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今週の一言

 

全世界の国民に「恐怖と欠乏からの自由」を!

2006年6月12日

熊岡路矢さん(日本国際ボランティアセンター代表理事)
<*法学館憲法研究所講演会「日本国憲法を多角的に検証する」(2006年5月28日)での熊岡さんの発言をまとめたものです。熊岡さんには法学館憲法研究所編『日本国憲法の多角的検証 〜憲法「改正」の動向をふまえて』に「世界平和と国際協力NGO」という論文をご執筆していただきました。(法学館憲法研究所事務局)>


白血病のこども(患者さん)の治療支援・お見舞いをする熊岡さん 
〜 2004年2月、イラク・バグダッドの「こども教育病院」で。当時のこどもたちの生存率は、2−3割以下でした。劣化ウラン弾が原因と想定されています。

私は国際協力NGOにおいて、地域開発活動のほか、紛争地域での人道支援活動に携わってきました。戦争や内戦、あるいは自然災害などで被害が生じているところでの支援協力活動を行っています。
ところで、国際協力NGOが紛争地域などで人道支援活動をすると言うと聞こえは良いのですが、実態は、そう単純で「きれいごと」ではないということもお伝えしたいと思います。
戦争自体が、そもそも戦争で儲かる人々によって始められることが多いのですが、紛争地域においては「人道支援」や「復興支援」の名目で、“戦争で儲ける”ようなことがしばしば行われるのです。その点でだまされないように、分析能力を高めて、情報を批判的に見て行ってください。 NGOのレベルでも、戦争にまったく反対せず、紛争地域での「人道支援」で、寄付を集め、名前を売ることもできます。被害者の犠牲において。そこで自分たちのプレゼンスをあげようということが現実におこり、一種の競争となっています。ビジネスと変わらない動機、論理も働いています。このように紛争自体、そしてそこで行われる「支援」にも、政治や経済が入り込む複雑な実態を見つめまた見抜いていただきたいと思います。繰り返しになりますが、紛争地域での国際協力や人道支援は素晴らしいことだと単純に理解していると簡単に騙されてしまいます。国際協力や人道支援という名前での、戦争協力が行われることもあるのです。

国際協力活動をしていると、日本でよく言われる表現として「All Japan」という言葉があります。紛争地域の被害者に対しては政府機関、企業、NGO・市民団体、アカデミズム、ジャーナリズムが一体となって、さらには自衛隊も一丸となって、つまり「All Japan」で支援するほうが合理的で、その地域の人々に役立つと言われることがあります。日本の国は聖徳太子の時代から「和の国」と呼ばれ、みんなで一緒にやろうということに対して反対しづらいところがあります。ところが、私たちの実際の活動の経験からすると、かならずしも「All Japan」がよいわけではまったくありません。
特に人道支援においては、中立性、公平性、政府政治からの独立性が求められます。私たち国際協力NGOは自国の政府からも明確に独立して活動をすればこそ、中立性の基盤における信頼をえて、活動を続けられるのです。自国の軍隊や軍隊のような組織からは明確に距離をおいて活動しなければ、政府・軍隊の、言い換えれば「国益・政府益」によって動いていると思われれば、危険は大きく増します。NGOが自国の政府や軍と一緒に活動すれば、多くの場合それは政治的な意味合い・思惑があると現地の人たち、政治勢力などから受けとめられるのです。紛争地域における複雑な政治的関係もふまえ、NGOはあくまで政府・政治(自国政府とも相手国政府とも)とは距離をおいて対応しなければ危険なのです。また、そうしなければNGOの非政府機関としてのアイデンティティが失われることになるのです。
日本という国では、いろいろなものを全部包み込み、そこからはみ出る者をはじき出したり、「非国民」として阻害する傾向が強いと感じています。2004年4月にジャーナリストやボランティアの3人がイラクの武装勢力に拘束された時、政府やメディアの論調にも影響されて、多くの日本人は3人を助ける方向で動くというより、捕えられた3人を非難しました。しかも、その世論をリードしたのは一部の政治家や外務省幹部でした。
日本が太平洋戦争をすすめていた時に「オール・ジャパン」の大政翼賛会がつくられ、戦争に反対する意見が圧殺され、「神がかりの」絶望的な戦争に突入していきました。その歴史の教訓を今日あらためて思い起こし分析する必要があると思います。


