析は現代経済学のメインテーマである。だとすれば、経済学は「新自由主義的帝国主義」と「日本国憲法」が衝突するところから、改憲に込められたネライを明らかにしなければならない。自民党新憲法草案を例にとって具体的にいうと、新自由主義的帝国主義と戦後憲法とが衝突して火花を散らすのは、9条の平和条項、25条の生存権条項、92条以下の地方自治条項の3つの舞台においてである。
端折っていうと、平和・福祉・自治の3つ、これらが少なくとも経済学からみると改憲問題の焦点になる。とはいえ、これら平和・福祉・自治の3つが、経済学だけではなく法学にとってもきわめて重要なテーマであることはいうまでもないだろう。なぜなら、平和・福祉・自治の3つのテーマは、戦後日本の法社会学が正面からとりあげてきたものにほかならないからである。
ところがである。ここで私が、憲法・法学分野の方々に一言いいたいのはこの点にかかわっている。改憲批判の法学的発言で、これら平和・福祉・自治を包括的に論じたものがどれだけあるか、私の知る限り、畏友渡辺治氏ほかわずかばかりの憲法研究者を除いて、さほど多くはないと思う。この点、私は大いに不満である。恩返しの変わらぬ気持ちをもっていうのだが、ここは法学者にがんばってもらわなければならない。改憲問題には、法学研究者による新自由主義帝国主義の法社会学的展開が不可欠であり、これを今後期待したいと思う。

◆二宮厚美(にのみや あつみ)さんのプロフィール

神戸大学発達科学部教授。
専攻は経済学、社会環境論。
主な著書として『日本経済の危機と新福祉国家への道』『現代資本主義と新自由主義の暴走』(新日本出版社)、『自治体の公共性と民間委託』(自治体研究社)、『構造改革とデフレ不況』(萌文社)、『生きがいの構造と人間発達』(旬報社)、『構造改革と保育のゆくえ』(青木書店)、『福祉の新時代をつくる』(共著、かもがわ出版)など。
憲法問題でも『憲法25条+9条の新福祉国家』(かもがわ出版)を出版。法学館憲法研究所編『日本国憲法の多角的検証 〜憲法「改正」の動向をふまえて』の論文「グローバル化のなかの日本経済と改憲の経済的基礎」も執筆。


 
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