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今週の一言

 

世界の児童労働をなくそう

2006年6月5日

堀内光子さん(児童労働ネットワーク代表、前国際労働機関(ILO)駐日代表)
―――堀内さんは児童労働廃止のとりくみの先頭に立っておられます。日本国憲法前文には「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とありますが、児童労働廃止のとりくみはこのことを具現化する重要なとりくみの一つだと思います。
まず世界各地の児童労働の現状をお聞かせください。
(堀内さん)
児童労働は多くの国で法律で禁止されているのですが、実際には世界中でたくさんの子どもたちが働かされ、学校に行けない状態にあります。今年5月にILO(国際労働機関)がグローバルレポートを発表しましたが、全世界で約2億1800万人を数えています。そのうち有害な仕事をしている子どもは、過半数の1億2600万人もいます。児童労働の中には、劣悪な環境での長時間労働、借金の肩代わりとしての強制労働のほかに、買春や人身売買による性産業への従事、麻薬売買など犯罪行為への従事などもあり、それは深刻な問題となっています。東南アジアのメコン川流域やネパールなどでは頻繁に児童の人身売買が行なわれ、子どもたちに対する性的な搾取もあります。
この問題は発展途上国の問題だと思われがちですが、決して日本も無関係ではありません。日本人は発展途上国で作られた様々な製品の消費者となるわけですが、もしかしてその製品は子どもたちの手で作られているかもしれません。多国籍企業が児童労働の問題を認識し、パートナーとして撤廃に取り組んでいる例もあります。子どもの人身売買においては、日本人は買う側にいるのです。児童労働の問題は子どもの権利の問題であり、人間の尊厳に関わる問題なのです。

―――児童労働がなくならない原因をどのようにお考えですか。
(堀内さん)
やはり貧困の問題が大きいです。児童労働の数は全体的には減っているのですが、サハラ砂漠以南のアフリカ地域では増えています。それはその地域の貧困の問題が大きな原因です。そもそも国や地域が貧困なため、子どもが学校に通えずに働かされているところもあります。また学校がないために、いけずに働いているケースもあります。
地域によっては子どもも働くのは当たり前という感覚のところもあります。児童労働にはさまざまな原因があります。絨毯の生産地では子どもがその仕事をしていることがありますが、手編みは子どもの小さい手がよいと思っていることにも原因があります。さらにいえば、法律を確実に実行する力が弱いことも原因です。

―――児童労働廃絶のためのILOや日本政府、NGOのとりくみをお聞かせください。
(堀内さん)
これまでILOは、就業最低年齢を定める138号条約や最悪の形態の児童労働をなくすための取り組みを直ちに始めることを求めたILO182号条約を採択し、各国での批准と国内法の整備を促進しています。98年には「仕事における基本的権利及び権利に関するILO宣言」も採択され、ILO加盟国はこれら2条約を批准していなくても、児童労働をなくすという原則を尊重・促進・実現する義務を負っています。このILO宣言は、企業の社会的責任(CSR)の労働分野での基準でもあります。また児童労働撤廃国際計画(IPEC)を92年から推進し、子どもを児童労働から引き離し、非公式学校に通わせるなど児童労働撤廃の実際の活動を行っています。
いま、2015年までのに全世界の子どもたちが初等教育を受けられるようにする国際的なとりくみがありますので、各国での児童労働廃止を実現していくためには、このとりくみとリンクさせる、すなわち教育問題とリンクさせて取り組むことも重要だと思っています。
この問題について世界のNGO、労働組合、使用団体、政府が取り組んできています。取り組みに向けた政治的意思、問題意識の向上、特に貧困削減と子どもへの教育拡大での活動が、4年前に比べて全体で11%、有害な仕事で26%の児童労働の減少に寄与しています。
日本の労働組合も支援をしています。日本のNGOは主に啓発に取り組んでおり、開発支援も始まってはいますが、これから本格的になろうかという状況と私は思っています。日本政府は、アジアでの児童労働の地域会議の支援や国連人間の安全保障基金を通じてのアジアの国々で人身売買予防や犠牲者の社会への再統合・エンパワーメントなどの支援を行っています。ただ、日本政府のODA(政府開発援助)の中で、特に教育支援で、児童労働の視点が明確に入ればよいと思います。