戦車に隣り合って暮らしているイラクの子どもたち

私たちは湾岸戦争(1991年)の際の米軍が使用した劣化ウラン弾の影響によって白血病になってしまった子どもたちの医療を支援してきましたので、イラク戦争の問題も核の問題も無関心ではいられません。
アメリカはイラクを攻撃した理由として、@イラクが大量破壊兵器を開発している、A9・11「大量殺傷」事件を実行した勢力とフセイン政権が結びついている、Bイラクには民主主義がない、ということを挙げましたが、どれも理由になっていません。@Aは「そうではないこと」が証明されています。2003年の開戦前の時点でも、ほぼ明らかでした。Bは「民主化」を理由に戦争をしかけるなら、世界中が戦争になってしまいます。それ以上に、「民主化」を軍事力で実現できるなどというのは、粗暴で馬鹿な(非現実的な)主張です。ともかく戦争をしたいから、戦争で儲ける人々が、戦争をしかけたというのが適切な見方としか思えません。

アメリカがイラクを攻撃した本当の理由、目的は何でしょうか?
第1に、これは一般的に指摘されていますが、アメリカはイラクの石油資源の確保を重要な目的にしていたということです。その証拠に、2003年3月―4月の空爆で、イラクの政府関係機関の建物(保健省、教育省まで)がことごとく破壊されたのに対し、イラク石油省の建物は無傷で残りました。バグダッドで、無傷で残った石油省の建物を見たときに、実感しました。
第2に、2003年初頭の段階で、フセイン政権が貿易をユーロ本位にしようとしていたことに対して、アメリカのドル本位の経済・貿易を潰すものと嫌悪したということです。
第3に、アメリカの現政権の政策の中心にはイスラエルを守るという課題があるということです。イスラエルが周辺国で一番恐れていたのが、イラクのフセイン政権でした。
第4に、そもそも戦争は、軍産共同体にとって“儲かり”「必要だ」ということです。これが開戦の最大の理由かもしれません。かつてアメリカのアイゼンハワー大統領は退任演説(1961年)で軍産共同体に注意しなければアメリカは方向を誤ると述べました。アメリカ政府の中枢には、軍部および軍事産業とそれに結びついた金融機関が強い影響力を持っています。ブッシュ政権のトップは、概ねこれら企業や金融機関の役員であったりします。この軍産共同体の影響力は、米国がベトナム戦争で敗れたときに弱まったのですが、湾岸戦争以降に蘇ってきているのです。
このようなアメリカのイラク戦争を日本政府は支持しました。日本はその前にアメリカがアフガニスタンを攻撃した時に自衛隊を派遣し、インド洋上での軍用機への注油などアメリカを支援しました。その政策以降、日本人のアジア・中東地域での安全は決定的に失われることになってしまいました。


攻撃で破壊されたイラクの家屋

私は世界の平和と紛争の予防・解決のためには、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」という日本国憲法前文の目標を積極的に能動的に実現する努力が必要だと思います。いま、世界の平和を実現していく上で日本国憲法では不十分だという指摘があります。しかし、私は日本国憲法に問題があるのではなく、世界の人々が「恐怖と欠乏からの自由」をかちとるための日本の努力が不十分なことが問題であると思います。世界の人々が「恐怖と欠乏からの自由」をかちとる努力に協力することこそが、世界の平和と紛争の予防・解決への有効な道だと思います。
第一次大戦・第二次大戦で日本人もアジアの人々も大変大きな犠牲を強いられました。アジアの戦争では、わたしたちは被害をもたらした側でもあります。その大きな教訓の中で生まれた日本国憲法に「恐怖と欠乏からの自由」が掲げられたということを、いまこそ確認したいものです。

◆熊岡路矢(くまおかみちや)さんのプロフィール

1980年、日本国際ボランティアセンター(JVC)の創設に参加。以来世界各地で国際人道支援活動に携わる。1995年から日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事。主な著書として「カンボジア最前線」(岩波新書)、「NGOの挑戦」(めこん社)がある。東京大学大学院「人間の安全保障」特任教授。明治学院大学平和研究所研究員。


 
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