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自民党新憲法起草委・舛添氏の改憲論とその問題点

2006年6月26日

山内敏弘さん(龍谷大学教授、法学館憲法研究所客員研究員)
さる6月10日に、長崎放送と長崎新聞社が共催して、憲法シンポジウム「護憲?改憲?〜今、長崎で考える」が開催された。自民党の新憲法起草委員会事務局次長として「新憲法草案」のまとめ役をした舛添要一参議院議員が改憲の立場から、そして私が護憲の立場から問題提起をして、その問題提起を踏まえて、土山秀夫・元長崎大学学長(県九条の会共同代表)と相良勝美弁護士(県弁護士会憲法委員会委員)が加わって、パネルデスカッションを中村登志哉・長崎シーボルト大学教授の司会の下で行うという内容のものであった。集会の内容は11日と18日の長崎新聞に掲載されたが、ここでは当日のシンポジウムの簡単な紹介をして、あわせて私なりの感想を述べることにしたい。
 まず、舛添氏は、例えば憲法89条などのように日本国憲法には現状に合わない規定がいくつもあるし、また環境権や知的財産権などの新しい問題も出てきているので、これらの問題に対処するためにも、改憲が必要であると指摘した。ついで、自民党の改憲の最大の眼目が憲法9条の改憲にあると述べ、その必要性を以下のように説いた。9条に関しては、現実と条文の乖離が大きくなっている。現在の自衛隊は明らかに軍隊であり、9条2項とは矛盾している。自衛隊はイラクやインド洋に展開しているが、これを明確に裏付ける憲法条項もない。このような乖離を法律での解釈で対処するやり方はもはや限界にきている。日本では戦前から例えば撤退を転進というように事実を言葉で隠蔽するやり方がみられたが、言葉の遊びで国民をだますやり方はよくない。自衛隊を軍隊として憲法ではっきりと認めて、その上で、自衛隊の活動に対して憲法や法律で歯止めをかければよい。外国の軍隊が長年駐留するのはまともではないが、ただロシアや中国、さらには北朝鮮までも核をもっている状態の下で、日本としてもアメリカと同盟関係を結んでアメリカの核に依存せざるを得ない。日本が攻撃されたら、アメリカが助けてくれる以上、日本もアメリカに対しては応分の協力をしなければならない。憲法のために国民があるのではない。国民の生活を良くし、世界の秩序維持のために憲法がどうあるべきかを考えることが必要だ。
 舛添氏のこのような問題提起に対して、私は、以下のように述べた。9条と現実の間にある乖離の責任は誰にあるのか。その責任を不問に付して、9条を現実に合わせようとするのは、法治国家では認められない逆立ちした議論である。しかも、9条の改憲は単に自衛隊を憲法的に認知することにとどまらない。それは、集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊のイラクでの軍事行動を容認することになる。9条の改憲は、さらに日本社会を軍事優先の社会に改変することをも意味している。自民党の改憲案は軍事裁判所の設置を規定しているが、これは司法の領域でも軍事優先の論理がまかり通ることを意味している。また、現在の憲法下では徴兵制は違憲とされているし、近年の有事立法でも業務従事命令を罰則をもって強制することはできない。9条の改憲はそれらを可能とすることをねらっている。改憲案が「公益及び公の秩序」を理由として人権を制限できると規定しているのも、国防目的とか軍事秩序によって人権を自由に制限できることをねらっている。さらに改憲案の前文には愛国心が書かれているが、しかし、国は国民を愛する責務をもつという規定がなくて、国民は国を支え守る責務をもつというのは、本末転倒した議論である。憲法は、本来国家権力に対する制限規範であるにもかかわらず、改憲案では、国民の行為規範に逆転している。憲法9条は、これまでも、日本の平和を維持する上で大きな役割を果たしてきたし、アジアの諸国民に対しても「不戦の誓い」としての意味をもってきた。このような9条をいまこそ護り、活かすことが必要である。