―――日本国憲法は戦争放棄・戦力不保持を謳いながら日本と世界の平和の実現をめざしています。それは「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ」ることを追求していくことによって実効あるものになっていくと思います。児童労働廃止についても日本政府がより積極的にとりくむ必要があると思うのですが、いかがでしょうか。
(堀内さん)
先ほど指摘したとおり、もう少し、日本政府が、将来の健やかな大人を育むという意味でも、子どもの人権、尊厳に関わる途上国の児童労働問題にもっと積極的に取り組まれたらと思います。
なお、日本政府のODA(政府開発援助)については、国民的理解を広げていく努力も必要だと思っています。たとえば、若い人たちが老後の年金不安を感じているような今外国を支援する必要性の理解を得ていかなければなりません。

―――最後に、日本国憲法の平和主義についての堀内さんのお考えをお聞かせください。
(堀内さん)
平和を実現していくためには、日本一国だけでなく、特に途上国の貧困や差別をなくしていく地道な努力が必要です。現在のグローバル経済は、市場原理だけで動いていて、その結果国の間での格差も大きくなっています。公平なグローバル化は、人々が安心して暮らせる基盤だと思います。これは、世界の平和及び協調が危うくされるほど大きな社会不安を起こしかねない不正、困苦、及び窮乏の現状が世界にあることから、ILO(1919年創設)の憲章は、世界の恒久平和は社会正義を基礎としてのみ達成できるという信念を謳い、第二次世界大戦中の1944年に採択されたフィラデルフィア宣言では、「全ての人間は、人種、信条又は性に関わりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発達を追求する権利を持つ」ことを確認していることからも、明らかでしょう。
これまでいろいろな国に行き、多くの外国の方々とはお話しをしたり、途上国の現地での支援事業を行ってきました。紛争後の復興過程の国にも行きましたが、そのときつくづく思ったことは、日本では武力紛争はなく、平和であるということです。平和がいかに大切かということです。平和でないと人々の安定した生活がないということです。これは日本など先進国も含めて世界中の人々が協力してがすすめていかなければなりません。まさに先のフィラデルフィア宣言が指摘しているように、「一部の貧困は全体の繁栄にとって脅威」となるからです。すなわち一部でも平和の脅威があれば、私たちも平和な生活を享受できなくなるかもしれないのです。平和な状態を壊すことなく、維持し、広げていかなければなりません。
同時に、私たちは紛争が生じてしまった時のことも考えなければならないと思います。特に紛争後の復興過程で人々への生活支援は不可欠だと思っています。これも重要な人々の安全保障だと思います。

―――世界の人々が恐怖と欠乏から免れ、平和に生きることができるよう、児童労働がなくなっていくことを願っています。本日はありがとうございました。

※ 以下の写真はすべてILOより転載したものです。

日干し煉瓦を作る子ども(パキスタン)

学校に通う以前サッカーボールを作ってい
た子どもたち(パキスタン)

絨毯を織る子ども(パキスタン)

農場で働く子ども(ニジェール)

少年兵士

買春させられている少女

朝4時屠殺場で働く子ども(ニジェール)

織物をしている子ども(エチオピア)

石切り場で働く子ども(インド)

見習い工センターで訓練を受けている元児童労働の少女(インド)

建設現場で働く子ども(ベトナム)

道端でキャンデーを売っている少女(ペルー)

◆堀内光子(ほりうちみつこ)さんのプロフィール

前ILO駐日代表。児童労働ネットワーク代表。 
1966年労働省に入る。84年から88年まで国連職員。93年から96年まで日本政府国連代表部公使。96年から2000年までILO事務局長補(アジア太平洋担当)。その後駐日代表に就任。現在は代表を退き、文京学院大学客員教授。労働・人権で幅広く講演をする。


*6月12日は「児童労働反対世界デー」です。この日の前後に児童労働ネットワークは様々なイベントを実施されます。詳しくはこちらへ。


 
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