法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

憲法の理念を語り広げる

2006年4月17日
坂本修さん(弁護士・自由法曹団団長)
伊藤真(法学館憲法研究所所長・伊藤塾塾長)
(伊藤)
本日はお忙しい中、ありがとうございます。
(坂本さん)
伊藤さんも全国各地で憲法の講演をされ、忙しいでしょう。
私も伊藤さんの講演を聞きましたが、なかなかいいですよね。本当に勉強になりました。私もいろいろなところで話しをしていますが、あまり若い人にお話する機会が多くないんです。若い人たちの反応などを聞かせてもらえませんか。

■憲法は一人ひとりが幸せを追求するための道具

(伊藤)
私は日常的には大学生など法律家を志す人たちにいろいろな法律をお教えし、そして最近は全国各地からのご依頼をいただき、いろいろなところで憲法のお話をしています。
いま結構多くの若い人たちが、やっぱり日本も他国から攻められた時のために軍隊が必要ではないかと思っていると言われますが、私は必ずしもそのように感じていません。私は中学生の皆さんにお話しすることもあるんですが、話しの後に感想文などを見せていただくと、やっぱり軍隊は必要ではないかという中学生はほんのわずかしかいません。憲法の平和主義を訴えればわかってくれるという実感を持っています。
先日立命館宇治高校でもお話しをしたんですが、生徒の皆さんがその後、より理想的な憲法をつくろうと案を出し合い、みんなで投票されました。憲法は権力を縛るものだという私の話しを生徒の皆さんがよく理解された上で、大変水準の高い討論をされました。
(坂本さん)
なかなか興味深いですね。中学、高校の生徒にちゃんと話が伝わるというのは、私にとっても励ましになります。
(伊藤)
たしかに、大学生とか、あるいは若い国会議員も、憲法の平和主義に対して冷めた見方をしていると言われます。しかし、彼ら・彼女らには平和のことなどについて話題にする場がめったにありません。まして真正面から議論するような機会はほとんどないようです。かつては学生運動などがあって、熱く語り合う機会がありましたが、最近はそうではありません。社会の問題を突っ込んで考える機会がない中で小林よしのり氏の主張などに接すると、若い人たちがそれに惹かれてしまうところがあるようです。しかし、憲法の平和主義は日本と世界の平和の方向性を指し示しているのだということを説いていくと、多くの人たちがわかってくれます。
(坂本さん)
私は太平洋戦争を知る世代なんです。兄は学徒出陣で出兵し、特攻機が出撃する基地に配属されました。そこで重度の結核にかかり最後の病院船で帰ってきましたが死にました。戦争によって身近な人間がなすすべもなく数多く死んでいった、そういう世代なんです。
やはり私が憲法を語る思いの原点はこの戦争体験にあります。このことはぜひ多くの人たちに語り継いでいきたい。ただ、若い人たちにわかっていただくためには、話す側もいろいろ考える必要がある。その点、伊藤さんが憲法を語る切り口がいいですよね。
伊藤さんは講演で、人はみな違う、違っていい、誰もがかけがいのない人間として、個人として、自分なりの幸せを追求できるんだ、それが憲法の原点だということをさかんに仰る。初めてその話しを聞いた時は、ちょっとショッキングでした。憲法といえば、平和主義、国民主権、人権尊重ということが柱だと理解していたんですが、憲法の中核的な価値として「個人の尊重」と個人の幸福追求権がある、そこから平和主義を語っていくという話しは、なるほどと思いました。
(伊藤)
やはり、一人ひとりが自由に生きる、一人ひとりが幸せを追求する、憲法はそのための道具だと思うんです。
若い人たちには、憲法の問題というのは、実は自分自身の問題なのだということを理解していただきたいし、そのための素材を提供していきたいと思っています。

■憲法は国民が守るのではなく、権力者が守るもの

(伊藤)
ところで、最近、やはり軍隊も必要ではないかという風潮が広がってきているのも事実だと思うのですが、先生はどのように分析されますか。
(坂本さん)
それは、いろいろな要素が複合された結果だと思いますね。
第1は、北朝鮮や中国の「脅威」の宣伝の影響で、万が一日本が他国の武力攻撃にあった場合には軍隊も必要ではないかという考えが増えているということでしょう。
第2は、アメリカが世界経済の中心であり、もっとも「つよい国」だ、そのアメリカと共同歩調をとらざるを得ない、その道からはずれることは損だ、不安だ、という考えが根づよくある。
第3は、日本人の新旧の大国主義的なナショナリズムがあり、中国や韓国などよりは強い立場でいたいという考えだと思います。
第4は、時代が閉塞状況にあり、いわゆる格差社会となり、将来への希望が見えない中で、だれかをやっつけたいというような気分が広がっているということです。
このような状況に対して、憲法の価値の重要性を説く側が、実は憲法やその9条の有効性や現実性をしっかり噛み合う形で説得的に語っているかということも問い返さないといけないと思っています。
(伊藤)
そうですよね。
(坂本さん)
私はある集会で講演した時の、ある参加者の発言にすごくこたえたことがあります。その発言というのは、「あなたは、憲法や9条はよいものだという前提で話されている。しかし、私は、憲法についてはほとんど知らないので、違和感を感じた」というものでした。
いま国民の皆さんが日々の生活の中で大変な思いをしている中で、ともかくも「改革」に賛成し、そうした思いとむすびついて、なんとなく憲法改正に期待する雰囲気もあるんだと思います。その感覚もふまえ、それに対して丁寧に話しこんで憲法の価値を伝えていくことが必要だとあらためて思いました。
その点、伊藤さんの憲法の講演では、個人の尊重、幸福追求権を強調して立憲主義のことをわかりやすく説いている。これもいいですよね。
(伊藤)
ほとんどの国民に、憲法とは何か、法律とどう違うのか、などについて正しく学ぶ機会がないと思うんです。憲法は国民が守るものではなく、権力者が守るものだということがあまり伝わっていません。もっともっと国民の皆さんに憲法の考え方の基本的なことをお伝えしていきたいと思っています。