 以上のような問題提起を踏まえて、土山氏と相良氏が加わって行われたパネルデスカッションでは、まず相良氏が以下のように述べた。9条と現実の乖離というが、乖離はむしろ9条と政府との乖離であり、また政府と市民との間の乖離ではないのか。自民党の改憲案では「公共の福祉」が削除されているが、この言葉は、憲法13条の「個人の尊重」を踏まえた人権相互の調整原理であることが留意されるべきである。また、土山氏は、被爆地で核兵器廃絶に取り組んできた立場から、自衛隊が軍隊になったならば、それは内閣総理大臣も統制できないものになりかねないこと、それはアメリカの要請に従って集団的自衛権を行使するであろうことを指摘した。さらに、9条の解釈改憲は限界にきているが、しかし、9条があることで自衛隊員はこれまで外国人を一人も殺さなかったのであり、結果的にはよかったと述べた。
 シンポジウムでは、長崎新聞と長崎放送が今年四月に県内で行った憲法意識調査の結果についても議論が交わされた。舛添氏は、改憲を支持する意見が過半数になっていることについて、それは最近の国際情勢が大きく影響しているとすると共に、9条については改憲反対が多数を占めている点については、今後国民を説得していくしかないと述べた。土山氏は、世論調査は回答者の憲法に対する理解度によって異なり、憲法についてよく知っているほど改憲反対の意見が増える傾向にあることを指摘した。また、相良氏は、憲法の条項を個別的に聞くのではなく、改憲に賛成か反対かと一般的に聞く調査のやり方はよくないと指摘した。私は、9条改憲には反対の意見が多数であることを評価すると共に、9条改憲の理由として自衛隊の存在を明記すべきという意見が多いことについて、9条改憲のねらいがむしろ集団的自衛権の行使にあることを訴えていく必要があると指摘した。
 当日の会場は、600名ほどの参加者があって大盛況であった。参加者の中には、舛添氏の顔を見たいという人も少なからずいたようであるが、県の「9条の会」の会員なども多数参加していたようである。会場からの質問も多様で、被爆地長崎の市民の人たちの憲法問題に対する関心の強さが感じられた集会であった。
 ちなみに、舛添氏の議論で見過ごすことができないと思ったのは、氏が命をかけて法の支配を守りたい」と述べたことである。これは、立憲主義のためには9条改憲が必要だという議論と相通ずるが、私は、それならば、まずなによりも法の支配をこれまで無視してきた自民党政権の責任を問うべきであるということ、そして、自民党の改憲案では、「普通の国」の憲法には見られる戦争宣言(武力行使の決定)を誰が行うのかについての規定もなく立憲的な歯止めが全くないこと、従って、自民党の改憲案は「法律の支配」を守ろうとするものであるかもしれないが、「憲法の支配」を守ろうとするものでは決してないことを指摘した。この指摘に対する舛添氏の明確な回答は残念ながらなかった。時間的な制約があって、国民投票法案について議論することはできなかったが、それでも、改憲問題について、そのねらいがどこにあるのか、またどのような問題点があるのかについて参加者の間で一定の理解は得られたのではないかと思われる。このようなシンポジウムを全国各地で行っていけば、今の平和憲法を護り、活かすことの大切さがより多くの市民の間で再認識されるのではないかと感じた次第である。

◆山内敏弘(やまうち としひろ)さんのプロフィール

1940年山形県生まれ。
獨協大学教授、一橋大学教授を経て、現在、龍谷大学法科大学員教授。
法学館憲法研究所客員研究員。

【主な著書】
『平和憲法の理論』(日本評論社、1992年)、
『憲法判例 を読みなおす』(共著・日本評論社、1999年)
『有事法制を検証する』(編著 ・法律文化社、2002年)
『人権・主権・平和』(日本評論社、2003年)
『新現代憲法入門』(編著・法律文化社、2004年)


 
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