■自分の頭で考え、自分の言葉で語る

(伊藤)
ところで、先生は憲法を語り広げる先頭に立っておられますが、この課題をすすめるにあたって先生がいまお考えになっていることをお聞かせいただけませんか。
(坂本さん)
私は最近いろいろな人からつよく影響を受けています。
「九条の会」事務局の渡辺治教授(一橋大)が自由法曹団でお話しされたことはショックでした。渡辺先生には、「冷戦」終結以降、日本の知識人の社会問題への発言が減ったが、弁護士は比較的頑張っている、その弁護士の皆さんには歴史を分かつ改憲問題について理論的水準をさらに高め社会に打って出て使命をはたしてもらいたい、と言われたのです。憲法問題における弁護士の今日的役割について深く考えさせられました。
弁護士は日々裁判などで国民の人権を守る活動をしています。それは重要なことですが、改憲問題それ自体について自分の立場をきめて、語り広げるのは自分たちの活動領域ではないと考えがちなんです。私は渡辺先生の問題提起を真正面から受け止める必要があると痛感しました。
同じく「九条の会」の小森陽一教授(東大)からの問題提起もこたえました。私たち弁護士が依頼者の皆さんに憲法についてお話しをする機会をつくり、小森先生に講演していただいた後の「打ち上げ」でのお話しです。小森先生は、依頼者の皆さんには弁護士の皆さん自身が、自らの頭で考え、自らの言葉で語ってもらいたい、というようなことを仰いました。この問題提起もこたえました。一言でいえば、この課題には自分自身が逃げずにむきあわねばならないというのが今の思いです。小著『憲法 その真実―光をどこにみるか』はそうした思いをこめて書いたのです。
(伊藤)
確かに重たい問題提起ですよね。
(坂本さん)
自民党が改憲の具体的な条文案を出しましたから、これからは具体的な条文案に対して弁護士がその問題点を分析して語らなければなりません。弁護士が全国各地で憲法を語っていったら、それは大きな力になります。
自民党はこれまで何回か改憲案を出しましたが、いったん徴兵制はとらず、非核三原則を憲法に明記する案を出したことがありました。しかし、自民党はすぐにその案を取り消しました。このことはあまり論評されていませんが、こうした自民党の対応は、自民党が将来、徴兵制導入を主張したり、非核三原則を否定する可能性があることを間接自白したようなものです。このようなことを弁護士は分析し、国民に知らせることができるんです。ぜひ多くの弁護士とともにそのことを国民に語っていきたいと思っています。
(伊藤)
ぜひ弁護士の皆さんにも頑張ってもらいたいですね。

■憲法を語りあい広げる新しい力をつくる

(坂本さん)
もう一点、日本国憲法の価値を実現するとりくみはこれまでのとりくみの枠を取り払ってすすめる必要があるということです。
戦後60年間改憲に反対し、憲法9条を支えてきた人たちの努力は大変重要なんですが、いままでのとりくみの範囲に留まってはなりません。私は先日、社会的影響力のある学者の方と話しをしました。その方は自衛隊は合憲だという立場で、私の考えとは違う方です。しかし、今日の憲法9条改憲論はアメリカとともに海外で戦争をするためのものであり絶対に容認できないという点では完全に一致しました。おそらく私はこの方と自衛隊についての認識を一致させることはできないでしょう。しかし、9条改憲反対では共同歩調をとっていくことはわだかまりなく出来るのです。大異(大きな違い)はあっても「天下の大事(改憲阻止)のために共同する」ことが大事だとつよく思っています。
(伊藤)
憲法の改悪に反対する先生の覚悟が伝わってきます。私も頑張らなければならないと、あらためて思いました。
(坂本さん)
私はいま日本国憲法の価値について47年間の弁護士生活のなかで、いままで以上の自信を持って語ることができます。私は、日本国憲法はこれから半世紀くらいのスパンで考えても、天皇制の規定を除いてほぼパーフェクトな内容になっているのではないか、平和に生きるという点でも人間らしく生きるという点でも憲法は輝く指針であり、しっかりしたグランドデザインだと確信するようになりました。
いま何としても、憲法を語り広げる新しい力をつくっていかなければなりません。伊藤さんの講演活動やこの研究所の活動には大いに期待しています。
(伊藤)
本日は大変貴重なお話しをしていただき、ありがとうございました。ぜひご一緒に憲法の価値を語り広げていきたいと思っています。

◆坂本修(さかもと おさむ)さんのプロフィール

1932年秋田県能代市生まれ。1959年弁護士登録。2003年10月より自由法曹団団長を務める。
著者に『格闘としての裁判』(共著.大月書店)、『現場からの検証−司法改革』(学習の友社)、『暴走するリストラと労働のルール』(新日本出版社)、他多数。2006年3月に『憲法 その真実―光をどこにみるか』(学習の友社)を刊行。


 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]